表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: ジキルぅ
第一章「搾取の記録」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/32

第6話「退職届」

月曜日の朝、蓮はいつもより三十分早く出社した。

誰もいないオフィスで、蓮は静かに退職届を封筒に入れた。白い封筒、黒いボールペン、縦書きの便箋。形式は完璧だった。

デスクの引き出しにしまって、蓮はパソコンを立ち上げた。

いつも通りの朝だった。

変化が起きたのは、昼過ぎだった。

田端商事から連絡が入った。蓮が作ったプレゼン資料の件だ。担当の鈴木部長から直接、黒川に電話があったらしい。

「篠原」

黒川が珍しく上機嫌な顔で呼んだ。

「田端商事、受注できそうだ。鈴木部長が資料を絶賛してた」

「それは良かったです」

「俺のプレゼン、うまくいったよ。お前の資料のおかげだな」

俺のプレゼン。

蓮は頷いた。「ありがとうございます」と言った。

黒川は満足そうに自分のデスクに戻った。麻衣が「さすが部長ですね」と言った。黒川が笑った。

蓮は画面に視線を戻した。

(二〇〇〇年〇月〇日、十三時二十二分。田端商事案件、受注確定。資料作成者:篠原蓮。プレゼン実施者:黒川部長。評価の帰属先:黒川部長)

記録した。

これが最後になるだろうと、蓮は思った。

就業時間が終わる三十分前、蓮は黒川に声をかけた。

「少しよろしいですか」

会議室に入って、ドアを閉めた。

封筒を両手で差し出した。

「退職届です」

黒川の顔が、一瞬止まった。

「……は?」

「一身上の都合により、来月末をもって退職させていただきます」

「待て待て、急すぎるだろ。何があった」

「特に何もありません。次のステップに進みたいと思いまして」

黒川は封筒を受け取らずに、蓮を見た。

「田端商事の件、終わったばかりだぞ。このタイミングで抜けられたら困る」

「引き継ぎ期間は一ヶ月、丁寧に対応します」

「お前、どこに行くんだ」

「申し訳ありませんが、お答えできません」

黒川の目が細くなった。しばらく沈黙が続いた。

「……考え直せ」

「考えた上での決断です」

蓮は封筒をテーブルの上に置いた。黒川はそれをしばらく見つめてから、渋々手に取った。

「わかった。ただし引き継ぎはしっかりやれ」

「もちろんです」

会議室を出ると、麻衣が廊下に立っていた。たまたまではない顔だった。

「……本当に辞めるの?」

「はい」

「なんで」

「次に行きたいところができたので」

麻衣は何か言おうとして、やめた。蓮は軽く会釈して自分のデスクに戻った。

周囲の視線を感じた。でも誰も声をかけなかった。

蓮は静かにパソコンのシャットダウンボタンを押した。

今日も、普通の一日だった。


第6話 了 


この作品が少しでも気になったら、★評価とブックマークをいただけると励みになります。次回更新の力になります。引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ