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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
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物言わぬ証人④

 弓月が辻花良悦を殺害し、その罪を蛭間に着せて殺害したと仮定した場合、良悦殺害に使用された短刀の柄に残った指紋がネックとなる。短刀は良悦の首に突き刺さっていて、抜かれた形跡はなかった。短刀の柄に残った血液が凝固するまで、せいぜい十分程度だろう。犯行当時、蛭間が良悦の部屋に居て、短刀を握ったことになる。指紋は蛭間のもので、しかも良悦の血痕の上についていた。

「最初、短刀の柄に残っていた指紋は蛭間のものではなく、弓月のものだったのではないかと思ったんだが」と矢追は言う。だが、鑑識が指紋の照合を間違える訳がない。

 この謎を解く為に、矢追は凶器の柄の血痕の再鑑定を科捜研に依頼した。

「何か細工をして、蛭間の指紋を柄に残したのだろう。それを確かめる必要がある。鑑識に無理を言って、もう一度、仔細に調べてもらった」

 焦らされる。「何か分かりましたか?」ともう一度、尋ねた。

「蛭間の指紋が残っていた血痕を詳しく調べてもらった結果、プロテアーゼと言うタンパク質分解酵素が見つかった」

「プロテアーゼ?」

「コンタクトレンズの洗浄液などに使われているそうだ。凝固した血液を分解する働きがある」

「血液を分解する?」

「ふふ。どうだ?あんたにも分かっただろう。遺体に残っていた短刀の柄から指紋が出たことで、蛭間が辻花を殺し、自殺したのだと考えられた。死んでから殺すことは出来ないからな。だがな、短刀の柄は目釘を外せば取り外すことが可能だ」

「ああ~」思わず声が漏れた。細工があったのだ。

「更に詳しく調べてみると、柄を取り外した形跡があった。そこで、こういう推理が成り立つ」と言って矢追は得意そうな顔をした。

 俺がもの問いた気な目で見つめていることに満足そうに頷くと、「弓月は辻花を殺害後、首に突き立てた短刀から、柄の部分だけを取り外した。そして、蛭間を絞殺し、コンタクトレンズの洗浄液を使って、柄に固まっていた血痕を溶かして蛭間の指紋を残した。蛭間の指紋のついた柄を持って、辻花のマンションに取って返すと、元通り、柄を短刀に戻した。後は、あんたも知っての通りだ」と言った。

 遺体の第一発見者を装って通報したのだ。その時、駆けつけてきた刑事の一人が矢追だった。更に弓月はテレビ局を呼んで、テレビ・カメラの前で蛭間の遺体を発見している。

「まあ、あれがやつに疑いの眼を向けさせる原因となった訳だけどな」と矢追は言う。

 テレビ・カメラを前に、遺体を発見する。その芝居がかった演出に、違和感を覚えた。そして、「ふたつの事件で、遺体の第一発見者になるなど出来過ぎだ」と矢追は言う。

 確率で言えば天文学的な確率だろう。

「それに証拠が多過ぎる。一見、巧みに証拠を消しているように見えるが、調べれば調べるほど、証拠が出て来る。変だと思わないか?蛭間のアパートでは、三和土にあった靴の中底から辻花良悦の血痕が見つかっている。探せば見つかる場所に証拠を残してあったのだ」

「辻花さんの事件については、大体、分かったような気がします。弓月が犯人だとすると、蛭間さんは濡れ衣を着せられた上に殺されたことになります。でもまだ、蛭間さんが自殺だった可能性は残っているのではありませんか?」

 矢追は待ってましたと言わんばかりの顔をした。「蛭間の事件についても考えがある。あれは自殺なんかじゃない。殺されたんだ。弓月に殺されたんだよ」

「一体、どうやって?部屋は密室だったはずです。誰も出入りすることができなかった。だから、自殺だと判断されたのではなかったですか?」

「ああ、そうだ。蛭間の部屋は一階だったが、ひとつしかない窓には鍵が掛かっていた。それに、ドアは遺体が塞いでいた。部屋は密室状態だった。誰も出入りなんか出来なかった。だがな、当時の資料を見直していて、俺は大事なことに気が付いた。当然、あるべきはずのものが無いってことにな」

「当然、あるべきはずのものが無い⁉何ですか?」

 矢追は「まあ、まあ」となだめてから、「もったいぶっているように見えるかもしれないが、もったいぶらせてくれ。脂汗が出るほど、頭を使ったんだからな。はは」と言って笑った。

 弓月の話では、引き立て役のダメ刑事なのだが、実物はかなりの切れ者だ。

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