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「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: ジキルぅ
第二章「静かな助走」

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第13話「最初の案件」

転職から三週間が経った頃、桐島から初めての独自案件を任された。

「神田の印刷会社だ。売上が三年連続で落ちていて、原因がわからないと言っている。初回ヒアリングに行ってきてくれ」

「わかりました。資料はありますか」

「これだけだ」

渡された資料は薄かった。会社概要と直近三年の売上推移グラフ。それだけだった。

「足りませんね」

「そうだな。だから行って聞いてこい」

蓮は資料を持って、準備を始めた。

神田の印刷会社、株式会社マルシン印刷。

創業四十年、従業員三十名。社長は二代目の六十代男性。エントランスに入ると、古い機械の匂いがした。

応接室に通されると、社長の丸山と営業部長の岸が待っていた。

「桐島さんのところの方ですね。よろしくお願いします」

「篠原と申します。よろしくお願いします」

名刺を交換した。蓮は二人の顔と名前と名刺の情報を記憶した。

「早速ですが」蓮は言った。「売上が落ち始めた三年前、社内で何か変化がありましたか」

丸山社長が少し考えた。「変化……営業部長が変わりましたね。先代の営業部長が定年退職して、岸くんに代わった」

岸部長が少し居心地悪そうな顔をした。

「それ以外には」

「設備を一部新しくしました。あとは……特に大きなことは」

蓮は頷きながら、話を聞き続けた。一時間のヒアリングで、丸山社長が話した全ての言葉を記憶した。数字、固有名詞、表情の変化、言い淀んだ箇所。

帰り際、岸部長が小声で言った。

「篠原さん、メモあまり取らないんですね」

「頭に入っていますので」

岸部長は少し不思議そうな顔をした。

オフィスに戻ると、桐島が「どうだった」と聞いた。

蓮は椅子に座って答えた。

「問題は二つだと思います」

「聞かせろ」

「一つ目、先代営業部長が退職した際に取引先との人間関係が引き継がれていません。先代が個人の信頼関係で維持していた取引が複数あり、それが岸部長に代わってから徐々に離れています」

「二つ目は」

「岸部長本人は悪くありません。ただ、先代と同じやり方をしようとしている。時代が変わっているのにアプローチを変えていない」

桐島は少し目を細めた。

「それ、一回のヒアリングでわかったのか」

「社長が話した内容と、岸部長が話した内容のズレを整理しただけです」

「ズレ?」

「社長は取引先の名前を十七社挙げました。岸部長は同じ質問に対して十二社しか挙げませんでした。五社の認識が違う。その五社が離れた取引先だと思います」

沈黙。

坂本が「それ、すごいですね」と言った。

「普通の観察です」

「普通じゃない」桐島は静かに言った。「それが蓮のスキルだ」

蓮は少し考えた。

スキル。

ただ覚えているだけなのに、それがスキルになる。そういうことか。

「提案書、作ります」

「頼む」

蓮はパソコンを開いた。

初めての自分の案件が、静かに動き始めた。


第13話 了 


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