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夫婦の神生活  作者: 皐月猫
学習と経験
29/33

修行への関門?

目を開けると木の天井が目に入る。

起き上がるために腕を引き寄せようとすると、左腕に上から何か載っているため動かせない。

動かせない腕に顔を向けるとイザナミが僕の腕をつかんでいた。

イザナミは体を僕の方に向け、布団からはみ出している。

僕の上にかけていた布団をイザナミの上にかぶせ、腕を外していく。

窓から差し込む光に目を細めながら外の空気を吸いに出る。

扉を開け、光を全身を浴びていると目の前に影が差す。光を遮っていた瞼を上げるとおもだるが立っていた。

その腕の中には昨夜とは違う果実が抱えられている。


「…ずいぶんと早い時間から動いていますね。」

「そもそも、俺は寝てない。お前たちと違って力を使っていないからな。疲れてないんだ。いざなみの方は?」

「まだ寝ていました。けど僕よりは元気でしたから、もうすぐ起きると思います。」

「そうか。まあ、皮を剥かねばならないからな。中に入ろう。お前はどうする。」

「もうしばらくは日に当たっています。イザナミが起きたら教えてください。」

「ああ。」


随分と静かなおもだるに疑問を抱きながら中に入っていく背を見つめる。

山の下、森の中では様々の声が聞こえてくる。枝葉を揺らしながら木の実を採るもの逃げるもの、草をかき分けながら走り続け獲物を狙うもの避けるもの、空中を泳ぐように進み地上を見下ろすもの見定めるもの。

あまりに広く、長い時間を経たこの神域は生命の流れを鮮明に再現している。

ここにいるのは、あくまで情報を基に作られた疑似生命でしかないものだけだ。それでも海でみたように各々の特性を生かして種の存続と繁栄に貢献する姿は本物との差異は無い。

捕食者から逃げ切れたものや手足に怪我を負い食われたものの様子を見ていると小屋の中から声がかかる。


「おい、いざなみが起きたぞ。」

「イザナギ、食事の用意も出来ているようです。中に入りましょう!」


いつの間にか外に出ていたイザナミに手を引かれ小屋に戻る。

中には先に果実を食べているおもだるが座っていた。

渡される果実を黙々と食していると、1つだけ食べたおもだるが話し始める。


「今日も修行をする。だが昨日のものとは違う。お前たち、体力や神力は回復できているか。」

「私は大丈夫ですけど、イザナギはもう良いんですか?」

「ああ、昨夜に比べて動けている方だ。修行の内容にはよるが問題は無い。」

「動けなくなっても運んではやるさ。目の前で死ぬのは居心地が悪くなりそうだしな。」

「そんな事をしたら、ずっと恨んでやります。」

「それはお前を死なせた場合か?それともいざなみを見捨てた場合か?」

「僕が動けるのにイザナミを助けないわけがないでしょう。つまり、僕の意識がなくイザナミが力尽きたときの話をしています。」

「その時点で詰んでるだろう。」


おもだるの呆れたような顔を見つつ机の上から果実を減らしていく。

あと1個になったところでおもだるは果実を手に取り食べる。


「今日はこの山を進んでいく。」

「さらに上るのですか?」

「ああ、山頂近くに修行場所に行く方法がある、らしい。」

「他の神が担当したんですね。」


おもだるが食べ終わったことで山を登り始める。

急というほどではないが、簡単に登れるわけでもなさそうな道を進んでいたがイザナミがおもだるに問いかける。


「まだ進むというなら飛んで行った方が早いのでは?このままでは修行の時間が短くなっていきますよね?」

「飛ぶには神力を使う。歩くだけなら体力の消費だけで済むから、このまま歩くぞ。」


おもだるの答えに納得がいかないのだろう。イザナミが食い下がる。


「体力の消耗は避けるべきでは?イザナギが疲れていたのはそのせいでしょう?」

「お前、体力と神力の繋がりを知らないのか?」


おもだるの問いかけはイザナミに向けられたものだろう。

だが、僕も知っているわけでは無い。おもだるの顔を見て説明を促す。

おもだるは何度目かの驚いた表情を見せた後に無知な僕たちに教えてくれる。


「神力は神としての権能を使う際に消費するもの。体力は物質的な肉体の労働をした時に消費するものだ。この2つは異なるものではあるが、互いに作用することがある。神力の消費が大きすぎるときだ。神力を短時間に大量に消費したり回復する前に消費を始めると、神力として消費する分を体力で補おうとする。」

「昨日は動き回っていましたから、いま神力を使うと体力を消費する可能性があると。」

「そうだ、それに加え神力と体力では根本的な量や質が違う。神力を体力で補おうとするとすぐに尽きる。」

「だから飛ぶのは辞めたほうがいいと?」

「そうだ。今日の修行をやりたくないなら飛んでいけばいいさ。」


おもだるは手を振りながら前へ進んでいく。

さすがに言い返せないのか、イザナミは口を強く閉ざしながら足元を見ている。

森から小屋に行くときよりも長い時間をかけて道を進んでいくと、おもだるが足を止めて正面をみつめる。

何があるのかと、おもだるの横から前を見ると、赤い門のような物が建っていた。

鳥居だろうか。だが、知識であるよりも小さく思える。

僕の背丈よりも低く、横幅は肩が通るぐらいの大きさ。

横にいるおもだるの顔を見ると目を細めて睨んでいるようにも見える。この形をしているとは知らなかったのだろうか。

イザナミは目をひらいて、口を手で隠している。想像もしていなかったのだろう。

神域の中に鳥居があることも、山の半ばに鳥居があることも、修行場所への行き方が鳥居であることも。

くぐればいいのだろうか。それとも何か必要な物や行動があるのだろうか。

鳥居の先は山道が続いているようにしか見えない。どうすればいいのだろう。

とりあえず先生であるおもだるが動き出すのを待っていると、声が響く。


『あ、ああ。キ、きこぇ、るよ…ね』

「天之常立ですか。」

『あ、ああぁ、うん。…そそ、そう』


声は天之常立のものだった。

おもだるが鳥居に近づき、くぐっていく。しかし、先に進むのみで何の変化も見られない。

声が再び響く。


『そ、その。と、くぐる、だけは…むり。あのぉ、ほっか、ほかに、も…やる』

「知らされてないんだが、俺には教えてくれないのか。」

『言わない』

「なんでだよ!」


天之常立は僕たちと話すことに慣れてないのだろう。おもだると話を続けている。


「もっと情報をくれよ。」

『鳥居なんだからやることは1つ』

「神域に入れてくれと頼めばいいのか?それとも入りますと宣言すればいいのか?」

『他にもあるでしょ』

「はあ?……。ああ、そういうことか。」


おもだるは納得した様子で僕たちに指示する。


「いざなぎは小屋に戻って水を持ってきてくれ。桶1つ分でいい。」

「大きいのと小さいのがあったはずですが。」

「おおき、いや小さいのでいい。」

「私は何を持ってくればいいのですか?」

「いざなみは山道にある食べ物をいくつか取ってきてくれ。」

「食べ物ですか?」

「種類は問わない。量は腕で抱えられるほどでいいから。俺はここで用意して待ってるから早く取りに行け。」


おもだるが僕たちの背中を押して、これまでに進んできた道を指さす。

ここまでの道は長かった。それを戻り水の入った桶を抱えてから、また来いと言っている。

つらいだろうが修行のためだ。やるしかない。

イザナミとは道の途中で分かれ小屋へ戻っていく。

昨夜は山道は険しいものだと思っていたが、食事と睡眠をして回復した状態では楽な道に感じる。

無言で進んでいると山羊がいた。複数匹、水辺に向かっているときに出会った群れだろう。

山羊の対処法は教わっていないが昨夜の山羊だというなら去ってくれるだろうか。

しばらく山羊と見つめ合っていたが動く気配すらない。違う山羊だったのか。

このままでは仕方がないので話しかけることにした。


「…すまないが、どいてくれないだろうか。小屋に戻りたいんだ。」

山羊は見つめている。

「水を汲んでこなければならないんだ。この道を進んでいきたい。」

山羊は見つめ続ける。

「…このままでは、押しのけていくしかないんだが。」

山羊は顔を山の下へ向け群れを引き連れて降りていく。


山羊の後ろ姿を見ていたが、だんだんと木々に隠れていく。

道は続いている。2柱を待たせ続けないためにも早歩きで進んでいくことにした。

小屋が見えてくる。

中に入って桶を探そうとすると、窓から見える部屋がとても暗いことに気づく。

昼間になったから屋根や壁により光がさえぎられているのか。しかし小屋の中は明るかったはずだ、外の光量でなくなるのか。

扉を開けて中の様子を見る。壁も床も天井も真っ黒にしか見えない。

暗いとしても全てが黒く見えることがあるだろうか。いや、昨日は自分の足元や月明りの反射は見えていた。

窓からの明かりすら感じられないのはおかしいだろう。

何が起こっているのか確かめるために近くの壁に触れる。

指先が湿り、かすかな温かさを感じる。扉を通し外に手を出すと指先が赤く染まっている。

水のように下に落ちることもなく指先で滑るところをみると水分量は少ない。

鼻にたまるような鉄の匂い、液体ではあるが硬い、暗い色で光の下で見ると赤くなる。

これは血なのか。起きた時は木の色を認識できていた。鳥居に向かい帰ってくるまでの間に何があったんだ。

いや、今は桶を探そう。血が大量に撒かれていることは異常だが、死体がなければ気配も感じられない。

小屋の問題はおもだるにでも任せればいい。言われた事をやろう。

桶は水瓶の近くに置いてあったが、血にまみれている。中の水も濁り切っており、これは使えないだろう。

あの水辺までは遠すぎるか。近くにあるのだろうか。洗って汲むこともできるほどの水がある場所。

どこに水があるのか考えながら外に出ると、山羊がいた。

ずっといる気がする。暇なのか。山に来てから山羊以外に見ていない事から天敵がいないのかもしれない。

比較的安全に生きていけるのだろう。山羊の横を通り過ぎようとすると桶の端に噛みついてくる。

そのまま桶を引っ張るため、手放してみると鳥居までの道を進んでいく。

しかし、坂を超えて姿が見えなくなると戻ってきて僕を見続ける。

山に来たことが無い僕に比べて、山羊は知り尽くしているのだろうか。桶を持っていかれたままは困るのでついていくことにする。

出来れば水辺であるとうれしいのだが。

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