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近未来小説【国家常識判定アプリ】

作者: 虫松
掲載日:2026/04/23

「それ本気で言っているの? 」


「おまえ、常識ないな? 」


「じゃあさぁ常識判定してみようよ。」


アプリのアイコン

挿絵(By みてみん)


スマホに国家が創ったアプリに常識判定に入力する。


卒業式に国家を歌うのは常識?非常識?


【回答:常識です。】

【歌わないあなたは国民的にどうかしています。】


「ほら、当たり前じゃない。」


「こんな当たり前のこともわからない、なんてお前やばいぞ。」


「 じぁあさ。戦争に国家の兵隊として他国に人を殺しに行くのは常識?非常識?」


「えーそりゃ常識だろ」


「それは、色々問題があるんじゃない?」


【 回答:常識です。】

【自国のために他国の人を殺すのは当たり前です。】

【殺しにいかないあなたは国民として非国民です。】


スマホの画面が、やけに明るい。

白いはずなのに、どこか赤みがかって見える。


いや、違う。


自分の目が、疲れているだけだ。


「次、いくぞ」


俺は笑って、入力した。


戦争に行かないのは常識?非常識?


一瞬の沈黙。


ほんの“短い間”だった気がする。

やがて表示された。


【回答:非常識です。】

【国家の命令に従わない者は、社会の秩序を乱します。】

【あなたは危険思想の疑いがあります。】


「は?」


思わず笑う。


「なんだこれ、やりすぎだろ」


だが隣の友人は笑っていなかった。


じっと俺のスマホを見ている。


「……なあ、それ、本気で言ってる?」


「え?」


「行かないって入力したんだろ?」


「いや、普通に考えてさ——」


言い終わる前に、スマホが震えた。


通知。


【国家常識判定アプリからのお知らせ】


【あなたの回答履歴は記録されています。】

【最適な教育プログラムを開始します。】


「教育……?」


次の瞬間。


周囲のスマホが、一斉に鳴った。


ピロン、ピロン、ピロン。


教室中だ。

全員が同じ通知を見ている。


そして。全員が、俺を見た。

その目はさっきまでと違う。

妙に静かで、揃っていて、感情が薄い。


まるで、同じものを見て、同じ答えを共有している目。


「なあ」


友人が口を開く。


ゆっくりと。

噛みしめるように。


「国家を守るのは、当たり前だよな?」


「……ああ」


反射的に答えた。


違和感はあった。


でも、否定する理由も、見つからなかった。


スマホがまた光る。


【再判定】


戦争に行くのは常識?非常識?


指が、勝手に動いた。


迷いはなかった。


さっきまであったはずの“疑問”が、思い出せない。


入力。


“常識”


即座に表示される。


【回答:常識です。】


その瞬間。


胸の奥が、すっと軽くなった。


ああ、そうか。

これでいいんだ。


間違っていなかった。

最初から、

俺は、正しかったんだ。


周囲から、拍手が起きる。

誰も手を叩いていないのに、音だけが響く。


いや、違う。

みんな叩いている。


いつの間にか。

俺も、叩いていた。


パチ、パチ、パチ。


画面がさらに光る。


【あなたは優良国民です】

【国家への忠誠心が確認されました】

【次のステップへ進んでください】


「次……?」


小さくつぶやく。


だが声は、妙に大きく響いた。


教室が静まり返る。


全員が、待っている。


俺の次の行動を。


画面に、新しい設問。


国家に疑問を持つ者は常識?非常識?


一瞬だけ、何かが引っかかった。


さっきの自分。


違和感。


笑った自分。


「なんだこれ、やりすぎだろ」


あれは、間違いだったのか?


スマホが、わずかに振動する。


急かすように。

促すように。

理解しているだろう?と。


俺は、ゆっくりと入力した。【非常識】


【回答:非常識です。】


その瞬間。

世界が、完全に静かになった。


ノイズが消えた。

迷いも、消えた。

正しさだけが残った。


友人が、満足そうにうなずく。


「やっと分かったな」


「ああ」


俺は笑う。


心から。

さっきまでの自分が、少しだけ可笑しかった。


どうしてあんなことで迷っていたんだろう。


当たり前なのに、こんなに、簡単なことなのに。

スマホを握る手に、力が入る。


次の通知。


【近隣区域で不適合者が確認されました】

【通報にご協力ください】


俺は、顔を上げた。


教室の隅。


一人だけ、まだ、スマホを見ていないやつがいる。


そいつは震えている。

目が、合う。

そいつの目には、恐怖があった。


ああ。

なるほど。

あれが“非常識”か。


俺はゆっくりと、微笑んだ。


そして、入力する。


そいつの場所。

そいつの特徴。

目撃情報。


送信。


ピロン。


【ご協力ありがとうございました。】

【あなたは模範的な国民です。】


拍手が鳴る。

今度は、はっきりと。


全員が。

俺も。

強く、何度も。


パチ、パチ、パチ、パチ。


もう通報に迷いはない。だってこれは常識だから。



近未来小説【国家常識判定アプリ】 完

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