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7:王との謁見

 しばらく待っていると、先程の門番が戻って来た。

「国王様がお会いになるそうだ。ついて来てくれ」

 そう告げる門番はやや困惑した様子だったが、それを聞いたクロードも困惑していた。アイネのあの一言で、まさか本当に王様が会ってくれるとは。やはりあれは合言葉か何かだったのではないか。

 よく分からないながらも、アイネと一緒に門番の後について城の中へ入ると、思ったより早く目的地に到着した。そこは見張りの騎士が立っている大きな扉の前だった。

「客人をお連れした」

 既に話が通っていたのだろう。門番が見張りに声をかけると、その騎士は二人を一瞥してから、今度は扉の向こう側へ合図を送る。すると扉が内側から開かれた。

「どうぞ中へ」

 そして通された広間は、やや薄暗くとても静かだった。奥には豪華な椅子が置かれていて、白ひげを蓄えた老人が一人座っている。他に人の姿はなかった。

 急な事で準備が間に合わなかったという訳でもないだろうし、それだけこれからするのが内密の話という事か。

 クロードは知らなかったが、そこはいわゆる謁見の間で、王様が外から来た客人と面会する為の部屋だった。つまりこの老人こそ、この国の国王その人である。

「お前たちは、私が呼ぶまで外へ出ていなさい」

 国王が扉の内と外に立っていた騎士たちへ人払いを命じると、どちらの騎士も戸惑いの表情を浮かべた。

「えっ、ですが…」

 騎士たちがためらっていると、国王は手の平に小さく火の玉を出した。

「なに、魔法なら私も使えるのだ。何も問題はない」

 そう言って国王は、あくまで騎士たちが残る事を許さなかった。

「はっ、失礼します」

 騎士たちが出て行くと外から扉が閉められ、広間の中には三人だけが残された。


 静謐な広間には、ひんやりとした空気が漂っている。しかし国王はこちらをじっと見つめるだけで、なかなか口を開こうとはしなかった。

 するとアイネが進み出て、先に言葉を発した。

「私の事が伝わっているという事は、あの時あの場にいた戦士たちは無事に帰れたんですね。安心しました」

 彼女がそう言うと、国王は深く頷いた。

「君が消えた後、悪魔王は君がどうなったのかを説明し、残る悪魔たちと共に姿を消したと聞いている。君と共に館へ突入した戦士たちが、その情報を持ち帰って来たそうだ」

 そう答えた後、国王は長いひげをしごきながら付け加えた。

「…どうやら本当に、英雄リオンのようだね」

 その返答に彼女の方も頷いた。

「それを聞いて、私も安心しました。これまでそう呼ばれた事は、一度もなかったので」

 その言葉に小さな棘が含まれていたのは、決して気のせいではなかった。

「…当時の君の扱いについては聞いている。人類の守護者に対して申し訳ないと思っている」

 そう言って国王は、静かに頭を下げた。

「いえ、この国や王様に対して、思うところはありません。…それに、アレを倒す事は私の望みでもある」

 まあ、そうは言ってみたものの、実際のところ。

 前世において名も与えられなかった事や、今よりも幼い年齢で悪魔殺しの道具として扱われた事や、あまつさえ後から英雄リオンなどと都合良く祭り上げられていた事に関して、さすがにおっとりした彼女と言えど何も思わない訳がなかったが、今は何も言わなかった。

 この場には、家族がいたからである。

 クロードもまた何かを察して険しい表情になったが、この場の主役は自分ではないと思い何も言わなかった。

 アイネは気持ちを切り替えて、聞くべき事だけを口にした。

「でも、だからこそ確認したい。なぜ今、地上にこれほど半魔が溢れているのか。私は初め、王都が悪魔に占領されているのかと思っていた。でもここにいるのは半魔だけで、悪魔がいない。あなたたちは一体、何をしたのですか?」

 アイネの質問に対して国王は、密かな自信をにじませて語り出した。


 悪魔たちが姿を消した後。悪魔王が根城としていた館からは、様々な実験の産物が発見された。その中から、半魔の赤子が見付かったのだ。

 時の王はその赤子を使えば、魔法の力を増やせるのではないかと考えた。時間はかかったが、彼の力は次代へ受け継がれる事が分かり、そこからはより多くの子を作らせ、王家もまたその血を取り込んだのである。


「その赤子の扱いに関しても、褒められたものではなかったのだろう。だが人類には戦う力が必要なのだ。次に悪魔王が現れた時には、決して君一人を戦わせるような事はしないと約束しよう」

 その言葉を聞いて、クロードは頼もしく思った。この人は汚名を着てでも、アイネを一人で戦わせたりしないと。

 けれど彼女から見れば、誇らしげにそう宣言する国王の姿はいっそ…、滑稽ですらあった。

「…悪魔のせいだった方が、まだましだったね」

「え?」

 アイネの呟きを聞いたクロードは驚いて彼女を見た。

 彼女は感情のない顔で、国王に語りかけた。

「この国に対して思うところはありませんが、それでも私は自分の扱いが悪くなるような情報は伝えませんでした。…あの頃は、私しか半魔がいなかったし」

「…どういう意味かね?」

 その言葉の意味が分からず、国王は眉を寄せた。

「あなたに言っても仕方のない事だけど。…王様、アレは何故悪魔たちを従える事が出来たと思いますか?」

 アイネが何を言おうとしているのか、クロードにも分からなかった。

「それは…、王だからではないのかね?」

 国王の答えは、実に人間の王様らしい答えだった。

「人間なら、それで良いのでしょうけど…」

 悪魔王は確かに上級悪魔よりも強かった。けれど上級悪魔二体よりは弱いのである。数体で囲めばより確実に。そんな者に悪魔が従うはずがない。もっと他に理由がなければ。

「アレが悪魔たちを支配出来るのは、そのように生まれついたから。アレは全ての悪魔を従える力を持つ支配種の悪魔。当然その力は、悪魔の魂を持った半魔にまで及ぶでしょう」

 国王は驚きに目を見開いた。それはこれまで信じていたものが、全てひっくり返るような不都合な事実だったからだ。

「だが、しかし、君は…」

 わずかな望みを懸けて縋るように見詰める国王へ、彼女は更なる残酷な現実を突きつけた。

「私はアレと人間の間に生まれた半魔だから、支配種の魂を持っている。それが、私がアレに刃を向ける事が出来る理由」

 つまり異常な実験の産物ではあっても、彼女は悪魔王の娘という事である。

 そう言えば領主邸では、堂々と歩き回った上に領主と戦いまでしたのに、誰も彼女について言及していなかった。あれもあらかじめ彼女が見逃すように命令していたのか。

 だとすれば、それはつまり…。

「ここに来るまでに見た半魔は、みんな支配種じゃなかった。つまり、あなたたちがやった事は、アレへの永遠の隷属を誓ったに等しい」

 ここの門番が急に話を聞いてくれた事から考えても、それは明らかだった。

「そっ、そんな…っ!」

 国王は表情を歪め、頭を抱えてしまった。

 半魔の真実にはクロードも少なからずショックを受けたが、それでもあまり心配はしていなかった。アイネが悪魔王と同じ支配種なら、そう困った事にはならないだろうと。

 彼は命令などなくとも、彼女が悪魔王と戦うなら一緒に戦うつもりだった。


「ぎゃあぁぁぁっ!」

 突然の悲鳴に驚いて顔を上げると、国王の体が炎に包まれていた。

「え?」

 あまりに唐突な惨状に、頭が真っ白になるクロード。少し目を離した隙に、一体何が起こったのだろう。まさか絶望のあまり、魔法で自殺を図ったのか。

 しかし彼が本当に驚いたのは、自分自身が国王へ向けて右腕を突き出している事に気付いた時だった。

「…え?」

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