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夫婦の神生活  作者: 皐月猫
兄妹の出会い
3/5

2柱の誕生

「お前たちは兄妹である。だが、それだけではないんだ。詳しくはあっちに見える建物に行けばわかるさ。」

「ああ、俺の名前は淤母陀琉神(おもだるのかみ)。お前たちよりはやく誕生した男神だ。好きに呼んでくれていいからな。」


言いたいことを話しきったのか、その男神は自分たちに背を向けて建物とは離れた緑にあふれた場所へ飛んで行った

言われたとおりに”たてもの”と呼ばれた方へ歩いて行こうとしたとき、いざなみは握っていた手を強く引いた


「あの、迷惑にならないなら手をつないだままでもいい?」

「構わない。しかし理由を聞いても?目指す場所は同じなのだから動きを制限する必要はないだろう」

「ええっと…」


ー誰か、ほんとうに誰でもいいからこいつを殴ってくれ。

 なんでこんな男に惚れてんだ。はっきり言って最低だろう。

 え?生まれたばかりだからしょうがない?それは免罪符にならないだろう。

自分の質問にいざなみは言いよどむ。触れている手は熱くなっていき、顔もほのかに赤くなる。

誕生したばかりで具合でも悪いのだろうか。もしくは何かしら力の制御ができていないのか。

男神は自分たちを兄妹だと言っていた。それが何を指しているかは定かではないが、助け合うべき関係ではあるだろう。

いざなみの手を握る。せわしなく動いていた瞳が自分をとらえた。


「構わないと言っただろう。理由は気になるが必須ではない。」


 始めは歩幅の差により女神が足を通常よりも早く動かしていた

 隣で忙しなく歩いているのに気づき、男神は歩幅を女神に合わせ速度を落とす

 壁の向こうから声がかかるまで2柱はつながれた手の暖かさのみでつながっていた

 しかし、どちらも満足していた、それだけで満ち足りていた

 互いについてなど名前しかしらない関係であったが息苦しさはない

 男神は兄妹だからと考えていた

 女神は片割れだからと考えていた

 いや、そんなことすら考えていない

 ただ落ち着いていた、穏やかな時間と感じていた

 顔を見てみたいが、手だけでよかった

 話をしてみたいが、隣にいるだけでよかった


人間にもわかりやすく言うならば5時間弱といった頃、飛んだとしても中を見るのは大変そうなほど高い壁の向こうから声がかかる


「お!もしかして新たな神かな?お~い2柱、こっちおいで!」

「ええ!もう来たの!?扉!扉こっちに動かして!」


ーこの2柱はこの時から面倒見がよかった。昔は違ったらしいが今回は関係ないので気にしなくていい。

 善神は誰か問われたらこの2柱を挙げる。それほどだ。

中から聞こえた声は2つ。

1つは地を揺らすほどに低い声でこちらに柔らかく呼びかける。

もう1つは空高く響かせるような高い声を張り上げている。

扉と言っていたが壁は動かせそうもない。いったいどうやって中に入るのか。

いざなみも声に反応し中に入ろうとしたが入り口が見つからず困っているようだった。


「すまないが中にはどのように入ればいい。入り口が見つからないんだ。」

「ああ、大丈夫、大丈夫。すぐに開くさ。」


低い声がこちらを落ち着かせるように穏やかに答える。

何が開くのか考えていると壁の一部が2つに分かれていく。

中には2つの神格が立っていた。

1つは全体的に厚みがあり口周りや手足には毛が大量に生えていた。

もう1つは細く薄い体格であり見えている肌には模様があった。


「ほら、見覚えのない神だろう。つまりは新しい神だ。」

「わからないでしょう。おもだる、あやかしこねの御遊びかもしれないわ。」

「どんだけ疑ってんだ。神格としての形が違うだろう。新世代ってやつだ。」

「どうかしら。造化三神の作った玩具かもよ。」

「それだけはないだろう。個体として出来すぎている。」


薄い肉体の神格がおもだるの名を出したため来るべき場所として間違っていないことが分かった。

いざなみと顔を合わせ、説明を始める。


「私は伊邪那美と申します。女神であり、こちらの男神の妹です。」

「自分は伊邪那岐と申します。淤母陀琉神に言われこちらに来ました。」


説明を終え2柱をみると驚いた顔をしていた。

互いの顔をみて話をしようとしたが、先にこちらに話しかけてくる。


「そうか。俺は意富斗能地神(おおとのぢのかみ)。見ての通り男神だ。ここで出入りする存在を確認する門番的な立場だ。一応、こいつの兄でもある。呼びづらいからオオトノ男神とでも呼んでくれ。」

「私は大斗乃弁神(おおとのべのかみ)。女神。妹。門を動かしたり、開閉を担当する…門そのものみたいなものよ。オオトノ女神でも門とでも好きに呼べばいいわ。それよりも貴方たち」

「いや、待て。君たち、どのように、いつ、生まれたかわかるか。」


オオトノ2柱に質問されてから、どのように生まれたのか自分でも理解できていないことに気が付いた。

隣を見ても同じように悩むようなしぐさをいしていたため2柱とも黙ってしまった。

オオトノ男神が簡単に説明してくれればいいと声をかけたためいざなみが話し出す。


「私は…薄くひろい存在でした。それがなんなりと混ざり塊になったときにこの形になったのです。いつだったかは、わかりませんが記憶としてはつい先ほどといった具合です。ですが、目覚めたときには兄は動いていたため私よりは早く存在しています。」

「自分も似たような感じです。儚くとおい存在でした。それがなんなりと繋ぎ合い固まったときに形を成したのです。周りには何もなかったところに妹が現れたため自分よりも遅く存在しています。」


この説明でよいのかわからないがオオトノ2柱は納得したような顔に変わっていた。


「生まれたばかりだったのか。何も知らないのも理解できる。」

「でもね、いざなぎ、いざなみ。神の言葉は男神からかけるものなの。少なくともこれまではそうだったわ。」


自分たちについて説明したときに女神(いざなみ)から始めたことに驚いていたらしい。

先に生まれた存在を敬う考えからきているため、妹であることも理由である。

これからは気を付けるようにしようと考えているとオオトノ男神が中へ入るように促してくる。

どうやら造化三神との挨拶をするべきらしい。

この青と白の世界をつくった存在であり、自分たちの王ともいえる立場の神である。

作法などは気にする必要はないらしく、恐れる必要もない。

聞かれたことに答え、与えられた仕事をこなせばいいのだとか。

ーここからの話は古事記を読めばわかるようなことだろう。

 だが、それは端的であり、アマテラスが生まれるまでの小話でしかない。

 これは、その小話についての物語である。

 イザナミとの生活と別れである。

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