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第5話 怒れる魔王

「よくぞ参ったなフィリアよ。覚悟はできたか?」


 フィリアがやって来たのは、城とは真逆の町外れ。


 そこにはフィリアの他に、数百の兵士とこの国屈指の強者たちが立ち並んでいた。


 その中でも一際大柄で鎧を纏った男が立ち上がり、大きな声で話を始めた。


「皆のもの、よくぞ集まってくれた。ついにこの日が、――〝予言の日〟がやって来てしまった」


 男の名はギュピター。この国の軍事を総括する将軍である。


 そんな男がわざわざここまでやって来た事を意味するのは――


「今日、100年の時を経て〝魔王〟が復活する。そして、エンディスの街を始めとして、わが国に厄災を齎す……」


 ギュピターの言葉に、フィリアを始めとする面々は無言で頷いた。




 ルミレスの予言、〝魔王が再び現れこの地に厄災を齎す――〟




 それは、日時までも指定していたのである。




 だがこの事は国家機密。国民たちにパニックを起こさせないべく、日時の指定はせず、なおかつ『復活した魔王はほどなく倒される』という嘘も織り混ぜた。




 だが……実際には、予言に魔王が倒されるという言及はない。


 そして、晩年のルミレスは予言について頑なに話そうとしなかった。


「魔王との直接対決はこのフィリアに一任させる。我らの役割は、戦闘の余波を食い止める事である」


 ――故に彼らには、今日来る魔王の脅威に勇者抜きで備えなければならなかったのである。


「フィリアよ頼んだぞ。そなたが我らの希望なのだ」




 これまでに何度も聖剣を扱える者を探し求めてきたが、未だにそれは叶わない。


 勇者の子孫以外の者では触れる事すらできず、すり抜けてしまうのだ。


 だが肝心のフィリアも、剣に『触れる』だけでその真価を発揮することは未だにできていない。


 しかしそれでも……やらなければならないのだ。




「僕なんかのために、皆さんありがとうございます」


 フィリアは青春のほとんどをこの日のための鍛練に捧げてきた。




 ――辛い


 ――苦しい


 ――逃げたい




 フィリアには戦う動機もなければ、守りたいものもなかった。


 鍛練なんて、嫌で嫌で仕方がなかった。


 でも、今は違う。


 フィリアの脳裏に、世間知らずの少女の顔が浮かぶ。


 やたら偉そうで色んな事を知っていて、それでいて花にすら触れたことがないらしい少女。


 あの少女の事を考える度に、不思議と胸が温かく心地よく高鳴る。



 ……。




「――この命に代えても、僕が魔王を殺します」


 胸に手を当てて、フィリアは強く宣言した。










「早く帰ってこんかのぉ……」


 その頃、アルナはぽけ~っと青空を見上げていた。


 街中あちこちで賑やかに愉しげに騒がしい。


 フィリアが帰ってきたら、共に街中を巡るのも悪くない。


 アルナの中に、もはやフィリアへの殺意はない。この国を滅ぼすという理由もない。


 しかし、だ。


 それでも――呪われし〝予言〟は、必ず実現してしまう――







 黒き稲妻が、エンディスの街上空に迸る。



「なんだぁあれ?」


「ママー、あれなぁに?」



 人々は呑気に天を指さし、まるで危機感というものを持ってはいなかった。


 人々が指さす先に、何かがいる。


 天から街を見下ろすように、黒いローブを纏った少女(・・)が宙に立っていた。


 少女は顔に白い仮面を着けており、頭には牛のような角が伸びている。




 誰かが言った――



「魔王……?」





『魔王』が、眼下の街へと指を差した。


 それと同時に、黒き雷が街中へと降り注いだ。






 100年後、再び魔王が現れこの地に災厄を齎すだろう――


 街のいたるところから火の手が上がり、人々の恐怖の入り交じる喧騒が広がっていく。




 そこへ――




 宙を駆け登り、その者は『魔王』に斬りかかった。


「お前が魔王だな?」


『いかにも。この我に歯向かうというのか? 勇者ルミレスの子孫よ』


 魔王は片手でフィリアの聖剣とつばぜり合いをしながら、仮面の下で笑った。


「何がおかしい?」


『この程度か、勇者の血とやら。これでは寝起きの準備運動にもならん』


 刹那、フィリアの右頭部を魔王の蹴りが襲う。


 が、寸前に聖剣の腹で蹴りを防御。そのまま数メートル吹っ飛ばされるが、すぐに体勢を建て直し魔王へ聖剣を構える。ダメージは大きくない。


『少しはやるようだな。人間どもの身体強化魔法か』


 5年間に渡る鍛練。


 身体強化魔法と宙を駆ける魔法


 そして、他者の身体能力を『借りる』魔法。


 国中の猛者の力を借り受け、フィリアは一時的ではあるがルミレスに並ぶ力を有していた。


「予言は僕が成就させない」


『ならばやってみろ、守ってみろ、抗ってみろ!! 夢、希望、愛、その全てがいかに無力か刻み込んでやろう!』


 魔王が仕掛ける。武器はなく、拳による殴打がフィリアを襲う。しかしフィリアもそれらを見事に捌き、カウンターの一撃を魔王にお見舞いした。


 魔王の小柄な体に一条の線が走る。フィリアの一撃が魔王にダメージを与えたのだ。


 だが、傷は深くはない。フィリアが与えた傷は即座に服ごと再生し、何事もなかったかのように戦闘を続行する。


「この程度か勇者よ!」


 魔王はフィリアと応酬を繰り広げながら、真下の街へ向けて黒き雷の弾を何発も放った。


「やめろ!!」


 フィリアは即座に放たれた雷撃の前へ割り込み、剣で弾こうと試みた。しかし何発かは弾けず、そのまま街へと落下してゆく。



 ――このままでは死者が出てしまう


 フィリアの脳裏に生意気な少女の顔が過る。


 その時――雷弾は、街へと到達することなく見えない何かによって弾かれた。


『結界か? 人間どもの中にもずいぶんと腕の立つ者がいるようだ』


 ――魔王の攻撃すら耐える結界。これならば街への被害を考えず、全力で戦える。


 魔王とフィリアの応酬は激しさを増してゆく。


 魔王は魔法を入り交ぜて、近接と遠距離中距離の攻撃を巧みに使い、攻めてゆく。


 対するフィリアは、一点のみ魔王に勝る敏捷で攻撃を回避し懐へ潜り込み、着実にダメージを与えてゆく。


 魔王の傷はすぐに塞がるが、見えないだけで必ずダメージは蓄積している。


 この状況が続けばフィリアにも勝機はある。


 ……続けば(・・・)、だ。



『その力、単なる鍛練で得られるものではない。何か仕掛けがあるな?』


「だったら何だ」


『ならばこうしよう』



 魔王がパチンと指を鳴らした途端――魔王が、5人に分裂した。



『分身じゃ。さぁどれが本物か当ててみよ!』



 魔王の分身どもが、フィリアへ襲いかかる――!



 分身どもの戦闘能力は据え置き。魔法こそ使っては来ないが、フィリアはこれまで以上に劣勢を強いられていた。



「ぐっ……このままじゃ……」





 このままでは(・・・・・・)、負ける。


「はああああっ!!!」


 フィリアは更に力み、魔王の分身どもを3体まとめて袈裟斬りに裂いた。


 そして背後から迫る2体を、振り向きざまに串刺しにした。



 五体の魔王を全て倒してみせた、が……手応えはない。



『やるではないか。だが、もう――』



 魔王が、フィリアの真後ろに出現する。


 そして、振り向いたその顔を殴り飛ばした。



 この程度、先ほどまでのフィリアなら避けるか防ぐかできたはずだ。しかし、もうフィリアは――


時間切れ(・・・・)、だろう?』


「クソっ……」


 フィリアの全身を黒い鎖が縛り上げる。


 更に魔王に顔を掴まれ、もはやフィリアは呻くことしかできない。


『聖剣の力とやらを使えればまだ戦えたろうに、残念だ』



時間切れ――



 先ほどまでのフィリアは、身体強化魔法に加えてこの国の猛者たちの身体能力を借り受けるという術を施していた。そしてその制限時間は5分。




 それが切れた今、フィリアに魔王とまともに戦える力は残っていなかった。








 ……。








 ――勇者(・・)のひ孫なだけはある



 ――さすがは勇者(・・)の子孫



 ――これが勇者(・・)の血筋が為せる技か




 ひいおじいちゃんの事は大好きだった。



 けれど同時に、大嫌いでもあった。



 何をやっても勇者、勇者、勇者。




 勇者の子孫だから特別、勇者のひ孫だから凄い。


 そうじゃない。特別だったのは勇者ルミレスであって、フィリアじゃない。フィリアには予言の力も無ければ聖剣の力を扱うこともできない。


 ずっと、自分に自信が持てなかった。




 誰も『フィリア』を見てはくれなかった。





 ……あの日までは。


――なんじゃお主、料理ヘッタクソじゃのう


 ――ふむ、腕を上げたのう。これならそろそろ食えるものを作れそうじゃ


 ――花はいつ咲くのじゃ? 明日か!?






 アルナと出会って初めて、フィリアは自分がこの世界で生きていると実感できた。




 アルナだけが、『フィリア』を見てくれた。



 守りたいと、生まれて初めて思った。



「ま、だだ……!」



 フィリアは聖剣を強く握りしめる。



 ――だれが何と言おうと、今だけは――



「僕が――〝勇者〟だっ!!!」





 フィリアの決意と覚悟の宣言。


 それに、勇者にのみ扱える(・・・・・・・・)聖剣は応えた。



『何だ……?!』


 フィリアを縛っていた鎖が突如として切断される。


 そして、瞬きする間に『魔王』の首から胸にかけて深い裂傷を与えていた。


『ぐふっ……!?』


 再生が遅い。口から血を吐きながら、魔王は初めて自身の命に刃が届いた事を実感していた。


 それもそうだ。聖剣――死生剣(ミスティルテイン)は、不死の存在をも殺す神の剣。


 万物を平等に切り裂く聖剣の力〝絶対切断(ザンテツケン)〟は、時に神にすら届く。




 ――勝てる




 フィリアはそう確信し、止めを刺そうと迫る。



 その時――魔王の仮面が、地に落ちた


「え……?」


 仮面の下から現れた魔王の素顔。それは――


「アルナ、ちゃん……?」


 フィリアの手が止まる。


 命を賭してでも守りたい人。それが――目の前で血を吐いていた。


「なんで……アルナちゃんが……」


 呆然としている間に、魔王の傷は塞がってゆく。


『――よくもやってくれたな』


 耳元で魔王の怨みがましい声が聞こえた――


 と同時に、フィリアのみぞおちに熱い感覚が走った。


「ぐぶっ……?!」


『これで終わりだ』



 血に濡れた魔王の腕が、フィリアの背中から生えていた。


 フィリアはようやく、自らのみぞおちが貫かれている事に気がついた。


「がひゅっ、ごぼっ……あ、る――」



 魔王はフィリアのみぞおちから腕を引き抜いた。


 フィリアはそのまま、崩れ落ちるように落下してゆく。


『勇者の血筋もこれで潰える』


 勝ちを確信した魔王は、落ちゆくフィリアを冷徹に見下ろす。


 フィリアは特別ではない。特別だったのは曾祖父のルミレスだ。


 フィリアはあくまでも、どこまでも凡人。


 努力の果てに聖剣に認められる『勇者』となったが、そこまでだった。





 ただし――







「遅れてすまぬ、フィリア。お主は死なせはせん」




「え――」




 ――地に落ちてゆくフィリアの身体を、何者かが両腕で受け止めた。


 その者がフィリアの傷に手を当てると、不思議と痛みが引いてゆく。


「う、うぅっ……」


 フィリアの視界は、温かな海中にいるように、きらきらと優しく歪んでいた。


「ふん、泣くな弱虫め。よく頑張ったな」


「アルナ、ちゃん……? 本物?」


「本物じゃ……って我の衣で鼻水を拭うでない! ばっちいではないか!」


「うぅ、ごめん……」


「まあよい。説明は後じゃ、今は――」



 魔王アルナ(・・・・・)は、そのまま魔王偽者を一瞥し――





「――頭が高いな。誰の御前と心得る?」








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 本物アルナさん、ギリギリで間に合う。そろそろフィリアの性別がわかるかな。
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