ずるい人と私の嘘
彼は、ずるい。
扉の音がした。彼が帰ってきたのだ。彼女はいそいそと出迎える。彼はいつものように上着を脱ぎながら、出迎える必要はないと口ではそっけない。けれど、必ず彼女の頭を撫でて、顔を覗き込んで、あの瞳で優しく見つめる。彼女がそれに顔を赤らめるのを知っているくせに。
彼は、ずるい。
抱きしめていると彼の鼓動が速くなることに私はとっくの昔に気がついている。私が彼に対してそうなる前から、彼は私を特別に見ている。でも彼自身がそれを言いたくないから、こうして私を誘惑して、私に言わせようとしている。私に、彼を欲しがらせようとしている。そして、仕方がないと、求められたからと、私を愛する言い訳にしようとしている。
わかっているんだから。
あなたがくだらない倫理感にかられて自分から求めないこと。拒否されるのが怖くて、求めようとしないこと。拒否されたら、自分の価値がなくなるなんて思い込んでいること。
だから私に言わせようとしているんでしょう。
そんな卑怯なこと考えているなら、絶対言ってあげたりなんかしない。
後悔させてやるんだから。
四月一日、私はあなたにひとつの嘘を吐く。
「私ね、彼氏ができたのよ」
微妙なかきかたしてますが作者は近親相姦とかのつもりではありません。じゃあなんでしょうね。