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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
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物言わぬ証人②

「ほう~兄ちゃん、やったな」と鬼政に言われた。

 スーツケースの中から、白骨遺体が出て来た。予想していたとは言え、実際に白骨遺体を見ると、心臓が飛び出しそうだった。スーツケースを見つけてしまったことを後悔した。

 スーツケースを閉じると、車に戻って、鬼政に電話をした。どうしたら良いか分からなかったからだ。

「青木涼香ちゃんのものと思われる白骨遺体を発見しました。弓月の実家に庭に埋められていました」

「警察に通報したか?何、まだ。ほな、待ってな。わいが然るべき人に通報したる。兄ちゃんはそこで待っとればええ」

 鬼政がそう言ってくれた。

 白骨遺体を発見した興奮で、時間が経つのが早かった。気が付くと、遠くからサイレンの音が聞こえた。鬼政が通報してくれたのだ。

 覆面パトカーだろう。黒塗りのセダン車が前に並んで停まった。車から降りて来た男が運転席の窓をコツコツと叩いた。

 窓を開ける。小太りで三白眼の鋭い男が「あんたが藤川さんかい?」と聞いて来た。妙なものを手に持っている。花だ。鉢受けの花だ。

 男は葛西警察署の矢追と名乗った。矢追と言えば、弓月の自慢話に出て来る刑事の名前だ。確かに、弓月が言った通りの三白眼だ。

 だが、ここは千葉県の流山だ。何故、葛西署の刑事の矢追がやって来たのか不思議だったが、「大阪府警OBの大政さんから連絡をもらった。大体のことは、大政さんから聞いている」と言われた。鬼政の名前が出ただけで、この人相の悪い刑事が信用できる男に見えて来た。

「いいか、県警のやつらに聞かれたら、故人を忍んで庭に花を植えに来た。そして遺体を見つけてしまったと言え」と言って、鉢植えの花を渡された。

 来る途中、買って来たのだ。

 ああ、そうかと思った。不法に他人の家に侵入し、庭を掘り返してしまったのだ。住居侵入の罪に問われる可能性がある。

「今から千葉県警の刑事から事情聴取をされる。辻花良悦や蛭間昭雄の事件に関すること以外、全て正直に話せ。後は黙っていろ。色々、面倒だからな。心配するな。長くなりそうだったら、俺が助け舟を出してやる」矢追が早口で言った時、パトカーがやって来た。

 矢追は踵を返すと「やあやあ、ご足労いただき、ありがとうございます」と千葉県警の刑事を出迎えた。

「矢追さんですか。通報、ありがとうございます」千葉県警の刑事が渋い顔で車から出て来た。

 当然だ。地元の事件の通報者が警視庁の刑事なのだ。千葉県警に断り無しに勝手に捜査をしていたのではと訝しんでいるのだろう。

「これ、この青年が遺体の発見者です。この屋敷の住人だった人間と知り合いで、そいつが亡くなったので、はなむけに庭に花を植えに来て遺体を発見したそうです。この青年とはちょっとした知り合いでね。遺体を発見しました。どうしましょう?と私に連絡があったので、私から千葉県警さんに通報した訳です。深い意味はありません」

 矢追が事情を説明した。

「分かりました。じゃあ、詳しいことは、彼から直接、お伺いいたします」

 千葉県警の刑事がやって来る。車から出た。二人の刑事に囲まれて事情聴取が始まった。矢追が言った通り、庭に花を植えに来て、遺体を掘り起こしてしまったという苦しい言い訳を繰り返すしかなかった。

 流石に、千葉県警の刑事たちは信じていない様子だった。「何故、庭に花を植えようと思ったのですか?」と聞かれた時は困った。

「斎藤さんにはお世話になりました。だから、彼の好きだった花で庭をいっぱいにしてあげたいと思いました」と答えたが、言ってから、花の名前を聞かれたらどうしよう?と焦った。正直、鉢植えの花の名前なんて分からない。

 だが、刑事たちも花に詳しくないのか、名前までは聞いて来なかった。

 弓月の本名が斎藤という平凡な名前で助かった。弓月知泉殺人事件は、世間を賑わせる大事件となっていたが、千葉県警の刑事たちは斎藤家と弓月の事件を結び付けて考えなかったようだ。だが、それも直ぐにバレる。

「遺体の身元に、心当たりはありますか?」と年配のボサボサ髪の刑事に聞かれた。

 どう答えようか、思わず矢追の顔を盗み見てしまった。矢追は車に寄りかかり、白々しく空を眺めていたが、俺がチラ見したことが分かったのか、ガツガツと足で地面をけった。

 余計なことは言うなというサインなのだ。

「分かりません」と答えておいた。

 とにかく、何を聞かれても、分かりません、知りません、で押し通した。

「この家の住人、あなたのお知り合いはどうして死んだのですか?」と聞かれた時、「そろそろ、よろしいでしょう。こいつも疲れているようだ。遺体のことについては何も知りません。何か、思い出したら、連絡させます。今日はこれくらいで解放してやってくれませんか?」と矢追が刑事たちとの間に割って入った。

「矢追さん――でしたよね。白骨死体が見つかったのは、うちの、千葉県警の管轄だと言うことはお忘れなく」

 ボサボサ髪の刑事が顔をしかめると、「まあ、まあ。仲良くやりましょうや。お互い、隠し事は無しに、情報共有しましょう。はは」と矢追が肩を叩きながら言った。

 俺の腕を取って、二人の刑事から引き離してくれた。

「ほれ、車に乗りな。この先、都内方面に向かって暫く走ると、喫茶店がある。看板に鶏の絵が描いてあるから、直ぐに分かる。そこで待っているからな。逃げるんじゃないぞ」と小声で囁きながら、俺を車に押し込んだ。

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