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夢見蛇  作者: ニジヘビ
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6.昔の出来事

夢見蛇のサイファは、ミノリに夢魔たちが人間の世界に引き起こしたムカシの出来事を話して聞かせる。



 ミノリが学校でいじめられているシーンを観た後、夢見蛇のサイファは体調を崩してテーブルに突っ伏してしまった。

 「サイファ、しっかり…。水もらおうか?」ミノリは席を移り、サイファの隣で背中をさする。

 「大丈夫。わたしもまだ力不足ね…」サイファは身を起こすと深呼吸した。「わたしたち夢見蛇にもね、いくつか弱点があるのよ。

そのうちの一つは夢の中で『ゆめつみ』に見つかり、怖がられて悲鳴を上げられること。この悲鳴を聴くと、死んで消えてしまうの。

もう一つは、悪夢の元になる元体験を見ること。これはものすごく濃い夢を見るのと同じで、ものすごく暑くて汗臭いサウナの中にとじ込められるようなものなの。

 もっと精霊としての格が上がると抵抗力が増すのだけれど、今のわたしではこれが精一杯。

ごめんね、みっともないところ見せちゃって」

 「夢見蛇が怖くて悲鳴を上げると死んじゃうってこと?」

 「そう。これは何万年か前に夢魔があなたたち哺乳類に仕込んだ罠なの。わたしたちがいなくなれば、夢魔たちは好き放題できる」

 「…あなたたちがいなくなったら、この世界はどうなっちゃうの?」

 「人間は一人残らず青山さんのようになり、思い遣りややさしさ、何かを素晴らしいと感じることがなくなる。と思うわ、多分。

 だから、すてきな物語や映画も、便利な道具も発明されなくなる。人が出会えば憎しみから戦いを始め、戦いに勝つためだけの荒んだ発明ばかりになる」

 「恐ろしいことに、世界規模で、今までに何度もそうなりかけたことがあったのよ。わたしの世代だけでも6回もね」

 「その時、どうしたの?」

 「夢魔を片っ端から退治して、位の高い夢見蛇たちは『ゆめつみ』たちに協力してもらって、夢魔の勢力を鎮めたわ。

 わたしたちがヘビの姿で生まれて来るのは、あなたたち『ゆめつみ』にも夢魔にも気付かれないようにするため。わたしたちが牙を備えて毒の効果を高めて来たのは、夢魔の大量発生に立ち向かうため。

全て、わたしたちが生きて行くために必要だったからだわ」

 「じゃあさ、もしも夢魔がいなかったら、どうなってたのかな?」

 「単に毒も牙も持たなかったんじゃないかしら」

 「ヘビの姿で?」

 「そうよ。そして、のんびり寝そべって、好きな夢を鑑賞するの」

 「う~ん」

 「どうかした?」

 「そこがちょっとな…」

 「ちょっと、なに?」

 「うん。仕事ではバリバリのスーパーウーマン風なのに、プライベートでだらしないお姉ちゃんみたいで、なんだかねぇ」

 「あ~、あはは、ゲンメツさせちゃったか。否定はできないわね。

 でも、わたしはどちらも好き。『ゆめつみ』に好い夢を観てもらうために働くのも、のんびり夢を鑑賞するのも。

 さっき会うときにあなたが観ていた夢。ジャガイモを植えていた時の思い出?」

 「うん、そう。4年生の時。みんなで取れたてのジャガイモ茹でて食べて、おいしかった。ジャガイモって案外と甘みがあるのよね。あまりを家に持って帰って、夜お父さんがビールのおつまみにして、『おいしい』って言ってくれた」

 「そうか…」サイファは楽しそうに微笑みながら、背もたれに身を預けた。

 「具合い、よくなったみたい?」

 「え?うん。おかげさまで。だって、こうしてあなたと話しているのもあなたが観ている夢。その中であなたが楽しかった思い出を思い返してくれたからね。

 かなりエネルギーもらっちゃったよ。

 さ、続きやろうか」

 「…うん」

 「まあ、さっきのはひどいわね。でも、あなたがぶつけた気持ちがけっこう効いている。脈はあるわ」

 「ホントに?」

 サイファはうなずいた。「じゃあ、ちょっと訪ねて行ってみましょう」

 「どこへ?」

 「青山さんの夢の中よ。どんな風になっているのか偵察しに行くの」

 サイファはミノリとレストランを出ると、駐車場に止められていた小型のオープンカーの前に連れて来た。

 「ちょっと遠いからこれで行きましょう」

 「えー、サイファって自動車乗れるの?」

 「こう見えても夢の世界の住民よ。あなたたちが出来ることは大抵のことは出来るわ。

なんだったら龍に変身して背中に乗せて行って上げましょうか?それともジェット機や宇宙船にする?」

 「自動車でいいです。けど、今度龍になって背中に乗せてほしいな」

 「よろこんで」サイファがクルマのドアロックを解除し、ピッピっと解除音が鳴った。


 「風が気持ちいいね」天井がない車は、空が後ろに流れてゆくのが見える。ビジネス街とはいえ、目抜き通りから見上げる空は澄んだ青が目に新鮮に映る。

 「この景色と風はあなたの担当。いい演出の夢ね。わたしも好きよ、こういう感じ」


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