片割れの重み
「角杙、活杙。これは天之御中主からの命だ。伊邪那美を解放しろ」
「しません。さっきから言ってますがぼくらはその命を聞いていません。」
「ねぇ、ねぇ!もう13体、13体ものあの子たちがいなくなったよ。わたしたちが行ってもいいでしょ?」
「だめだよ。彼らを見てみな。あっちも疲れてる。あと少しだけだから。」
「でも、でもでも!疲れるまでにあと何体、いなくなるの?」
「大丈夫。ぼくらが覚えていればあの子たちも消えない。消させないさ。」
「…宇摩志阿斯訶備比古遅に何か言われたのか」
「あの方の名前を言わないでください。どうなっても知りませんよ。」
…遠くで3柱の話し声が聞こえる。
御中主の命を聞いていない、と言っていた。
僕たちは御中主からあの神々を先生だと聞かされていたが何故。
いや、そんなことは後で考えればいい。
今はイザナミを助けることだけに意識を向けるべきだ。
「では、おもだる。合図を出したらすぐに生物を守ってください。手段は問いませんから。」
「うまくいくかわからんが、わかったよ。全力でやってみろ。」
おもだると確認をしてから僕はあの生物に近づく。
他の存在は気にも留めず一直線で進んでいく。
16体ほどの肉体を突き破って生物の目の前までくる。
腕を振りかぶり僕の肉体を叩きつけようとする動作を横目に誘う。
「 おいで おいで 私の 後に ついて おいで 」
その声を聞き 生き物は動きを止める
他の生き物もとびかかろうとかがんでいた状態から 上を見上げる
そこにいた生き物は皆 私をみる
確認もせずに 私は後ろへ進んでいく
たくさんの生き物の上を進んでいき 皆を置いていく
薄情な神格を 皆は追いかける
暗闇の光のように 森の人影のように
雪山の焚火のように 砂漠のオアシスのように
過労の中の休息のように 地獄の中心の糸のように
望まぬ環境で周りを気にせず手に入れたいモノへ手を伸ばす
それは あなたが のぞんだ モノだ
誰かが叫ぶ ついていくな
誰かが泣く もどってきて
そんなことは 知らない
あれこそが 望んだものだ 目的だ
生きてほしい これからもずっと 助けるから
そんなことは 望んでいない 押し付けないで
終わってもいい 最後まで 受け入れるから
そうだ そうだ もう 疲れたんだ
ついていこう 迷わずに ー おいで
走っていこう 迷わずに ー おいで
望んでいよう 迷わずに ー おいで
足を動かし 手を伸ばす
忘れてくれる神格へ やっと
追いついた
「頼んだ!」
おもだるが他よりも大きい生物の前に立ち防御壁を築く。
あれの耐久など気にせず攻撃をする。
手の中で空気中の成分をすべて混ぜ合わせる。
小さな範囲であるが分けられた成分が1つになり理に則り破裂する。
手の中を中心に空間が吹き飛んでいく。
近くにいた生物は血の一滴も残らず蒸発し、地面は外側へえぐれるか砂よりも細かくなる。
空間の破壊により神域の壁にもひびを入れ最後には破壊する。
破壊された場所の地面は薄まっていき消滅する。
生物は神域の外に出ることで泡のように破裂し次々と消えていく。
あの生物はおもだるにより、あの攻撃から守られていた。
しかし、神域から出ているため下半身から泡になっている。
自分はすぐに腹の下へ走る。
中からいざなみが落ちてきたが、腕で受け止めることができた。
「いざなみ、いざなみ。生きているか。意識はあるか。」
「お前、えげつないことするな。まさしく期待の新神だな。」
おもだるの言葉に反応するのも面倒なほどに疲れている。
だが、いざなみの無事を知るまでは安心できない。
いざなみを地面へ横たわらせ声をかけ続ける。
「いざなみ、起きてくれ、返事をしてくれ。」
「神力を使いすぎたか、生物に吸収されたか。休んでいれば目を覚ますだろう。」
「今すぐに起きることは無いのか。」
「自身の神域に居れば大抵なんとかなる。あー、食事や睡眠をすれば早まりはする。」
「食事や睡眠…。」
自分よりも長くいるおもだるが言うのだからすぐに目を覚ますことは無いのだろう。
とりあえず神域のある地球へ戻ることを話すと、念のためと一緒に行くことになった。
「天之常立に出してもらうつもりだったんですが、神域とは壊せるものなんですね。」
「いや、ほぼ無理だろう。壊そうなんて考えもしないほどだ。」
「まあ出口が近かったり、綻びのある場所へ誘ったのは自分なんですが。」
「…もう自身の力を理解したのか?」
「そういうわけではありません。ただ、囮になれるかもしれないとか、少しは近づけるとは考えていましたけど。」
歩いている途中でオオトノ男神に矛を預けたままであることを思い出したが、天浮橋で地球を見ていた国之常立が背負っていたためそのまま受け取った。
御中主へ今回の説明はしておくからとおもだるは天浮橋の傍で分かれることになった。
「なんか、大変だったんだな?きみは大丈夫なのかい?」
「自分は大丈夫ですが、いざなみが目を覚ましていなくて。」
「それは不安だな。しばらくは安静にすること!にしても歩いてきたのか?」
「はい。いざなみを抱えたまま飛ぶのは、少し怖くて。」
「いやいや。自分の神域へ戻るだけならどこからだって出来るから、理由があるのかと…。」
「…おそらく自分ではやり方が分からないからだと思います。力の使い方も詳しくは教わっていないので。」
「ほんとうに、いろいろあったんだな。神域では自分の神力であふれてるからすぐに目を覚ますよ。」
矛を背中に背負い、いざなみを腕で抱える。
上がってきた時と同じ柱を下っていくと地球が見えてくる。
ある程度の高さになると体の芯がほんのりと温かくなる。
帰ってこれたんだ。
高台に降りて周りを見る。
失敗作の生物とここにいる生物の違いは何だったのだろう。
イザナミが目を覚ましたら僕が見たことを話そう。
家の中へ入り、床にイザナミを降ろす。
頼むから声を聞かせてくれ。
目の奥が熱くなるのを感じながら意識が薄らいでいく。
目を閉じるときにはすぐそばにイザナミがいた。
ーあの時が初めて神力の威力を身近に感じた場面だ。
俺が言うのもなんだが、本当に恐ろしかった。
人間は強大な力など知らない方がいいというが、知らないと使いこなせない。
それは封じる方面でも同じことなんだ。




