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夫婦の神生活  作者: 皐月猫
学習と経験
30/33

開かれる道

山羊の後を追う。

鳥居までの道を進んでいたが、半ばほどで山を下っていった。

その様子を見ていると、山羊も僕を見つめてくる。ついていくしかないか。

山の表面の岩や植物を足場にして山羊を追いかける。

ある程度の高さを下ると先ほどよりも低い位置にある山道に辿り着く。山羊は道を進んでいく。

どこまで案内するつもりなのだろう。僕は力を使っていないため、どこまで誘導されるのかわからない。

言葉を聴こうとしたが相手も神だからか無言を貫いてくる。

山羊の後を黙々と辿っていると水の音が聞こえた。

顔を上げると木々の間、下からの光が顔にあたる。

顔の高さにある枝を上げて先を見ると川があった。水が少しずつ流れている。

山羊は桶を川のそばに置き、どこかに走り去っていく。

僕は手を洗った後に桶の汚れを落としていく。桶は段々ともとの色に戻っていく。

川の色が変わらなくなった程度で水を汲み、歩き始める。

鳥居の方向には進んでいた。山を登ればすぐに着くだろうが、どのように登るか。

水が入った桶を抱えては片手しか使えない。登るのに時間がかかりすぎる。

飛んでいくか。だが、この後に行う修業がどのようなものか不明な状態で神力を使っていいものか。

しかし、小屋まで戻る時間と川に向かっていた時間、こうして悩んでいる時間は短くはない。

イザナミの方はもう終わっているだろう。おもだるは準備をして待つとは言っていたが終わっていてもおかしくはない。

仕方ない。身体が軽くなる感覚がする。つま先が下がり、重心がずれる。

桶の傾きに気をつけながら登っていく。

進んでいくにつれて速度が上がっていく。桶を両手で抱えなおすと先ほどの鳥居が目に入る。

鳥居のそばにはイザナミが集めたであろう食べ物が並べられていた。

2柱は下から来た僕に驚いたようだが、桶に水が入っていることを確認すると怪訝そうな顔をする。


「なぜ崖の下から来たんですか、イザナギ?」

「時間がかかっていたが、いったい何があったんだ。」

「小屋が荒らされていて水が汚れていました。そのため山羊に水辺へ案内してもらって」

「何があったんだ!?」

「小屋が荒らされていて」

「小屋で何があったんだ!?」

「小屋が荒れていた理由は知りません。」

「一番、気になるところを!」


おもだるが大声を出しているのを横目に桶を鳥居のそばに慎重に置く。

食べ物は木の実から山菜…にく…など様々な種類がある。

肉、何の、ここまでの道で獣を狩ったのか。イザナミは強いな。

頭を抱え、小屋がどうなっているのか、何があったのか、どう直すか、と口から小言を吐き出し続けているおもだるを見ていると頭に声が響く。


『じ、ぅ準備、できた、てるね』

「天之常立、おもだるが教えてくれないんですが、何をすればいいんですか。」

『え、えと…あ、その』

「身と心を清め、供え物をする。それから二拝二拍手一拝をする。」

「二拝二拍手一拝ですか?」

「供え物は本来、神棚に置くべきだが今回は練習だから省略する。二拝二拍手一拝とは神に対し祈願する際に行う、儀式のようなものだ。この鳥居と修行の場所をつないでもらうように天之常立に頼み込むということだ。」

「頼み込むといっても今たのめばいいのでは?」

「構わないとは思うが、これから先、お前たちが面と向かって神に頼みに行けるかわからないからな。離れた場所でも神の力を頼めるように、この儀式を覚えておいて損は無い。少なくとも教える機会を天之常立は用意してくれたんだろう。違うか?」

『合ってるけど』

「お前は慣れると本当に雑な扱いになるな。いざなぎたちと同じように対応してもいいじゃないか。」

『嫌』

「はあ、そうですか。」


おもだるは鳥居と自分自身の間に食べ物を置く。

水が入った桶を鳥居から離れた崖よりの場所に持っていき、清め始める。


右手で水を掬い、左手にかける。ついで左手で水を掬い、右手に。

清めた右手で掬った水を口に含み、桶から少し離れた場所で口から出す。

左手で水を掬い右手を清める。


清め終わったのか、立ち上がり僕に目配りをした。

おもだると同じ手順で清め、イザナミに場所を譲る。

全員が終わると鳥居の前におもだるを中心に並ぶ。


腰を曲げ、頭を落とす。2回行う。

右手を少し下げて、両手を大きく広げ打ち合わせる。2回行う。

手をもとに戻し、再び頭を落とす。鳥居と修行先をつないでもらえるように頼む。


頭を上げて鳥居の先を見ると、白い世界が広がっていた。

鳥居も大きくなっており、僕よりも小さかった高さが腕を上に伸ばしても届かない高さになっている。

願いが届いたのか。いや聞いてはいただろうから、満足したのか。

鳥居の向こうから白い結晶がこちらに出てきている。

地面に触れては濃い色を残していく。おそらく雪だろう。

それが見える範囲に広がっているんだ。向こうはとても寒いんだろう。

鳥居の下側が白い結晶で埋まっていく様子を見ているとおもだるが進んでいく。

修業を行うのが、僕が今できることだ。

イザナミと目を合わせてから鳥居をくぐっていく。

口から白い煙が出ていき、一瞬だけ肌を刺す痛みがあった。

未完成な服は寒さすら消してしまう。

この一面の輝かしい場所が僕とイザナミの次の修行場所になる。


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