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銀の弾丸なんてない  作者: 裃 左右
第二章 感染拡大
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第5話 猟犬という名の狩人

登場人物を増やすタイミングって悩みます。

 カナに会ったのは、中学生にあがってから。

 

 当時のわたしはレンズの分厚い眼鏡をかけ、今ほどあまり外見には気を遣ってなかった。 

最低限の身だしなみは一般的な礼儀として行っていたけど。人に不快感を与えず、かつ、規則を守れているなら問題はないとそう思っていた。

 

 少なくとも、わたし自身はそう思っていた。

 友達はそれほど多くはなかった、男子からは生意気だと思われていたようだし、女子からはとっつきにくそうにされていた。

 小学校のころからそんな感じだったので、客観的に見てかなり変わり者だったろうと思う。

 

 少なくとも、年齢にあった性格ではなかった。

 それでも、なぜかわたしと交友を持とうとする幾ばくかの寛大な人たちが存在したことは幸いだったと言える。例えそれが、どんな理由でわたしと一緒にいたんだとしても。

 

 中学にあがって、すぐの頃にはクラスに友達と言えるような人はいなかった。残念なことに、小学校からの友達が同じクラスに振り分けられることはなかったのだ。

 わたしは基本的に自分から、用事もなく誰かに声をかける性格ではなかった。とはいっても、孤立したいわけではなかった。ただ仲良く話したいということが、わたしにとってきちんとした用事になりえなかったのだ。少なくとも、この時には。

 

 ……今でも、なんの用事もなしに人に話しかけるのは苦手であるけれど。

 そういう自分を振り返り、少し孤立し気味だったわたしに話しかけたカナは、とても変わり者だったと思う。端的に言えばお節介だったろう。


「アンタさ、お堅い格好してるよね」


 教室で一人でいたら突然そう声を掛けられた。

 今、考えても変と言うかお節介と言うか、実質初対面の相手にしては失礼だと思う。

 その言葉に戸惑ったわたしは、平静を保とうとして少しきつめに返した。それはわたしの癖のようなものだった。


「別に貴女に関係ないと思うけど? それに誰にも迷惑掛けてるわけじゃないしね」

「ま、それはそうなんだけど。もったいないなって思って」


 それに対して、平然となんでもないように返すカナにわたしは唖然とする。


「……もったいない?」

「そ、ほら、アンタそこそこ可愛いだからさ」

「そこそこ……」

「なに、不満なの? でも、自分が絶世の美女だと思ったら勘違いにもほどがあると思うよ?」

「……それは思ってないけど」

「なら努力してみる? 絶世とはいかなくても、人生に絶望しない程度には、そうね、素直に可愛いって言われるくらいにはなれると思うよ。 なんかお堅いオーラが出てるからみんな近寄りがたいんだよね、たぶん。 人間、性格は変えようないんだから、最低でも見た目だけでも何とかしないとさ」

「はあ……」


 わたしは自分が結構、物言いがキツイ人間だと思っていた。気に入らないことがあれば、はっきり言いたくなる性格なのだが、面倒なことにそのくせ思ったことを人に言うのが苦手なのだ。気負いすぎて、気合を必要以上に入れないと口が回らない。

 言おうとすると必要以上に、言葉がキツクなってしまう。


 でも、カナはそれ以前に……素直にズケズケ言い過ぎだと思う。

気負いなんてまったくなさそうだった。悪意が全くないことも伝わるのが救いと言うか、たちが悪いと言うかなんというか。


「なにより目つき悪いのが、近寄りがたさを強調してるよね……メガネの度あってないんじゃないの? ちょうどいいからコンタクトに変えたら? みんな、メガネかけてる相手の顔ってよくわからないみたいでさ、眉毛整えてるのも、顔が整ってるのもわからないみたいで。 ま、目が馬鹿なんだと思うんだけど」

「いや、その、目つきが悪いのは元からだから」

「あ、今はそうでもないか。なに、人と話そうとするとき、緊張するほう? 緊張すると相手を睨んじゃうとかそういうこと? そ、ふうん、話をしてると、って言うより意識すると目がきつくなっちゃうんだ」

「え……」

「ん? あ、今きつくなった。うあ、やっぱり。 ……なんだ、可愛いとこあるじゃん」

「……ゃ……その」


 カナはわたしと違って、とても友達の多い娘だった。それこそ男女関係なく。

 父とはまったくちがったタイプの性格なのに、どこか父と同じものをわたしは感じていた。誰にでも分け隔てなく相手の気持ちを大事にして、それなのに自分の心を一方的に犠牲にすることがない。わたしにはそう見えていた。


 父とカナ。

 父はわたしにとって当たり前の姿だったけど、それであると同時に幼かった頃のわたしにとっては、いずれ自分がなる姿であり、この頃のわたしにとっては自分が本来あるべきと思っていた姿だった。もちろん、それは実現できなかったわけだけど。


 カナを父に重ね合せていた、と言うのは正確ではないのかもしれない。わたしは父やカナになりたかった。父のようになったわたし、をカナの中に見ていた。カナをわたしのように見ていた。

 おそらくはそういうことだったのかもしれない。わたしにとって、カナは理想で完璧な生き方だった。

 ……完璧なんてそんな人はいるはずがないのに。


 今考えてみれば、わたしはカナにとって重荷だったんじゃないだろうか。

 母が父にとって、そうなっていたように。



 *



 西の空が明るくなり始めたのを確認したぼくは、ようやく行動を始めることにした。

 

 正直、どこか眠気と疲れが残っていて、万全であるとは言い難いが仕方がないことだろう。

 いくら家の中での安全を保証されたと言っても(よく考えたらされてない)、そこで本当に爆睡できるほどにはぼくの神経は太くなかったので、だいぶ眠りは浅く、何度も目を覚ましては、気味の悪いオブジェのようなものに眺められる自分を再確認していた。

そんな状況で、万全さを自らに求めるのは酷だ。

 

 気味の悪いオブジェって女の子に使う科白じゃないけど、そこは勘弁して欲しい。まごうことなきぼくの本音なのだから。こういう状況になって、文句の一つでも言わないほうがおかしい。

 

 見るたびに奇妙に感じたのは、少しでも視線をはずすとその途端に、彼女がどこにいるのかがわからなくなってしまうことだった。一瞬前まで見ていた動かない対象を見失うと言う、ありえないはずの体験。

 なんというのだろうか、目の前にはっきりといるはずなのに、その存在感がどこか希薄なのだ。見ているときですら、それが本当に目の前にあるのかを疑うときすらある。

 それなのに、その本来の原型とはかけ離れかけているソレを、ぼくは間違いなく、彼女だと確信してしまう。

 

 どう考えても、それはぼくらが二重身と呼んできたモノに間違いなかった。

 どんなに姿がかけ離れていても、それを本人だと思う。と言う、その原則に従えば、それは間違いなく、その人物の二重身だと言えた。

 

 ただ、なんだろうか。

 どこかでなにかを決定的なまでに、致命的なまでに、絶対的なまでに。

 ぼくはなにかを間違えている。勘違いしてしまっている、そんな気がする。

 ぼくが勘違いして生きているのは、今に始まったことではないんだけど。

 

 それでも眠りが浅かったことが完全にマイナスだったわけではない。

お陰で、日が昇るに連れて、二重身がその姿を消していく光景を見ることが出来た。二重身にも活動しやすい時間と言うのものがあるのかもしれなかった。


 単純に考えれば、日暮れ、つまり逢ヶ魔時から力を増し始め、夜明けともに力を失う。と言ったところだろうか。それが一番、怪異としては標準的(スタンダード)なところだろう。

 決めつけてしまうのはよくないが、否定する理由はないように思う。

 

 振り返ってみると、樋口カナの二重身はその存在自体が消えかけていて、他の気配によって打ち消されることすらあるほどの状態だった。

まともに話も出来るか疑わしいほどに。


 ぼくとしても本人に話を聞けるかどうかは賭けだったのだが、周囲に余計な気配がないと言うだけでなく、夕暮れ時を迎えて二重身としての力を僅かに取り戻せた、と言う側面が実はあったのかもしれない。

 花火が最後の一瞬だけ激しく光るような、そんな切ないものではあったけど。

 

 対して、夜明けの光は基本的に、人外の怪物にとっては忌避の対象とされている。


実際、夜明けとともに、急速に送り犬の気配が消えていった。

この時間帯を狙い怪物達に勝負を挑むことは『狩人』でも少なくないらしい。


 ただし、夜明けのその寸前が最も、闇が濃くなる刻であるとも言われる、と巫月所長からレクチャーを受けたことがあるので、一概に夜明けを待って勝負を挑むと言うわけにも行かない場合もあるようだ。


 まあ、ぼくの場合、そこまでぎりぎりの戦いがしたいわけではない。目的が達成出来ればいいのであって、命を賭けた死闘に心を躍らせる阿呆ではないのだ。

可能なら十分に日が昇ってから行動したいくらいだ。

 

 いや、その選択も不可能ではない。むしろ、そちらが最善手だろう、とは思う。

 それでもぼくは、時間が遅かったがために彼女を、大神アスカを助けられなかったと言う結末を迎えたくはない。一刻も早く、彼女を助けたい。

 そう思い、ぼくは自分の家の扉を開け、飛び出そうと。


「やっほー、……おっはー」


 ……開けられてしまった。

 しかも、いきなり挨拶されてしまった。緊張感なく。


「って言うか、あなたが来るんですか」


 カジュアルな動きやすい服装に身を包んだ彼女は、いつものようにその上から白衣を羽織り、いつものようにとびっきりの笑顔で、いつものようにその鋭く輝くほどに白い犬歯を見せ、魅せるようにして……ぼくの目の前に現れた。


「当たり前だよー、車持ってるの、実質『猟犬』じゃうちぐらいのもんだからねっ」


 そう言って、彼女はぼくの肩をバシバシと叩く。


「いやー、久しぶりだね。遠野っち。 2週間ぶりかな?」

「たった2週間ですよ、キツキさん。 前は『遠野っち』じゃなくて『とーの様』呼ばわりだったと思いましたけど」


 彼女は名を有卦(ゆうけ)キツキ。

 うちの事務所の最後の戦闘要員だ。

彼女は自らを『狩人』ではなく『猟犬』と呼ぶ。


 自身を『狩人』と自称する赤霧先輩も、そして、ぼくの最もパートナーとして組むことの多い捕食者である軋呑ハミも、本来は『狩人』ではなく『猟犬』と呼ばれる立場にあるらしい。

だが、他称ではなく、自らを堂々と『猟犬』と言い切るのは彼女以外に他に知らない。

 自らが、狩人に使われる犬である、と言い切るのは彼女をおいて他にない。


 そう、実際にはうちの事務所にいる狩人は、正式(・・)には二人のみ、巫月所長とぼくだけなのだ。言うまでもなく、ぼくの方は形ばかりの狩人であるわけだけど。


「にしても、なぜキツキさんがここに?」


 どうやって僕の家の鍵を開けたのか?

なんて今さらなことは聞かない。彼女には、そんなもの一切通用しないのだ。一度、侵入を許してしまえば、いつでも中に入ることが出来るその性質故に。


「いやさっ、うちってば本当は別のバイトだったんだけど、いきなり電話で『しょちょー』に頼まれてさ。 仕方なーく、しぶしぶ泣く泣く無断欠勤なのさっ」

「そこは連絡して休んでください」


 キツキさんは、事務所の仕事(バイト)中は巫月所長を、しょちょーと怪しい発音で呼ぶ。仕事バイトの時間外だと、下の名前でちゃんづけにする。

公私をきっちり分けて働いていると言えるのかどうかは、それぞれの判断に任せたい。


「かったいなぁー、遠野っちは。 そんなんだから彼女ができないんだぞっ」

「余計なお世話ですよ、連絡を入れるのは社会常識です」

「かったるいなぁー、社会ってのは。 しょちょーの事務所ぐらいのテンションでいけよー、『働きたいときにおいで』ぐらいの器量の深さを見せようぜ」

「それじゃ色々と生活が成り立たなくなりますから。 従業員の気分であちこちの店が閉店してたらいやでしょう。 ……特にガソリンスタンド、が」

「かっらいなぁー、遠野っち。 どう考えても冗談だよ、うちが本気でそんなこというわけないでしょ?」

「もしかして、無駄に最初の一言目の科白、あわせようとしてません?」

「……かっ……思いつかないや。 そんなことはどうだっていいんだよ! 遠野っち!」


 いきなり切れだした、キツキさん。

 もう、うざったいなぁー!


「しょちょー、言ってたぜ。 遠野っち。 すげー焦った感じでいきなり、開口一番、『遠野が危ない、頼むキツキ。助けに行ってくれ!』だってさ。愛されてるねー、遠野っち」

「……いくらぼくでも夜に行動する愚は侵さないですよ」

「またまたー。 必要ならするでしょ、絶対にそれが必要だって判断すればさっ」

「さすがに成功する確率にもよりますけどね」


 信用もなんもあったもんじゃないな、いや、あの電話の切り方だと仕方ないのか。あれから何度も電話来てたっぽいしな。完全に無視をしたけど。

 絶対に後で怒られるな、それはもう確実に、だ。


「それにしたってキツキさんもよくそれを了承しましたね、……いつもなら断るでしょうに」

「本来ならそうなんだけどねっ。 遠野っちの危機って聞いたからね、行きたくないのはやまやまだけど、まあー、なかなかそこそこてきぱき即座に大急ぎで来たわけだよっ」

「それは有難いんですけど、キツキさんもあれですよね。……迷いはなかったんですか?」

「まーね、うちってば義理堅いからさっ。ヒトが好いって奴かもねっ」

「……言うのは無料(ただ)ですから、止めませんし突っ込みませんけどね」

「むむむっ、なに気に遠野っちは毒舌だねっ。ってよくよくしみじみ考えるといつもかなっ?」


 有卦キツキは事務所でもかなり例外的な存在だ。

 うちが事務所で保有している所員、ぼく以外はほぼすべて猟犬と呼ばれる立場にあるが、その中で実は熱心にうちの事務所で働く人材はほとんどいない。正確には働ける人材がいないのが正しい。


 うちの事務所で働くことの出来る人材は、社会に適応できることが多いので、わざわざ危険を犯してまでうちで働くことは出来る限りしない。

あくまで最低限の義務を果たすためだけに働く。


 赤霧先輩は他のことができない、ハミはしなければ飢え死にする、そういった特別な理由があるからこそ、頻繁に仕事を請け負っている。


 中には、社会復帰までのリハビリ混じりで仕事する人もいるんだけど、それは短期間での話。

誰も可能ならうちの事務所で働きたくない、そう思っている。人間の社会で普通に生きていきたい、そう願っている。


 その辺の事情はおいおいわかってくるだろうから、今は詳しくは述べることはしないけども、有卦キツキはその中でも例外的だ。

彼女は本来、人間の社会で生きていけるような存在ではない。それでも、出来る限り人間の社会で訳あって留まろうとしている


 それも一時の仮宿だけどねっ、なんて明るく言うところがキツキさんらしいのだけど、その上で「うちで働きたくない」と堂々と公言していながら、こうして時々気まぐれのように現れるようなそんな掴み所がないヒトなのだ。

 まあ、こうして現れる理由が、本当に単に義理堅いだの、おヒト好し的な理由なのかもしれないけれど。


 ……ん、まてよ。


「そうなるとキツキさん、ぼくの家に来るの遅くないですか?」


 ざっと6時間ちょいほど……もしぼくが所長に電話して、あの後そのまま行動していたら普通にもう手遅れだろう。


「ん? なにを言ってるんだ、遠野っち。うちはずっとここにいたよ?」

「はあ?」

「だから、連絡を受けてからすぐにここに来て。ざっと6時間くらい、ずっと待機してたよ?」


 ……なんだって? ようするにあれか、一晩中寝ずの番をしていたと?


「寝ずの番……はおかしいかなっ、うち、本来夜寝ないし。 今はじっちゃとばっちゃに合わせてるからアレだけどっ。 アレでアレだけどっ!」

「阿呆かっ!」

 

 ぼくがそう怒鳴ると、キツキさんは「ひぁっ」と可愛らしい悲鳴を上げた。ちょっとドキッとしたのは、なぜか感じた背徳感と共になかったことにしておく。


「……なに? びっくりしたじゃん?」


 そう不満そうに、言うキツキさん。まるで自分に問題はないといいたそうだ。


「びっくりしたのはこっちですよ。いきなり、セクハラされた女の子みたいな声を出して!

……じゃなく、一晩中ここにいたって、なんでぼくに声をかけないんですか!?」

「えー、そこはしょちょーの指示。家に居るよー、ってメールしてさ。 じゃ、家を出ようとしてたら止めてくれって言われて」

「それどころじゃないでしょう? どうして、ぼくに言って家に避難しなかったんですか!」

「避難? ……なにから?」

「なに、って……」


 なんだろう、明らかに。

 あり得ないほどの認識の差がある。

 まるで、なに一つ、昨晩危険などなかったかのように。


「――ああ。送り犬、って奴? うちが来た頃には、なにもいなかったからさ。そういう感じで、しょちょーには報告したけど?」

「……6時間待機させられたことには、不満どころか疑問も疲労もないわけですね」

「いやあ、ほんとはさ。もう寝る時間なんだけどね。 って言うか、『本来は』みたいな?」

「ああ、もう夜明けですからね」


 つまりなにか、所長の言ったとおり、ぼく以外にはまったく認識されてなかったって言うのか……あの異常事態が。


「それでキツキさんはこれからどうするんです?」

「そうだねっ、遠野っちを止めるって役目は果たしたけど、これで帰ったら意味ないからねっ。 遠野っちを車に連れ込んで拉致ってー、しょちょの前に引きずってー、思いっきりしょちょーに、やりたいことをぶちまけてもらおっかなーって」

「ぼくはなにをされるんだ!?」


 そんなわけはないはずなのに、これからすごくひどいことをされそうな気分にさせられたよ。これも一種の才能って言えるんだろうか。


「ま、これは決定事項ってことで。遠野っちには逃がす気は一切……」

「どうぞ」

「どうぞ、って言われても、連れてくからね!」

「いや、だから。 いいですよ。 連れてって下さい」

「……え」

「車に乗ればいいんですか?」

「そうだけど……えー、なんか、な」


 半端じゃないくらい不満そうにされた。

 いいじゃん、思い通りにいったんだから。


「ただ一カ所寄って貰いたい場所があるんですけど」


 不思議そうな顔で首をぐぐぐ……と傾けるキツキさん。


「なにー、コンビニ?」

「じゃなくてですね……頼み、お願いに近いですけど」

「うん、言ってみなよ。言うだけはただだよっ?」

「……ならお言葉に甘えて」


 さて、どうなるか。

 断られたら、どんな手を使ってでも逃げ出してみせる。そう決めて。

 ぼくは許されたとおり、言ってみることにした。


「女の子を一人、その安全を確保したい。 ……出来れば事務所に保護したいんですよ」


 どうなるかは、巫月所長に会わせてからですけど。と最後に添えて。

 ぼくは言った。

 返答は如何に? とぼくはそれを待とうと――。


「いいよ」

「え?」

「いいよ」


 待つまでもなく、返答が来た。

 即断、と言うよりは、ぼくが科白を言い終わる前から返答を決めていたかのように。キツキさんは口を開くタイミングを測っていたようだった。


「女の子を護りたい、ね。いいんじゃないの? ……ちょっとリスキーだけどっ」


 キツキさんはそう、犬歯をむき出しにして笑った。

 まったく、野性味を感じない明るいほのぼのとした表情で。



現在、巫月事務所の最後の戦闘要員です。他にまともに戦える人はいません。

彼女の詳細に関してはおいおい……まあ、説明するまでもなさそうなんですけど。

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