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戦いは、当然?

 異世界トリップの場合、大抵が剣と魔法のファンタジーに行けるのに、こんな地球と似た世界なんて。異能があるからまぁ違うか。


「じゃあ私は何?イレギュラーなの?っていうか、何で私がそんな世界を飛び越えちゃうわけ?」

「貴女はとびきりのイレギュラーです。ですから、昨日お渡しした水晶を役立てて欲しいのです」


 あの水晶玉か…。いざって時に使うんだよね。


 ん?


 あれ?



「昨日?」

「えぇ。この町は夜明けなどありません。貴女が病院を出られてから、10時間は経過しています」

「じゅっ!?」


 美形の背後にあるカーテンを全力で開けると、外は暗い。

 暗いのに、スーツを着たサラリーマンが歩いていて、早朝練習らしき中学生が走っていた。煌々と灯る街灯は、心なしか病院で見た時よりも明るい。電気の明るさだけで姿を保っている街の姿に唖然とする。


「どういう事?」

「妖魔、のせいですね」

「ようま?」

「妖怪や魔物を総称して、我々はそう呼んでいます。夜であれば彼らはより力を発揮する事ができる」


 そいつらが朝と昼を奪ったという事か。妖魔とか…和風ふぁんたじーじゃないの。


「聞きたい事が幾つかある」

「できうる限り」

「貴方は?何なの?」


 強い口調で尋ねると、美形は困った顔をした。言い淀み、しばらくの沈黙の後にぽつりと「工藤と呼んで下さい」と言った。

 明らかな偽名だし、私が知りたい事とは掛け離れている。が、それ以上の事は知る事ができないのだと、工藤の表情で分かった。彼の顔は頑なで、決意を秘めていた。


「私は…どうすれば良いの?」

「今は普通にして貰って結構です。時期が来れば、分かりますから」

「……」


 分かったような、分からないような。美形の呼び方が工藤になっただけじゃん。


「では、失礼します」

「あ!」


 まるで逃げるように、工藤は消えた。捕まえようと手を伸ばしたものの、右手は虚しく宙に浮いたまま、何も掴まなかった。


「殴っておけば良かった…」




 ***********



 家の中の片付けや、暮らしに必要なものを購入したりして日々を過ごしているうちに、あっという間に一週間は過ぎ去った。

 視覚的な時間の感覚が狂う世界で、時計と時報はものすごく大切なものだった。


 真っ暗な道を20分程歩き、私が今日から通う学校に着く。左胸の辺りに校章の刺繍された白いブラウスに、深い緑の地に白のチェック模様が入ったプリーツスカート。スカートよりももっと黒に近い色のジャケットにも、左胸のポケットに校章が刺繍されている。

 元の世界では在り来りなセーラー服だから、これは中々嬉しかった。女子高生たるもの、かわいい制服には憧れるものだ。


スカートの後ろ側に着けられた蝶々型の大きなレースリボンは恥ずかしいが。


 生徒も先生も普通。外が暗い事を除けば、至って普通の学校だ。在り来りな自己紹介をし、一年三組に配属される。中途半端な時期の転校生にさしたる不信感も無く、クラスの一員となった。

 特に後ろの席の子がかいがいしく世話を焼いてくれた。


「東鳩さん」


 後ろの席の世話役さん、もとい東鳩さんを呼ぶ。ボブカットのショートヘアにクリッとした目の、可愛い子だ。


「あー!璃夢ちゃん、また敬語っ!菜々里って呼び捨てでいいよってば〜!」

「えっと…菜々里、あの生徒会室って何処?」

「あぁ案内するよ?呼び出し?」

「みたい…」


 授業も大した進度の差は無く、むしろ前の所の方が進んでいた。そんな一週間前までは当たり前だった“いつも通りの一日”が過ぎ、さて帰ろうかと言う時になって先生から一言。生徒会室に行きなさい、だった。


「じゃあ、璃夢ちゃんは“素質”があるんだ?」

「え?何の?」

「…え?何のって、妖魔退治の…」


 それこそ「え?」何ですが。妖魔を退治する?私が?


「工藤さんと契約したんじゃないの?」

「は…?工藤さん…?契約…?」


 あいつは元の世界から無理矢理に私を連れてきて、勝手に家とか学校を決めた奴じゃないの?

 あいつと契約した覚えなんて無いし、どういった状況なのかもよく分かっていない。


「えー?生徒会に呼ばれるって事はそういう事じゃないの?」


 素っ頓狂な声をあげる菜々里。それでも訳が分からない顔をしていたら、これ以上は上手く説明できないと謝られてしまった。たぶん、この世界では当たり前の事なんだ。イレギュラーは、まず事態の把握から始めないとな。


 ここだよ、と案内された一室には、生徒会室と書かれたプレートがぶら下がっていた。


「またね」

「ありがとう」


 ヒラヒラと手を振る菜々里に、また明日と言い、引き戸に手をかける。1教室の半分ほどの大きさの教室には、机がロの字型に並べられていた。


「どなた?」


窓辺に立っていた少女が振り返る。真っ直ぐの黒髪に、切れ長の知的な瞳。着崩すことなくキッチリ着た制服。生徒会の一員であるという威厳すら備わっていた。


「本日転入してきました、絢凪璃夢です」


 一礼して入室すると、窓辺の美少女はキラキラした瞳でズズイッと近付いてきた。手を胸の前で組む姿は絵になるのだが。璃夢には、何故そんな期待に満ちた瞳で見つめられるのかが分からなかった。


「貴女が絢凪さんね?工藤さんから聞いているわ。私は東雲まほろ。生徒議会長をやっているわ」

「…会長さん?」

「えぇ。表はね。裏は、貴女と同じ祓士よ」

「…はらえし?」

「まぁ。ご存知無い?随分と昼の強い地域にいらっしゃったの?それだと祓士として力を使った事はなさそうね」


 昼の強い…。この地域は夜が強いと表現するのだろうか。はらえしと言うのは、ずっと夜が続く場所では当たり前なのか。


「祓士。夜の世界を生きる魑魅魍魎を祓う者よ。太陽さえあれば奴らは力が出せないけれど、この街みたいな夜の明けない地域は、祓士がいなければ生活できないの」


 負の感情が高まる、生き物の不調を招く、など良いことは無い。魑魅魍魎ならばそれで済むが、より強大な妖魔ともなれば凶悪な犯罪が多発してしまう。人に取り憑き、悪事を働くからだ。


「古くは陰陽師、退魔師、あるいはエクソシストなんて言われてるわね」


 その説明で納得した。東雲会長は、陰陽師という訳か。あれ?“貴女と同じ”…?


「絢凪さんもその素質を持っているのよ。人が誰でも持てるような力では無いわ。そこで!素質ある人を探すのが工藤さんのお仕事♪」


 あいつ…だから私をこんな所に。でも異世界の人間を連れて来る程、祓士不足だったのだろうか?イレギュラーなんだから、同じ境遇の人がポイポイ居るとは思えないけど。


「祓士は個人の能力によって戦い方が大きく異なるけれど、殆どの人は式神を使役して戦うわ。私もそうなの」


 今度見せてあげるわ、と微笑んだ。私の力…私はどんな力を持っているんだろう?覚醒していないってパターンなのだろうか?


「今後は祓士として活動して欲しいの。生徒会が率いる祓士のチームとして」

「え…?」


 急にそんな事を言われても、正直そんな力について今までの使用履歴も知識も皆無だと言うのに。ずっと夜が続く奇怪な世界だというのは分かったけれど、妖魔と呼ばれる存在を認知したわけでも無いし。


「工藤さんに選ばれた人は、この学校に所属する際に、生徒会の所属になるの。役職は無くとも、この学校を守るために、チームになるのよ」

「それは…断れ無い…んですよね…?」


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