物言わぬ証人①
鬼政の言葉を思い出していた。
「死体を遺棄するには、人気の無い場所が良い。近くに防犯カメラなどない場所で、遺体が見つかり難い場所、勝手に人が入って来ないような場所だ。自宅の庭だとか、私有地だと理想的だ」そう鬼政は言っていた。
千葉県流山市に来ていた。
辻花高寛から教えてもらった弓月が遺体を埋めたという場所に来た。地図アプリで見た通り住宅地になっていた。こんな場所に遺体が埋まっているはずがない。遺体が埋まっていれば、住宅地を造成する時に見つかっているだろう。
弓月に騙されたのだ。やつが死んだ今、青木さんの娘を埋めた場所は、永遠の謎となってしまった。そう思えた。
新しい住宅地のようだ。近所で聞き込んで回ると、もとは丘陵だったと言う。宅地として造成されてから一年しか経っていないそうだ。
そうなると話は変わって来る。
事故が起こったのは六年前。当時、弓月たちは本当にここに遺体を埋めたのではないか。ここが宅地として造成されると聞いて、慌てて遺体を掘り出して別の場所に埋めた。だから遺体が発見されていない。ここに遺体を埋めたことは事実だ。だから、弓月は遺体を埋めた場所を聞かれて、この場所を答えた。遺体が何処にあるのかは弓月にとって切り札だった。自分自身の命がかかっている。簡単に教える訳には行かなかった。
となると、遺体を埋め変えた場所は、鬼政の言葉通り、自宅の庭だとか、私有地の可能性がある。ひとつ心当たりがあった。
宅地が造成された一年くらい前、弓月は都内にマンションを購入し、流山に住んでいた両親を引き取っている。
弓月から家族の話を聞いたことがなかった。だから、両親にマンションを買い与えたと聞いた時、意外な気がした。正直、弓月が家族思いの人間だったとは思えない。
都内にマンションを購入した後も、流山の実家を売却していないはずだ。
どうも怪しい。弓月たちは青木の娘さんの遺体を、土地勘のあった流山近くの山林に埋めた。だが、山林が宅地に造成されるという噂を聞きつけ、都内にマンションを購入し、家族を引き取った。そして、娘さんの遺体を掘り起こすと、実家の庭に埋めた。そう推理した。
弓月の実家へ向かった。
弓月と両親の関係だが、絶縁状態だった訳ではない。時々、実家に呼び出されて帰っていた。実家に迎えに行くことがあった。そんな時、弓月は、また金の無心だと愚痴っていた。だから、弓月の実家の場所は分かっていた。
今日は探偵事務所の社有車を借りて来た。
弓月の実家に到着した。
住宅街で、アパートや戸建ての住宅が密集している。年季の入った建物が多い。住宅街の外れに、弓月の実家があった。小さな一戸建てで、人が住んでいないとあって、傷みが激しい。屋根の一部が崩れていた。
表札が「斉藤」となっている。弓月知泉は芸名で、本名は斎藤和幸だ。
斎藤家の門前に車を停める。
門を潜る。狭い家だ。敷地一杯に家が建っている。周囲は板壁で囲まれていて、日当たりが悪い。玄関には鍵が掛かっていて、中に入れなかった。板壁と建物の間にある隙間を移動しながら庭に回った。
隣家のコンクリート塀が迫って来ていて、庭は猫の額ほどの広さしかなかった。
それでも遺体を埋めたとしたなら、ここしかない。表通りからは見えないし、庭に面した隣家には窓がない。遺体を埋めても、人目につかない。
無人の空き家だ。庭を掘り起こして、見つからなければ家探しだ。
遺体を家の中に隠した可能性を考えてみたが、子供や浮浪者が勝手に家の中に上がり込むかもしれない。遺体が見つかる危険がある。床下に埋めるにしても、床板を剥がさなければならないので面倒だ。
庭に埋めた可能性が高い。
車にシャベルを取りに戻った。穴掘りをすることは覚悟の上だった。来る途中に、ホームセンターに寄ってシャベルを買っておいた。
シャベルを持って庭に立つ。長方形の庭だ。人が立って作業をすることを考えると、穴はどちらかに寄っているはずだ。地面の様子を伺う。一度、掘り起こしたとしたら、雑草の薄い方だろう。賭けだ。縁側から向かって右側の庭の地面を掘り始めた。
他人の家の庭を掘り返しているところを見咎められ、警察に通報されてしまっては元も子もない。門前に車を停めてある。駐車違反だ。誰か不審を抱くかもしれない。のんびりはしていられなかった。
シャベルを持つ手に力が入る。
直ぐに手ごたえがあった。
狭い庭だ。掘り返した土を積み上げる場所がない。深く掘ることができなかったのだろう。地面から十センチ程度の場所に、プラスティック製のものが埋まっていた。意外に大きい。掘り進めると、スーツケースだということが分かった。
ビンゴだ。俺はスーツケースを掘り出した。
スーツケースには鍵が掛かっていた。壊すしかない。頑丈で苦労したが、シャベルを使ってなんとか鍵を破壊した。
参った。そこまでは順調に作業が進んだのだが、スーツケースを開ける段になって、急に怖くなった。中に何が入っているのか、想像がついたからだ。
スーツケースを開くのが怖かった。




