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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
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殺人計画④

 事務所を出ると、「藤川さん」と背後から声を掛けられた。

 阿部だ。「阿部さんも帰るの?」と聞くと、うんと頷く。地下鉄の最寄り駅まで一緒に歩くことになった。これからどうするのと聞かれたので、久しぶりにジムに行くと答えると、「ああ~」と阿部は納得した顔で頷いた。

 どうせ筋肉バカとしか思っていないのだろう。

「藤川さん、ジムで体を鍛えるのも悪くないですけど、デートとか、しかないんですか?」

「彼女なんていないよ」と答えると、「へえ~」と阿部は俯き加減で歩きながら答えた。

 阿部は小柄だ。華奢で折れてしまいそうだ。俺が力を入れれば、腕なんてぽっきり折れてしまいそうだ。鍛えてはいるが、俺はそれほど背が高くない。それでも、阿部と並ぶと、巨大になった気がする。

「何時から彼女がいないんですか?」と聞くので、「何時からだろう?」と考えた。

「前にデートしたの、何時ですか?」

「一緒に学校から帰った時かな?」

「学生時代ですか?喫茶店か何処かでデートしたのですか?」

「喫茶店だなんて。一緒に歩いて帰っただけさ」

「家が近所だったんですね。幼馴染ですか?」

「うん。そうだね」

「へえ~じゃあ、初恋の人だったとか?」

 あまり話をしたことが無かったが、阿部は恋バナが好きなようだ。

「初恋?そうだったかもしれない」

「純愛だったんですね」

「純愛さ」

「それで、彼女とはどうなったのですか?」

「どうなった?どうなったんだっけ・・・ああ、そうだ。彼女、お父さんの仕事の都合で引っ越してしまった。それで、学校が別々になって、会わなくなったんだ」

「転校したのですね?」

「いや、学区が変わって違う学校に進学したんだ」

「学区?」

「帰り道、彼女のランドセルが――」と言うと、阿部が「ひっ!」と悲鳴を上げた。まるで幽霊でも見たような強張った顔で、俺を見つめている。

「どうかした?」

「あの・・・ランドセルって・・・彼女って、ひょっとして、小学生ですか⁉」

 変態を見つめる目付きだ。

「そうだよ。だって、僕も小学生だったんだから。小学生で彼女が出来るなんて、ませたガキだって言われたものさ」

 俺はロリコンではない。

「そうですか」今度は憐みの視線だ。捨てられた子犬でも見つめているかのようだ。

「ほら、小学生の時、走っていて急に止まると、背中に背負っていたランドセルの中味が全部、出ちゃったことってなかった?帰り道で、追いかけっこしていて、彼女が急に立ち止まっちゃったもんだから、ランドセルが――」

 阿部はもう俺の話を聞いていなかった。駅に着くと、「じゃあ、私はこっちですので」とあっという間に人ごみに消えて行った。

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