鬼畜仕様
「まだだ、いざなぎは遅い、いざなみは捉え切れていない。もっと集中しろ。」
「いや、これ、はあ、さばけ、捌けている、だけ、い、いいの、では。」
「いや、まったく。」
「あのこれは難易度が高いのでは?」
「いや、まったく。」
現在、僕は大量の小動物に襲われている。前後左右、頭上から足元まで。様々な角度と速度でこちらに攻撃をしかける全てを避けるかいなし続けている。今のところ傷はつけられていないが、この量のままではいづれ体力が無くなり無防備になってしまうだろう。
イザナミの方は危険性は無いが、集中力との勝負だ。目隠しをされたまま、青い紐を持つ動物を捕まえるというもの。ただ、同じ種類の動物を捕まえているときはすぐに終わると思っていたが、今は異なる動物を捉え始めている。猫が紐を咥えているのが見えたが、イザナミはドジョウを捕まえていた。ここの近くに水場は無いはずだが、いつのまに捕まえたのだろうか。
そうやって考えている間も全方向から嘴や牙、爪がものすごい速さで迫ってくる。
では、なぜこうなったのかを説明していこう。
おもだるに急かされながら僕たちは森を進んでいった。
ある程度進んでいくと木々が減っていき、足元にある草しか緑のない場所についた。
ここで何をするのかと聞くとイザナミに黒い帯を渡し、少し離れた場所へ再度つれていかれた。
その様子を見ていると森の方から大量の生物がやってくる。
おもだるは生物を見て頷いた後、僕たちに説明をする。
「いざなぎは傷つかないように頑張れ。いざなみはその目隠しを付けたまま、この青い紐を手に入れろ。」
「ちょっと待ってください。そんな急に言われても、」
「目隠しってどうつけるんですか?」
僕が後ろからの猛攻撃をすべて避けている間におもだるがイザナミに目隠しを付ける。
目の前が暗くなったことや、僕の方から聞こえる音に驚いたのか少しだけのけぞっていた。
おもだるは僕たちに目もくれずに近くを飛んでいた烏に紐を咥えさせ飛んでいくのを眺めていた。
「おもだる。この生物は、殺していいのか。せめて数を、減らすなどは。」
「別にいいが、俺の力で急所以外は反撃を食らうから気をつけろよ。」
「急所…って、くび、とか、胸の、中心か。反げ、げきとは、なにが起こる。」
「うーん。一回ぐらいは構わん。やってみたらどうだ。」
「は、ぁぁ。」
おもだるに言われたとおりに攻撃を逸らす動きから、攻撃より先に頭部を破壊する動きにしたが、違和感なく生物は血肉をまき散らしながら地面に落ちていく。
あの加護を受けた生物とは違い死んだ状態のまま生き返ることは無かった。
次は翼や手足を狙って動きを変える。
僕の手が翼にあたった瞬間、腕の内部が引き延ばされる感覚が起こる。
その痛みを認識した瞬間に生物から距離をとり腕を見るが、見た目は変わらず動きも問題は無い。
おもだるの力によりこの生物たちは一瞬で命を落とす場所以外は空間がねじれているのだろう。
先ほどは感覚だけであったが、あのまま翼を攻撃しようとしていたら腕が骨も肉も混ざった邪魔な物質に変わっていただろう。
いやこれは…
「おもだる。危険すぎないか。この修業は。」
「安心しろ。死なないように手はうってある。そもそも、失敗した場合を考えるのは勿体ないぞ。もっと前向きに考えろ。ここで慣れておけば、相手を瞬殺できるようになるし、痛みに強い男になるぞ。」
「何も前向きではありませんよ。殺し合いをしなければならない状況は良くないでしょう。」
「え。この状況であの紐を手に入れるんですか?本当に?」
「見つけられるはずだぞ。あの紐はいざなぎの力を使った代物らしいからな。」
「いつの間に僕の力を手に入れたんだ。どうやって紐に加工した。」
「俺は知らないな。天之常立が作ったとしか。」
あの神は何ができないのだろうか。
後で作り方を教えてもらおう。何か役に立つ機会があるかもしれない。
話していると生物が距離を詰めてきて攻撃を仕掛けてくる。
始めは数を減らすために急所を狙っていたが、相手も学習していく。僕の攻撃を避けるようになってきた。
相手の思考を読めれば避けづらい攻撃ができるのではないかと波長を合わせてみる。
[たおす-たおす-きけん][みぎ-うえ-みぎ][ごはん-いのち-にく][いたい-いや-こいつ][てき-きけん-まもる][いや-たおす-ひだり][うわあ-やだあ-わおん][いたい-きけん-こわい][みんな-やる-やる][ぼす-てき-こいつ][めし-いや-うばう][こわい-つらい-いかり][よめ-した-おまえ]
理由は異なるが僕を倒すことに全力らしい。
何よりも、この生物たちの攻撃は本能的なもので自分たちでもわかっていないのだろう。考えて動いている生物の方が少ない。危ないから早く、怖いから先に、痛いから動く。逃げる方ではなく戦う方向で自分たちを守っているのだ。
しかし、どんな理由であれ殺されるのは困る。なによりおもだるは傷つかないようにと言っていた。攻撃は当たらない方がいいだろう。
ただ、互いの攻撃は当たらなくなり、相手は数が減っても森から増援が来ている。このままでは消耗戦だ。
イザナミの方は目隠しをしていても生物の位置や体格は感じているのか捕まえることは出来ている。ただ、捕まえる一歩手前で紐が別の生物に渡されている。あちらの方も長い戦いになりそうだ。
そう考えてから1つの疑問ができた。
「お、おもだる。ぼく、僕は、どうしたら、おわら、終わればいい。」
「あーー。考えてなかったな。」
「はぁっ」
「あーいや、…いざなみが終わるか。そいつらがお前を攻撃しなくなったらだ。そうしたら終わりだ。」
「は」
それが何時なのかを聞きたいが、これは考えていたよりもキツイ修行になりそうだ。
イザナミは紐は追えているが、目隠しのせいで生物の行動が追えていない。
こちらは生物を減らすことは出来ても諦められないだろう。しかも森から続々と増えているのだ。攻撃をしなくなることがあるのか。




