殺人計画④
事務所を出ると、「藤川さん」と背後から声を掛けられた。
阿部だ。「阿部さんも帰るの?」と聞くと、うんと頷く。地下鉄の最寄り駅まで一緒に歩くことになった。これからどうするのと聞かれたので、久しぶりにジムに行くと答えると、「ああ~」と阿部は納得した顔で頷いた。
どうせ筋肉バカとしか思っていないのだろう。
「藤川さん、ジムで体を鍛えるのも悪くないですけど、デートとか、しかないんですか?」
「彼女なんていないよ」と答えると、「へえ~」と阿部は俯き加減で歩きながら答えた。
阿部は小柄だ。華奢で折れてしまいそうだ。俺が力を入れれば、腕なんてぽっきり折れてしまいそうだ。鍛えてはいるが、俺はそれほど背が高くない。それでも、阿部と並ぶと、巨大になった気がする。
「何時から彼女がいないんですか?」と聞くので、「何時からだろう?」と考えた。
「前にデートしたの、何時ですか?」
「一緒に学校から帰った時かな?」
「学生時代ですか?喫茶店か何処かでデートしたのですか?」
「喫茶店だなんて。一緒に歩いて帰っただけさ」
「家が近所だったんですね。幼馴染ですか?」
「うん。そうだね」
「へえ~じゃあ、初恋の人だったとか?」
あまり話をしたことが無かったが、阿部は恋バナが好きなようだ。
「初恋?そうだったかもしれない」
「純愛だったんですね」
「純愛さ」
「それで、彼女とはどうなったのですか?」
「どうなった?どうなったんだっけ・・・ああ、そうだ。彼女、お父さんの仕事の都合で引っ越してしまった。それで、学校が別々になって、会わなくなったんだ」
「転校したのですね?」
「いや、学区が変わって違う学校に進学したんだ」
「学区?」
「帰り道、彼女のランドセルが――」と言うと、阿部が「ひっ!」と悲鳴を上げた。まるで幽霊でも見たような強張った顔で、俺を見つめている。
「どうかした?」
「あの・・・ランドセルって・・・彼女って、ひょっとして、小学生ですか⁉」
変態を見つめる目付きだ。
「そうだよ。だって、僕も小学生だったんだから。小学生で彼女が出来るなんて、ませたガキだって言われたものさ」
俺はロリコンではない。
「そうですか」今度は憐みの視線だ。捨てられた子犬でも見つめているかのようだ。
「ほら、小学生の時、走っていて急に止まると、背中に背負っていたランドセルの中味が全部、出ちゃったことってなかった?帰り道で、追いかけっこしていて、彼女が急に立ち止まっちゃったもんだから、ランドセルが――」
阿部はもう俺の話を聞いていなかった。駅に着くと、「じゃあ、私はこっちですので」とあっという間に人ごみに消えて行った。




