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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
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物言わぬ証人③

 野次馬をかき分けながら、車を動かす。

 集まった野次馬の中に、一瞬だが知った顔を見たような気がした。

 あれは――⁉間違いない。青田さん、いや青木さんだ!そう思った時、男の姿は人ごみの中に消えていた。野次馬に紛れて遠巻きに様子を伺っていたのだ。

 やはり、ここに来ていた。

 弓月から娘の遺体を埋めた場所を書いたメモを入手している。メモを見て、居ても立ってもいられなくなり、やって来たのだろう。だが、メモにあった住所は住宅地になっていた。青木は途方に暮れたはずだ。

 弓月の実家が近くにあったことなど、青木に分かろうはずがない。あれから、ずっとこの辺りをうろついていたのだ。そして、騒ぎを聞きつけてやって来た。警官が集まっているのを見て、ひょっとしたらと思ったかもしれない。そして、俺の姿を見て、やはりと確信したに違いない。

 青木さん、あんたの代わりに、娘さんを見つけてあげたよ――俺の気持ちは青木に通じているはずだ。

 車を走らせる。矢追が言った喫茶店は直ぐに分かった。駐車場に矢追の車が停めてあった。

 鬼政が言った「然るべき人」とは矢追なのだろう。どういう関係なのか気になった。

 喫茶店に入ると、入り口から正面の席に陣取った矢追が「おう!」と恥ずかしくなる程、大声で手を上げた。幸い、他に客はいなかった。

 矢追の前に腰を降ろしながら、「大政さんとは、どういう関係なのですか?」と単刀直入に聞いてみた。

「何か頼んだらどうだい?奢るよ。コーヒーで良いかい?」

「はい。じゃあ、ホットで」

「マスター!ホットをふたつ」と矢追がまた大声を上げる。地声がデカイようだ。

「大阪府警の大政さんかい?古い知り合いという訳じゃない。四、五日前だったかな。大政さんから電話があった。警視庁の知り合いに、俺が辻花良悦と蛭間昭雄の事件の担当だったと聞いたらしい。色々、貴重な情報を教えてもらったよ。お陰で、積年の疑問が一気に解決した。昔の事件をあれころ穿り返しているところに、また大政さんから電話があって、あんたが白骨遺体を発見したらしいから、力になってくれと言う。恩返しって訳だ。直ぐに駆けつけると答えた。はは」矢追が豪快に笑った。

 鬼政には警視庁にもコネがあるようだ。

 マスターがホットコーヒーを二つ、盆に乗せて持って来た。一瞬、会話が止まる。

「白骨遺体の身元についても、ご存じなのですか?」

「大体な。弓月が昔、起こした事件の被害者らしいじゃないか。先ずは、その辺、詳しい話を聞かせてくれないか?」と矢追が言う。

「分かりました」俺は弓月と二人で大阪を訪れたことから話し始めた。

 鬼政から話を聞いていたようだが、矢追は「ふん、ふん」と相槌を打ちながら、辛抱強く、俺の話に耳を傾けてくれた。

 刑事だ。職業柄、人の話を聞くのが上手い。自分の話に真剣に耳を傾けてもらうと、つい良い気になって饒舌になってしまった。記憶を辿りながら、滔々と話し続けた。

「だから、辻花良悦さん、蛭間昭雄さんを殺害したのは、弓月だったのです。やつは二人を殺害しておいて、蛭間さんの仕業に見せかけた。二人を殺害した動機は、スキー旅行の帰りに青木涼香ちゃんという女の子を撥ねたことだったのです」

 ようよう長い話が終わった。喉が渇いた。俺は冷たくなったコーヒーを一気に飲み干した。

「なるほどね。弓月の実家で見つけた白骨遺体は、その青木涼香ちゃんという女の子の可能性が高いって訳だな」

「はい。僕は青木涼香ちゃんの遺体だと確信しています」

「蛭間昭雄が辻花良悦を殺害し、そして自殺した――そういう結論で捜査は打ち切られてしまった。だが、俺には納得が行かなかった。被害者は半身を廊下に乗り出すようにして倒れていた。部屋から逃げ出そうとして、背後から襲われたのだ。犯人は冷酷に確実に、そして素早く被害者を殺害している。そこに確たる殺意を感じた。突発的な出来事ではない。

 部屋に争った跡がほとんど無かった。いかに犯人が手際よく被害者を殺害したかだ。調べてみると、蛭間という人間は、神経質で繊細な人間に思えた。俺の考える犯人像に合致しなかった。犯人は別にいるんじゃないか?その考えが捨てきれなかった。刑事の感ってやつだ。違う。別のやつだと俺に訴えかけていた。

 ずっと、喉元に小骨が引っ掛かっているような気持ちだった。それが、大政さんの話を聞いて、やっぱり俺の感は間違っていなかったと思ったよ。全てが弓月の計画的な犯行だった。その前提で事件を調べ直し始めたところだった」

「何か分かりましたか?」

 矢追はにやりと笑って言った。「ああ、まだ始めたばかりだが、面白いことが分かった。弓月を犯人だと仮定すると、見えて来たものがあった」

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