表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
36/53

殺人計画①

「弓月を殺すつもりでした」

 高寛はまるで、今日の天気を告げるように言った。

「なんで、弓月を殺そうと思うたんや?確かに下着の件は疑わしい。それにしたって、弓月がストーカーやった可能性を示しとるだけで、お兄さんを殺害した証拠やあらへん。青木っちゅう人の娘さんの事故にしたって、弓月が車を運転していた証拠なんてあらへんがな」鬼政が尋ねる。

「真実を知っているのは弓月だけです。でも、尋ねても本当のことは教えてくれないでしょう。あなた、人を殺しましたねと聞いて、はいそうですって答える訳がありませんから」

「そうやろうな」

「そこで、井上さんの事件を餌におびき寄せることにしました。殺人事件なんて、地元の人間でなければ、詳しいことは分かりませんからね。私が井上です。うちで殺人事件がありましたって言えば、余所者は直ぐに信じるでしょう。弓月探偵事務所の経営状態が良くないって噂が聞こえて来ていましたから、殺人事件の調査だと言うと、餌に食いついてくると思いました」

 実際、その通りだった。久々、大事件の調査依頼とあって、弓月はさして疑いもせずに調査を引き受けた。

「ああ、そうだ。田口さんのことを話しておかなければなりません」

「田口さん?」

「藤川さんはご存じでしょう。面識がありますから。あの夜、父の会社の同僚だと言って田上という人がいたことを。本当の名前は田口智康さんと言います」

「優しそうな紳士という印象でしたね」

「はは。実は田口さん、蛭間昭雄さんのお父さんなのです」

「えっ⁉でも、名前が・・・」

「はい。田口さんは離婚されていて、分かれた奥さんの名前が蛭間なのです」

「ああ、なるほど」

 田上は田口で蛭間昭雄の父だった。ちなみに高寛の母親は今日子という名前で、井上淳子という被害者の妻を熱演した。

 皆、偽名を使っていたのでややこしいが、高寛を中心に関係者を整理すると、こうなる。


 井上晃=辻花高寛

(父)井上晴秀=(父)辻花大悟

(母)井上淳子=(母)辻花今日子

(叔父)井上輝秀=(叔父)辻花公正

(父の友人)田上常永=(蛭間昭雄の父)田口智康

(母方の親戚)青田大輝=(青木涼香の父)青木矩史


 井上晴秀は実際に事件の被害者だが、その他の面々は全て架空の人物だそうだ。

「兄の事件があってから、直ぐに、田口さんから連絡がありました」

 その時はまだ、良悦が蛭間昭雄に殺害されたと思い込まされていた。田口と名乗る人物から、辻花大悟に連絡があった。

「蛭間昭雄の実の父親だ。一度、会って話をしたい」と言うので、大悟はてっきり、息子の不祥事を詫びたいのだろうと思った。だが、息子は犯人じゃない。犯人のはずがないと言う。そんな話なら聞きたくないと、大悟は会わずにいた。

「一連の事件の背景に、失踪した青木さんのお嬢さんの存在があることが分かってから、兄の死に対して疑問が浮かぶようになりました。父は田口さんのことを思い出し、連絡を取りました。田口さんは直ぐに会いに来てくれました。そして、蛭間さんが犯人ではないという証拠を示したのです」

「証拠があったのですか⁉」、「証拠!」

 鬼政と同時に声を上げてしまった。

「ああ、すいません。証拠って言っても、物証って言うんですか、そういうものではありません。僕らは警察ではありませんから。田口さんが打ち明けてくれた話だけで十分でした」

「どんな話だったのですか?」

「故人の名誉に係わることですので、あまり言いたくないのですが・・・」と高寛は躊躇う素振りを見せてから、「まあ、仕方ありません。田口さんは驚くべき言葉を言ったのです」と言った。また驚くべきだ。大仰だが高寛の話には実際、驚かされる。

 高寛は言う。

 ――蛭間昭雄さんはゲイだったのです。

 蛭間はゲイだった。どういうことだ?何故、それが証拠になるのだ。

「田口さんは奥さんと離婚しています。離婚してから仕事が忙しくなり、週に一度という訳に行きませんでしたが、それでも年に五、六回は息子さんと会っていたそうです。それくらいの距離感が丁度、良かった。田口さんはそう言います。母親に言えないことでも、父親には話すころができた。そう言っています。

 ある時、昭雄さんは自分がゲイらしいと打ち明けてくれました。そして、友人を好きになって苦しんでいるようだったと田口さんは言いました。蛭間さんが好きだったのが誰だったのか、今となっては分かりません。でも、蛭間さんが若い女性をストーカーなんかするはずがない。だから、ストーカー行為がバレそうになって、人を殺したなんてあり得ない。田口さんはそう言いました。例の下着の件もあります。僕らにはその話だけで十分でした」

 辻花良悦の彼女だった奈津に横恋慕し、ストーキングを繰り返し、それがバレてしまい、追いつめられて良悦を殺害してしまった。そして、それを苦に自殺した。そう考えられていたが、蛭間昭雄がゲイだったとすると、その前提条件が崩れたことになる。

「何かがおかしい、僕らはそう考えました」

「真実を知っているのは弓月だけだと、そう考えた訳ですね」と言うと、「はい」と高寛が力強く頷いた。「青木さんからも、何度も連絡がありました。娘さんがどうなったのか知りたい。死んでしまったのなら、骨になっていても構わない。自分のもとに帰ってきてもらいたい。そう涙ながらに訴えられました。

 弓月をうちにおびき寄せる計画を練りました。おびき寄せることさえできれば、やつを問い詰め、真実を聞き出すつもりでした。口を割らなければ、多少、強引な手段を取ることも辞さない覚悟でした。計画を練り始めると、青木さんから、是非、その場に立ち会わせてくれと言われました。田口さんからも、その計画に加えてくれと言われました。そして、やつに復讐する時は、自分も手を貸したい、あなたがたに罪を押し付けたりしない、と言われました。二人が加わって計画が完成し、あの夜を迎えたのです」

 いよいよ佳境だ。あの夜、一体、何があったのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ