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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
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消えた女子高生③

 高寛が申し訳なさそうに言った。「もう少しです。涼香さんの事件が、今回の事件とどう係わってくるのか、それを今から説明します。発端は遺品整理でした。兄が亡くなってから、遺品を整理していた時のことでした」

 事件後、高寛は上京し、良悦が東京で借りていたマンションを解約し、私物を箱詰めにして実家へと発送した。

「その時、橋本奈津さんと会ったのです」

 橋本奈津は良悦の恋人だった女性だ。高寛が遺品整理の為に上京していることを聞きつけ「お兄さんの私物を預かっているので、お返ししたい」と奈津の方から連絡があった。

「指定された喫茶店で奈津さんと会いました。そこで兄の私物を詰めたデパートの紙袋を渡されました。服が多かったですね。兄が奈津さんにプレゼントした指輪やネックレスなど、貴金属を除いて、奈津さんが返したいと言う物は全て受け取りました。奈津さんは貴金属も受け取って欲しかったようですが、兄の気持ちを考えると受け取れませんでした。奈津さんに持っていてもらいたいと、兄は思っている。そんな気がして。受け取ってしまうと、兄の意志を無視してしまうような気がしました。嫌でなかったら、持っていて下さい。持っているのが嫌なら、処分してもらって結構です。そう言って断わりました。

 奈津さんは、そうですかと煮え切らない顔をしていました。兄の思い出を引きずりたくなかったのでしょう。仕方ありません。何時までも兄の面影を引き摺っていても、幸せになれませんから。奈津さんの為になりません。

 兄の思い出を聞いている内に、奈津さんが妙なことを言い出しました。事件後、随分経ってから知ったのですが、兄に言ったことと、弓月さんの証言が違っていたと。ニュアンスが違っていたそうです」

 恋人の突然の死がショックだった。奈津は事件の後、体調を崩して、入院していた。良悦の事件の後、蛭間の自殺騒ぎがあり、随分、経ってから刑事の訪問を受けた。

「どう違っていたのです?と奈津さんに尋ねました。奈津さんは、私はストーカーが蛭間君だとは言っていないと答えました。あの夜、誰かにつけられました。足音が聞こえたのです。奈津さん、怖くなって駆け出しました。町角を曲がったところで、自動販売機があったので、その陰に隠れました。すると、ぱたぱたと足音がして、誰かがやって来ました」

「自動販売機の灯りで、ストーカーの顔を確認したのでしょう?」

「いいえ。そこが違うのです。確かに自動販売機の灯りで、周りは明るくなっていました。でも、奈津さんを追って来た人物は、町角を曲がると直ぐに足を止めてしまったのです。自動販売機が邪魔になって、顔が見えなかったそうです。ストーカーは立ち止まり、奈津さんの姿を探しました。見つかると何をされるか分かりません。奈津さんは怖くて、自動販売機の陰で震えていたそうです。生きた心地がしなかったでしょうね。相手の顔を確認することなど、とても出来なかったと、奈津さんは言っていました」

 ストーカーは突如、姿を消した奈津の跡を追うかどうか迷った。やがて、奈津の跡を追いかけることをあきらめ、踵を返すと暗闇に消えて行った。

「ストーカーは蛭間では無かったのですか?」

「角を曲がる時、一瞬、ちらと後ろを振り返って、ストーカーの様子を盗み見ました。男性で背格好が、丁度、蛭間さんと同じくらいだったそうです。だから、兄から、どんなやつだった?と聞かれた時、背が高くて痩せ形で、ちょうど蛭間君と同じくらいの体形だったと伝えたそうです。ストーカーが蛭間さんだったとは一言も言っていない、奈津さんはそう繰り返しました。それが何故か、ストーカーが蛭間さんであったと弓月さんに伝わっていたのです」

「今の話を、刑事さんにしたのでしょうか?」

「それが、あの当時、奈津さんはひどく混乱していて、よく覚えていないそうです。記憶がごちゃごちゃになっていて、はっきりと覚えていないと奈津さんは申し訳なさそうに言いました。そして、それにと何か言いかけて、急に口を噤んでしまったのです。

 他にも、何かあるのでしたら、全部、話してもらえませんか?一人で抱え込んで、悩まないで下さい。僕も一緒に悩ませてください。そう奈津さんに言いました。奈津さんは、やっぱり、辻花君の弟さんだねと言いました。兄にも、同じようなことを言われたことがあるそうです。一人で悩んでいないで、一緒に悩ませてくれって。

 そして、驚くべき話を打ち明けてくれたのです」

「驚くべき話?」

「兄に下着を盗まれた話はしていなそうです。それどころか、下着を盗まれたことは、誰にも言っていないと言うのです」

「えっ⁉」どういうことだ?本当に驚いた。

 若い女性だ。下着を盗まれたことは、恥ずかしくて人に言えなかったのだろう。それは理解できる。だが、何故、弓月が下着を盗まれたことを知っていたのか?

 奈津は下着が盗まれたことを誰にも言っていない。だが、弓月はそのことを知っていた。何故だ?下着が盗まれたことを知っていたのは、奈津と犯人だけだったはずだ。

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