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「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: ジキルぅ
第三章「逆襲の三者連合と頂上決戦」

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第33話「崩壊の連鎖:三者連合の断末魔」

 貸し会議室は、狭かった。

四人が押し込められたように座っていた。テーブルが小さく、互いの息がかかりそうな距離だった。

母が最初に口を開いた。

「あんたが紹介した医者が無能だったからよ」

黒川を見て言った。

「俺のせいか」黒川が言い返した。「帝都物産のルートで繋いだだけだ。その医者を信用したのは全員だろ」

「信用したのはあんたが太鼓判を押したから」

「押してない。使えそうだと言っただけだ」

「同じでしょ」

麻衣がテーブルに肘をついた。目が赤かった。

「私、ただバッグが欲しかっただけなのに」

三人が麻衣を見た。

「……何?」石倉が言った。

「だからバッグ。あのブランドの。それだけで、こんなことになって」

沈黙。

「お前のせいで俺の人生が終わりかけてるのに、バッグの話をしてるのか」黒川が低い声で言った。

「違う、おばさんが誘ったんでしょ。私を巻き込んだのはおばさんよ」

「私が誘った? あんたが最初に後見人の話を持ち出したんじゃない」

「違う」

「違わない」

【記録照合:202X年〇月〇日 21時17分】

母の発言:「麻衣ちゃん、蓮を訴えれば財産が手に入るかもしれない」。

麻衣の発言:「後見人制度、使えるかもしれません」。

発案者の判定:両者。

蓮の頭の中で、記録が静かに整列した。

彼らがいつ、どこで、何を言ったか。何を企んだか。誰が誰を唆したか。全部、ある。

でも蓮は今、そこにいない。

「久保先生、医師免許の調査が入るかもしれない」石倉が言った。「そうなれば、俺たちも共謀罪で」

「共謀罪?」母が立ち上がった。「私はただ息子の心配をしただけよ。共謀なんて知らない」

「知らないじゃ済まない」黒川が言った。「あの場に全員いた。録音されていた」

「なんで録音されてるの」麻衣が言った。「あの女が持ってた機械?」

「そうだ」

「じゃあ、最初からわかってて来たってこと?」

「わかってて来たんだろ、向こうは」

沈黙。

「……つまり」石倉が静かに言った。「最初から、俺たちは嵌められていた」

誰も答えなかった。

答えは全員わかっていた。

でも認めたくなかった。

母が椅子に崩れ落ちた。「蓮のくせに」と呟いた。「あんな子が、なんで」

その言葉に、誰も続きを言わなかった。

黒川のスマホが鳴った。

知らない番号だった。でも出た。

「黒川誠さんですか」

男の声だった。知らない声だった。

「そうですが」

「帝都物産の法務部です。本日、弊社のデータが不正に使用されたとする告発が、捜査当局に提出されました。それに関連して、弊社の調査によれば、あなたが独断でデータを入手し使用した事実が確認されています」

黒川の手が震えた。

「待ってください。俺は三島さんに言われて――」

「弊社に三島という社員は在籍しておりません。また、弊社があなたとの間で取引を行った事実も存在しません」

「そんな、馬鹿な」

「本件については、不正競争防止法違反の主犯として、あなたの名前を捜査機関に提供しております。ご協力よろしくお願いします」

電話が切れた。

黒川はスマホを見た。

画面に「通話終了」の文字。

石倉が黒川の顔を見た。「何だったんだ」

黒川は答えなかった。

スマホのメール画面を開いた。帝都物産の法務部を名乗るアドレスから、メールが届いていた。

添付ファイルがあった。開いた。

精巧な書類だった。黒川の署名入りの書類。黒川が独断でデータを盗み出したとする、偽造された証拠だった。

「そんな……俺は指示通りにしただけなのに」

黒川の声が掠れた。

「指示通りに、やっただけなのに」

石倉が書類を覗き込んだ。

その顔が、白くなった。

「俺の名前も入っている」

二人は顔を見合わせた。

帝都物産は最初から、全員を使い捨てるつもりだった。利用できる間は利用して、不要になれば切り捨てる。その設計の中に、全員が最初から含まれていた。

母が「どういうこと」と言った。

誰も説明しなかった。

説明できる言葉が、もうなかった。

同じ時刻、桐島コンサルのオフィス。

蓮はデスクでレポートを作成していた。

瀬川商事の改善提案の続きだった。数字を整理して、グラフを作って、次の打ち合わせの資料を組み立てる。いつも通りの仕事だった。

陽菜がコーヒーを持ってきた。

デスクの横に置いた。

「ありがとうございます」

「あの方たち、今頃大変なことになっているわね」

「そうだと思います」

陽菜は蓮の隣に腰を下ろした。

「気にならないんですか」

「記録はしています」蓮はモニターを見たまま答えた。「ただ、今の俺の仕事はこのレポートです」

陽菜は少し笑った。

その時、蓮のスマホが振動した。

田中からだった。

画面を見た。

【記録:202X年10月2日 16:12】

田中からの連絡:「篠原さん、警察が黒川部長の自宅に行ったみたいです。石倉さんの方にも同時に動いたという話が入ってきました」

蓮はスマホを置いた。

ペンを置いた。

時計を見た。

16時12分。

【記録:16:12:33】

黒川誠、石倉誠。捜査機関による強制捜査、開始。

蓮はパソコンのファイル管理画面を開いた。

フォルダが並んでいた。

「黒川誠」「水沢麻衣」「母・篠原久子」「石倉誠」

四つのフォルダを選択した。

右クリックした。

「アーカイブに移動」を選んだ。

確認ダイアログが出た。「移動しますか?」

「はい」を押した。

四つのフォルダが、アーカイブフォルダの中に消えた。

画面がすっきりした。

「彼らはもう」蓮は静かに言った。「俺の未来には存在しません」

陽菜がコーヒーカップを両手で持った。

「終わりましたね」

「中間の清算が、終わりました」蓮はモニターに視線を戻した。「次が、本体です」

「帝都物産」

「はい」

陽菜は少し間を置いた。

「怖くないですか。相手は二十年の歴史がある」

「怖いという感情が来る前に、記録が走ります」蓮はレポートの続きを打ち始めた。「ただ、一つだけ違うことがあります」

「何ですか」

「今回は、一人じゃない」

陽菜は蓮を見た。

その横顔を、しばらく見ていた。

【記録:202X年10月2日 16:19】

瀬川陽菜、発言なし。ただし、呼吸のリズムが通常より穏やかになっている。

心拍数:71。通常値より4%低下。

分類:安心。

「次は、帝都物産の本体ですね」蓮は陽菜を見た。「準備はできていますか」

陽菜は答えた。

「あなたがいるなら」

それだけだった。

蓮はモニターに向き直った。

コーヒーを一口飲んだ。

熱くて、苦くて、少し甘かった。

その温度を、記録した。


第33話 了 


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