修業開始
「温まったよな。じゃあ修行を始めるぞ。」
温泉と呼ぶ温かい水辺から離れ、おもだるから渡された新しい服を着るとおもだるが声をかける。
おもだるが僕たちの顔を見て頷く。
「お前たちの力の本質は【探す事】と【導く事】だ。後者は分かっているだろうが、導くからには目指すべき場所を知らないといけない。そのために探す事も得意としている、はずだ。」
「明確にわかっていることではないんですか?」
「確かだと言いたい。だが、お前たちが力を使っているのを数回しか見ていないからな。まだ言い切れない。まあ、修行を続ければわかることだ。そんなに気にしなくてもいいだろう。」
おもだるは草をちぎり、口に近づける。そのまま息を吹くと高い音が響く。
音が広く反響すると少し離れた場所から大きな足跡が聞こえてくる。
この足音は聞いたことがあった。あのおかしな生物のものだ。
「あの生物をよんだのか。何故。」
「落ち着けよ。お前たちをいじめるためではない。今の力の具合を知るためだ。怪物の方が生命力も攻撃力もあるからな。」
「イザナギ、私は大丈夫!今はあの2柱はいないのでしょう?ただの生物なら何の問題もありません!」
「ほらな妹さんは大丈夫そうだぞ?俺としても命の危機まではやるつもりはないから、もっと肩の力を抜けよ。」
おもだると話していると足音の主はすぐそこまで聞こえる。
周りを見ていると木よりも高い場所に顔が見える。その首にも大小さまざまな大きさの生物がくっついている。
「近くまで来たか。じゃあ、あいつらの声を聴いてみろ。」
「聴くですか。海の時と同じ方法でいいですか。」
「それで聴けると思いならやってみろ。」
生物から感じる波長に合わせていく。だが、種族がすべて違うため1体分の声しか聴けない。
[よぶ よばれる すすむ すすめ いこう いこう おわる おわり くる]
[--^-^--][--;.;--][--~_~--][--\"/--][--'#'--][--・・--]
ここにいる全員分は分からない。1体は何となく理解できるが、他の生物は全く分からない。
この状態は聴けているとは言えないだろう。
「悲しんでいるんですかね?泣いている、というよりは苦しんでいる?」
「イザナミは聴こえるのか。」
「聴くというよりは感じるですかね。あの顔や動きを見ていると、こう、気持ちが伝わってくる感じがして」
「顔や動き」
僕よりは生物と波長が合っている様子であったイザナミに聞くと相手の様子を伺うといいらしい。
しかし、顔はあるが表情どころか目や口の区別が難しい。
動きも同じ場所をぐるぐると回るか、その場に佇んでいるものばかりだ。
どこから感じればいいのか全くわからない。しかし、イザナミの方法は言葉については理解ができないらしい。そのかわり相手全員の感情を理解できるのだろう。
だが、これではあの生物たちの考えがよめない。
これ以上は僕たちではどうしようもないため、おもだるに話しかける。
「僕は1体の言葉は理解できますが、ここにいる全員は無理でした。イザナミは全員の感情は理解できましたが、言葉は駄目らしいです。」
「なるほどな。あらかた分かった。」
「何が分かったのですか?」
「おそらくだが、いざなぎは特定の力を極めるのが得意。いざなみは色々できるが極めるとなれば無理だな。」
「極める。」
「中途半端だと言いたいんですか?」
「いや、違う。今言った極めるとは対等以上の存在が先代たちのみって意味だ。これからの神々や地球の生物では超えることのできない強さを得ることができる。だが、極められなくとも元が神格だからな。並みの強さになってしまえば十分だ。」
「もしかして、これからの修行の方向性のためにやったんですか。」
「ああそうだ。とりあえず、お前たちは力を育てる方法を変える必要がある。まあ、基礎的なものは一緒だから、そこまでは共にやらせる。」
「その後は。」
「どの程度の成果が出るかによって考える必要がある。まだ答えることは出来ない。」
「そうですか。」
力の育て方について一切の説明をせずにおもだるは歩いていく。
生物たちは今も周りを歩き回っている。この間も思っていたが、この生物は明確な自我が無い、いや薄いのかもしれない。
いくら僕が力を出来る限り使ったとして、神の加護を受けた生物が誘導できるものか。
先ほどのおもだるの言葉から考えるとあの生物は…
「おい!置いていかれたいのか?」
「いえ、今行きます。」
おもだるに声をかけられたため、少しばかり足を速く動かす。
ここに関する疑問はおもだるに聞くのがいいだろう。
生物の考えや生態を知っておくのは国創りにも役に立つはずだ。
どのような生物が国を造れるのか、どのように導くべきか。
まだまだ考えるべきことはあるが、隣にいるイザナミの顔を見ると不安は薄れていく。
これから多くの問題が僕たちにあるのだろう。
だが、一緒ならどうにかできるはずだ。すべての役目が終わったら、始まりの島で終わりの時まで存在しよう。
この思いが君の心にもあってほしいと願いながら、君には伝わらないでほしいと願いながら。
いつまでも走り続けるおもだるの背を追っていく。




