与えられた仕事
3柱が互いで話し合って言えるため居心地が悪い。
いざなみも視線を部屋の右から左まで動かし続けており、声をかけるべきか悩んでいるようだった。
このままでは何の意味もない。生まれた意味を、仕事とは何か、妹とはどうあるべきか。
一歩を踏み出し板の向こう側へ声をかける。
「先ほど自我が生まれた神格。伊邪那岐と申します。こちらは妹の」
「伊邪那美です。」
「おっ!」
こちらが名乗ると、王を自称していた存在がこちらに意識を向ける。
見えているわけではない。ただ、体に力がこもったことから、上位存在に対する自己防衛でそう考えた。
先ほどまでの騒がしさは消えた。
ー無意識ではあったがこの時、いざなみをかばっていたらしい。
3柱も言っていた。彼女がいる方の腕に力がこもっていたと。
なんとも恥ずかしい思い出だな。
「ああ、ごめんね。客だなんてめったにないものだから。ましてや新しい神なんて。」
「御中主、客は早くここから出ていきたいようだ。仕事を教えよう。」
「オレたちのせいで長引いたんだけどな。」
また喧嘩するのかと考えたが、誰も声を出さなかった。
「君たちにはね、生命体が生きていける場所を、国を創ってもらいたいんだ。」
何を言っているのか理解ができなかった。
生命体が生きていける場所、それは…
「ここではないのですか?ここには神々が生きています。」
いざなみが自分と同じことを言った。神は生命体だ。
少なくとも生きている。であればこの場所で終わりではないのか。
「ああ、間違ってはいないだろう。だが君たちに創ってもらう国はここではいけない。生命体とは神以外の存在なのだ。もっと弱く哀れな存在だ。」
「御中主を含め色んな神が星を、ここ以外の土地を創っている。しかしどこにも生命体は生まれていない。ここに生まれる存在は神のみだ。それ以外は生まれていない。」
「そこで別天津神の間で考えたのだ。神以外の存在を認める神が必要だと。生きていけるように支えてあげる神が必要だと。」
「だがこれまでの神は理論はあっても行動ができなかった。できたとしてもあまりにも一瞬。意味がない。」
「土地の理論は出来ている。生命体としての在り方も出来ている。神とは違った存在の生き方だ。あとは実行するだけ。君たちの仕事はそれだ。実行すること。土地を創り、生命体を見届けよ。」
この宇宙には様々な星がある。他よりも早く回るもの、熱いもの冷たいもの、大きいもの小さいもの。確かに生命体は存在しない。生まれたとしても次の世代は生まれない。
それを自分たちにやってほしいと、創れと、認めろと、存続させろと。
ずっと難しいことだ。王は別天津神で考えたといった。
つまり、彼らは出来ないんだ。その後の神も出来なかったんだ。
しかし、それが仕事だと言われた。ならばやりきらなくてはいけない。
いざなみを見る。君たちにはいざなみも含まれている。彼女といられるのは心が安らぐが、嫌であるなら変えてもらう必要がある。自分の不安を振り払うようにいざなみは笑っていた。
ーそれは心からの笑顔で不安は一切なかった。
うれしかったんだ。先代たちと同じく一緒にいられることが。
どんなに難しいことでも、どんな結末があっても。
[君たち]であったことが俺たちはうれしかったんだ。
仕事を受け入れると外に行って矛を受け取れと言われた。
それが土地を創れるらしい。
部屋に入るときよりも落ち着いていた。
自分は何に怖がっていたのか。
殺される、複雑な仕事、自我の否定…わからない
でも、今は落ち着いている。ならば問題はない。
扉に手を付ける。矛を誰から受け取るのか。どこに土地を創るのか。
謎だらけではある。それは先ほどまでと一緒だ。
今はただ、未来について考えていたい。
いざなみと創る星、いざなみと願う生命、いざなみと支える国
ただ希望に満ちていた。




