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クリスマスのメッセージ

作者: 耕路

 街のはずれの介護施設の玄関にクリスマスツリーが飾られたのは、12月に入ってすぐのことだった。介護施設の玄関は大きな一枚ガラスの意匠で、自動ドアの内側のスペースに飾られたツリーは外からもよく見ることができた。

 きらきら光る球やデフォルメしたトナカイ、星形の飾りがツリーの枝に下げられて、巻き付けられたLEDの青色の明かりが点滅していた。

 建物の外のテラスで車椅子に座った男性高齢者が外の風景を眺めていた。付き添いの職員はその男性に話しかけていたが、老人はうつろな表情であいまいに頷くだけだった。

 日射しはあったが、冬の午後の光線は弱く、職員は老人のパーカーのファスナーを喉元に上げた。そして、老人に話しかけた。

「前田さん、息子さんから連絡あって、あした急用で来られなくなったって」

 その言葉を聴いても老人は表情を変えず、黙っていた。

 歩道を近くの保育園の園児が保育士に引率されて、歩いてきた。子供の賑やかな声があたりに響く。それを見る老人の表情が心なしか和んだようだった。小さな帽子をかぶった園児の列が車椅子の老人の前を通る。

 すると、列の後ろを歩いていたひとりの男の子がとことこと老人の前に歩いてきて、

「おじいちゃんは、サンタさんなの?」

 と、老人に尋ねた。

 前田老人は、顎ひげを生やしていた。男の子はサンタクロースとの相似に気づいたのだろう。付き添いの保育士が、すみません、と笑って謝りながら、男の子の手をひいた。

 手をひかれた男の子はもう一度訊いた。

「おじいちゃんはサンタさんなの?」

「そうだよ」

 前田老人は、にこにこと笑って男の子に応えた。

 日射しがかげってきた。

「さあ、前田さん、お部屋にもどりましょう」

 そう職員は言って老人の車椅子を押した。

その翌日から、気温が下がり、すっかり冬の天候になった。

 一週間後、前田老人は誤嚥性肺炎で亡くなった。家族とは疎遠になっていた老人には高額な資産があった。その資産は生前の取り決めのとおり、難治性の子ども専門病院へ寄贈された。

 クリスマスイブの夜、保育園へ通う男の子は、自宅の窓から夜の空を眺めていた。すると、低い高さのところをトナカイが牽く橇が動いていた。手綱を手にしているサンタクロースは男の子の方を笑顔で見ていた。

「あっ、あのおじいちゃんだ!」

 男の子は驚いて母親を呼んだが、そのときには暗い空に星が光っているだけだった。

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