表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第三章
33/53

消えた女子高生②

 辻花高寛から聴取した話は事件を振り出しに戻しただけだった。

 二人で高寛を駅近くのファミリーレンストランに連行し、話を聞いた。鬼政は元刑事だ。目の前で、「ほな、辻花さん、話を聞かせてもらいまひょか?」と詰め寄られると、威圧感たっぷりだった。

「ふう~」と大きなため息を吐いた後で、高寛が話し始めた。「分かりました。全て、お話しましょう。ご存じないでしょうが、兄の事件が起こる二か月ほど前、長野で青木涼香ちゃんという高校生の女の子が行方不明になりました。全ては、この涼香ちゃんの失踪から始まったのです」

 高寛が語った事件の概要はこうだ。

 青木涼香は長野県在住の高校生で、父の青木矩史(あおきのりふみ)は田舎町で教師をしていた。何も無い町で、スーパーと言えば幹線道路の県道添いにコンビニらしき店が一軒あるだけだった。後は田圃しかないような町だ。そんな町で青木家は暮らしていた。

 青木家は父子家庭だ。早くに母親を病気で亡くしている。娘は涼香一人。涼香が家事を切り盛りしていた。

「ある日、帰宅したてみたら娘さんの姿が見えませんでした。日頃から、家事は俺がやるから、部活とか友達と遊びに行くとか、もっと若者らしいことをしろと青木さんは娘さんに言っていました。ですが、娘さんは、お父さんに家事を任せると、結局、二度手間になってしまうと言って任せようとしませんでした。申し訳ないと思いながら、青木さんは娘さんに家事を任せっぱなしにしていたそうです。そんな娘さんが、いなくなったのです。

 鞄が台所の椅子の上に放り出してありました。学校から帰って来たことは間違いありません。夕食の準備を始めたところ、足りないものがあることに気が付いて、慌てて買い物に出たといった感じでした。

 既に陽が落ちて真っ暗でした。夜道は危ないと、青木さんは迎えに出ました。でも、娘さんとは出会いませんでした。友だちの家に遊びに行ったのかもしれないと、友人の家に連絡を取りましたが、娘さんは何時も通り授業を終えると、真っ直ぐ帰宅したと言う答えでした。

 青木さんは家とスーパーを何度も往復して涼香さんを探しました。でも、見つかりませんでした。翌日、まんじりともせずに朝を迎え、陽が上ってから付近を探し回ると、スーパーの前の県道添いの畑から、涼香さんの自転車が見つかりました。ぐにゃぐにゃにねじ曲がっていて、涼香さんの身に何か不吉なことが起こったことのではないかと心配になりました」

 高寛はそう言って眉をひそめた。

 青木涼香という女子高生が事件に巻き込まれたことは間違いなさそうだ。だが、それが弓月の事件とどういう関係があるのだ。疑念が顔に出ていたようで、高寛が言った。「すいません。もう少し、僕の話を聞いてください」

 青木は警察に失踪届を提出すると、目撃者をもとめて近くを聞き込んで回った。怪我をして、何処かに運び込まれたのかもしれないと、県道沿いの病院を訪ね歩いたりした。だが、涼香の姿はどこにも無かった。

 涼子が姿を消してから一カ月後、スーパーの店主から、この辺りで最近、行方が分からなくなった女の子はいないかと若い男に聞かれたと連絡があった。この辺りで見ない顔だ。

 青木はスーパーに飛んで行った。

「まだ、その辺りにいるはずだとスーパーの店主が言うので、青木さんは店を出て、辺りを探し回りました。程なく、道端で佇む一人の若者の姿が目に飛び込んで来ました。若者は県道沿いの路肩で、雑草の生い茂った畠を見つめていたそうです」

 丁度、涼香の自転車があった藪の辺りだ。

 青木は足を止め、息を整えてから、ゆっくりと若者に歩み寄った。

 ご旅行ですかと声をかけたところ、若者は驚いたような顔を向け、ええと答えた。そして、青木から逃げるように立ち去ろうとした。

「この若者は涼香の行方について何か知っている!青木さんは直感しました。思い切って、若者に声をかけました。私は行方不明となっている女子高生の父親です。娘の行方について、何か知っているのではありませんかと」

「それで、若者は何と答えたのです?」

「若者は足を止めました。青木さんは若者の前に回り込んで、お願いです。娘のことで何か知っているのなら、教えて下さい、父と子、二人だけの家族なのですと懇願しました。青木さんの言葉に若者は顔を歪めました」

 明らかに若者は動揺していた。

「それでも若者は何も答えませんでした。親孝行な娘で、夕食の準備の為に買い物に行ったきり、行方が分からなくなったのです。そう情に訴えました。ですが、すいません。僕は何も知りませんと、若者はそう答えたきり、押し黙ってしまいました。

 仕方ありません。何か知っていることがあればご連絡下さいと、青木さんは持って来た名刺を若者に押しつけました。若者は小さくお辞儀をすると、逃げるようにその場から立ち去りました」

 その後、若者からの連絡は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ