誰が悪魔を殺したのか?①
鬼政と話をするのは久しぶりだ。
長くなりそうだったので、「ビデオ通話にしましょうか」と聞くと、「おっ!テレビ電話か。ええな~いっぺん、つこぉてみたかったんや。悪いが、どうやったらええのか教えてくれ」と嬉しそうに返事をした。
アプリのインストールから登録まで余計な時間を費やしてしまった。普通に電話で話した方が早かった。
「仕事で使ったことなかったのですか?」と嫌味を言うと、「つこぉとったよ。せやけど、部下に繋いでもろうとったからな。自分でもつこぉてみたかったんやけどな。訳、分かれへんやろう。せやさかい、諦めとった。部下に聞くのも何やしぃ」とご機嫌な様子だ。
「やあ、兄ちゃん、良く見えるで」
ビデオ通話が始まった。それほど親しい仲ではない。顔を見ながら話をするのは照れ臭いものだ。鬼政は気にならないようで、「兄ちゃん、大活躍やったみたいやな。兄ちゃんの活躍を聞いて、自分もしっかりせぇやと言われとるような気がしたで」とガハハと笑った。
歯が白い。真っ白だ。入れ歯なのだろうか?
「そちらはどうですか?捜査、進展がありましたか?」
あれから全くと言っていいほど、連絡が無かった。府警での捜査状況が気になった。
「兄ちゃんも分かっとると思うが、わいらで出来ることはやりつくした。我ながら、よぉやったで。後は警察の組織力に頼るしかあらへん。警察にはわいら、一般人が出来ひん捜査が出来るよってな。わいも一般人になってしもた。捜査中のことは、おいそれとは教えてくれへん。あの手この手を使おて、聞き出すのに苦労しとるんや」
泣き言を聞かされたが、その通りだろう。伝説の鬼刑事といえど、一般人となったからには、簡単に捜査情報を手に入れることなどできない。
「ご苦労様です」と頭を下げるしかなかった。
考えてみれば、鬼政にとっては単なる厄介ごとなのだ。
「気にしなさんな。府警は、あんたのボス、弓月がホテルから姿を消した後、何処に行ったんか、徹底的に足取りを追った。ほら、兄ちゃんも気にしとった携帯電話、それがあれば何ぞ分かったかもしれへんが、まだ見つかっとれへん」
「池の底に沈んでいるのでしょうか?」
「どないやろ。水没してめげたのかもしれへんが、犯人が持ち去ったとも考えられる。いずれにせぇ、電源が入っとれへんので、見つけることが出来なんだ」
事件後、何度か電話をしてみた。だが、電源が入っていなかった。
「電話会社から通話記録を手に入れることが出来たようや。それに、ホテルの周りの防犯カメラの映像から、弓月がホテルを出た後、車に乗ったことが分かった。どうやら弓月の方から連絡を取って、呼び出したようや」
「呼び出した⁉知り合いだってことですか?」
「そういうことになるな。携帯電話の通話記録から相手が特定できたようや。兄ちゃん、誰やったと思う?」
分かるはずない。「誰だったのですか⁉」
「蛭間朱里という女性や」
「蛭間?殺された蛭間昭雄さんの関係者ですか?」
「そうや。蛭間昭雄の母親や。あの夜、大阪におって、弓月と連絡を取っとったようや。どうや、兄ちゃん、怪しいやろう。イカスミくらい真っ黒や。そうそう、イカスミはあってもタコスミがないのは、タコの墨袋を取り出すのには手間がかかるかららしい」
「はあ」と鬼政の蘊蓄を軽き聞き流した。
また一人、事件関係者が出て来た。あの夜、辻花家にいた田上常永こと、田口智康の別れた妻になる。
「ホテルの正面玄関に防犯カメラがあってな。蛭間朱里が運転しとったのやろう、車が迎えに来て弓月を乗せて走り去る映像が残っとった」
どういうことだ?蛭間昭雄の母親が弓月を殺害したと言うのか?
「そこまでは分かったんやが、そこからが分からへん。蛭間朱里の足取りが掴めへん。彼女が運転しとった車も、ナンバープレートがはっきり映ってへんかった」
「捜査は暗礁に乗り上げてしまったのですね」
「そうでもあらへん。遺体をため池にほったことは分かっとる。ため池周辺の防犯カメラを洗えば、車が映っとるかもしれへん。蛭間朱里が運転しとった車がな。もし映っとれば、事件に関与しとったことの証拠になる。地道な捜査は警察に任せておけばええ」
遺体発見現場から逆算する訳だ。
「で、どうでした?」
「あったで、兄ちゃん。見つけよった。しかも、でっかいおまけ付きでな。いや、おまけなんてもんじゃあらへん。あたりくじを引きよったんや。おう、そうや。吉は中吉や小吉より上だって、知っとったか?」
それはおみくじだ。今日は妙に蘊蓄が多い。やはり鬼政もビデオ通話に気恥ずかしさを感じているのかもしれない。鬼政も人の子だ。
「あたりくじって何です?」と話が脱線するのを防ぐ。
「車を運転する蛭間朱里の隣に、兄ちゃん、あんたの知っている顔が座っとったんや。防犯カメラにばっちり映っとった」
単刀直入に言わないと分からないようだ。「焦らさないで教えて下さい」
「辻花大悟よ」と鬼政が言う。




