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「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: ジキルぅ
第三章「逆襲の三者連合と頂上決戦」

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第41話「断罪の残響、そしてアーカイブの彼方」

 スタジオのドアを出た瞬間、フラッシュが光った。

記者が十数人、待っていた。

「篠原さん、一言お願いします」

「帝都物産の反応についてはどうお考えですか」

「今後の活動は」

声が重なった。

高梨が手配した警察官が二人、前に出た。

「退いてください」

記者が押し返そうとした。でも動けなかった。

蓮は歩き続けた。

陽菜が隣にいた。

「あなたは英雄になっちゃったわね」陽菜が静かに言った。

「俺はただ、記録を出力しただけです」

「それが英雄的なのよ、今の世界では」

車に乗り込んだ。

ドアが閉まった。

外の声が、遠くなった。

蓮はスマホを確認した。

通知が四百件を超えていた。

大学時代の同期。前職の後輩。一度だけ会ったことがある業界の人間。

「久しぶり、元気?」

「すごいね、見てたよ」

「今度ご飯でも」

蓮は全件を選択した。

削除した。

【記録:202X年10月11日 09:14】

放送終了後の着信・メッセージ:四百二十三件。内容:全件、関係性の再構築を試みるもの。対応:全削除。

陽菜がそれを見ていた。

「冷たいわね」

「三年間、一件も連絡がなかった人間たちです」蓮は答えた。「記録しています」

陽菜は少し笑った。

「そういうところが、あなたらしい」

同じ時刻、都内の古いアパートでは。

テレビが点いていた。

ニュース番組。画面に蓮の顔が映っていた。アナウンサーが「帝都物産の不正を暴いた男」と紹介していた。

母・久子が、ソファの端に座っていた。

麻衣が床に座っていた。

二人とも、画面から目を離せなかった。

「……蓮くん」麻衣が呟いた。

テレビの中の蓮は、スタジオで淡々と話していた。記者に囲まれても、表情が動かなかった。

昨日とは違う扱いをされていた。

昨日は「妄想患者」だった。今日は「真実の証人」だった。

「お母さん」麻衣が言った。「お兄ちゃんに電話してよ。お金、貸してもらえるかも」

久子はスマホを手に取った。

蓮の番号を押した。

「おかけになった番号への着信は、お断りされています」

音声が流れた。

久子はスマホを下ろした。

「番号、変えられてる」

麻衣が顔を上げた。

「……変えたの? いつ?」

「わからない」

二人は黙った。

テレビの中で、コメンテーターが話していた。

「篠原蓮さんという人物は、これまで知られていなかった。しかし今日の放送で、彼が三年間、周囲の搾取に耐えながら全てを記録していたことが明らかになった。ある意味で、彼は最も忍耐強い告発者だったと言えるかもしれません」

久子は画面を見た。

三年間、搾取に耐えながら。

その言葉が、耳の中に残った。

そうだ。

耐えていたのだ。

自分が搾取していた間、ずっと。

「お母さん」麻衣が言った。「弁護士、また電話してくるって」

久子は答えなかった。

その時、ドアが鳴った。

ノックではなかった。強い音だった。

「〇〇です。家賃の件で」

二人は顔を見合わせた。

蓮が画面から消えた。

CMに切り替わった。

明るい音楽が流れた。

桐島コンサルの、普段は使わない会議室。

窓のない部屋だった。

高梨が来た。

書類を持っていた。

「永瀬の隠し部屋から押収した資料の一部です」高梨はテーブルに置いた。「整理が終わったものから、順次共有します」

蓮は手に取った。

一枚目を見た。

企業名のリスト。百社以上。

「帝都物産の下請け企業です」高梨は言った。「この中に、帝都物産から組織的な搾取を受けていた会社が含まれています。技術の不正転用、発注単価の一方的な引き下げ、取引継続と引き換えた機密情報の提供強要」

「全部、記録がありますか」

「物証は半分ほどです。残りは証言が必要になります」

蓮は資料を読んだ。

一枚目、二枚目、三枚目。

企業名が次々と出てきた。

そして、ある名前で手が止まった。

帝都物産の専務、水野誠一郎。

この案件全体の実質的な管理者として、繰り返し名前が出てきた。

永瀬が「顔」だったとすれば、水野はこの搾取構造の「頭脳」だった。

蓮は水野の名前を見た。

【記録照合:水野誠一郎、三年前の資料との照合開始】

三年前の資料に、この名前があった。

場所と文脈を、引き出した。

一致した。

「次のターゲットが決まりました」蓮は言った。

高梨が顔を上げた。「誰ですか」

「帝都物産、専務。水野誠一郎」蓮は資料を置いた。「永瀬会長を動かしていた実務責任者です。永瀬が『顔』なら、水野が『脳』です」

高梨は少し考えた。「永瀬の身柄を確保した今、水野が動く可能性があります」

「すでに動いていると思います」蓮は答えた。「証拠の隠滅か、国外への逃亡準備か。どちらかです」

「どちらだと思いますか」

蓮は少し考えた。

「水野は帝都物産に三十年いる人間です。会社から離れた生活が想像できない。逃亡よりも、隠滅を選ぶと思います」

高梨は頷いた。「監視を強化します」

蓮はテーブルの資料を見た。

百社以上の企業名。

一社ずつ、丁寧に。

一話ずつ、丁寧に。

「一人ずつです」蓮は静かに言った。「彼らが組織という鎧を脱ぐまで」

桐島が腕を組んで言った。「飽きないか、そのやり方は」

「飽きる、という感情が来る前に」蓮は答えた。「記録が走ります」

桐島は苦笑した。「そうか」

陽菜が窓のない部屋を見た。

「一つ確認させてください」陽菜は言った。

「なんですか」

「水野が隠滅しようとしている証拠、どこにあると思いますか」

蓮は少し考えた。

「三年前の資料に、水野専務が個人的に管理していたと思われるデータの痕跡があります。保管場所の候補は三つあります。一つ目は、帝都物産の本社から離れた場所に彼が個人的に持つ物件。二つ目は、彼の名前が出てこない法人の資産。三つ目は」

蓮は少し間を置いた。

「三つ目は、家族名義の口座です。二十三年前から継続的に送金されています」

陽菜が止まった。

「……二十三年前から」

「はい。水野には、公表されていない海外の口座があります。送金先は」

蓮は資料を一枚めくった。

水野誠一郎の名前が、また出てきた。

「これが、次の記録です」


第41話 了 


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