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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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不意打ち④

 関西本線加美駅前のコンビニの二階に成安生命加美支店があった。

「ほな、突撃や~!」鬼政と二人、階段を登る。

 自動ドアから中に入ると、いらっしゃいませと声が掛かった。近くの席から若い女性が飛んで来る。目の大きな小柄な女性だ。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「辻花高寛さんはいらっしゃいますか?」と言うと、背中を向けて仕事をしていた男が振り向いた。

 男と目が合った。

 井上晃だ。間違いない。細く整えた眉毛、腫れぼったい目に団子鼻、分厚い唇、全て記憶通りだ。

 俺の顔を見た高寛は驚愕の表情を浮かべた。そして、直ぐに顔を逸らした。

「大政さん、間違いありません。彼です」隣の鬼政に囁いた。「ふふん」と鬼政が鼻を鳴らした。

「辻花さ~ん。お客様ですよ~」女性が叫ぶ。

 晃、いや、高寛は聞こえない振りをしている。背中を向けたままだ。何故、ここが分かったんだと焦っているに違いない。

「辻花さ~ん」女性がもう一度、名前を呼ぶと、「はい」と高寛が立ち上がった。

 観念したようだ。

 背中を向けたまま、ひとつ大きく深呼吸をすると、意を決したように振り向いた。そして、満面の笑顔を湛え、足早でやって来た。

「お客様~辻花でございます。どういったご用件でしょうか?」

「辻花さん、いや、井上晃さんと言った方が良いですね?僕のこと、覚えていますよね?」

「失礼ですがお客様、どなたかとお間違えではないですか?」

 あくまで白を切るつもりのようだ。

「僕です。一昨日、弓月と一緒にお宅にお邪魔した藤川です」

「藤川様?いいえ~初対面だと思います。平凡な顔ですので、誰かと間違えているのでしょう」

「弓月知泉、亡くなりました。殺されたのです。お宅が所有しているため池から遺体が出たことはご存じですよね?」

 会社の人間に聞かれたくないはずだ。高寛は声を潜めた。「警察から連絡がありました。物騒な世の中になりました。よりによって、うちの池に遺体を捨てるなんて。こちらと致しましても甚だ迷惑しております」

「あの夜、一体、何があったのですか?」

「あの夜とおっしゃられても、どの夜なのか、私には分かりかねます。はい」

 笑顔を湛えたままだが、額に脂汗を滲ませていた。早く話を切り上げたいのだ。受付に椅子が置いてあったが、着席を勧めようとしなかった。

 必然、立ったまま話が続く。

「他人の空似だと言い張るのですね?」

「井上晃という方は存じ上げません」

「あなたの偽名です」

「偽名を使ったことなどございませんが」

「あくまで会ったことがないとおっしゃるのですね・・・」

 相手が認めない以上、どうしようもない。

「まことに申し訳ございませんが、保険のご相談でないようでしたら、お引き取りいただけますか?少々、立て込んでおりますので」

 俺たちを厄介払いしようとした。

「潮時だな」鬼政が小声で言うので、「お仕事中、すいませんでした」と頭を下げて、成安生命加美支店を後にした。

 もう少し粘れたような気がする。

「知らぬ存ぜぬで押し通されてしまいました」

「まあ、しゃあない。一昨日、兄ちゃん、自宅に押し掛けて、やつの父親に会うとる。父親から連絡があったのかもしれへん。兄ちゃんと会うたら、知らぬ存ぜぬで押し通せとな。なあに、そうがっかりすな。無駄足なんて何時ものことや」

「はあ、まあ、探偵の端くれですから、分かってはいますが、残念です。彼を追い詰めることができなくて」

「兄ちゃん、これで引き下がる気が無いなら、もうちょっと突いてみるか?」

「勿論です。是非、やりましょう。どうすれば良いのです?」

「やつの帰宅を待ち伏せて、もういっぺん、急襲する。職場でなければ、何ぞ聞き出すことが出来るかもしれへん」

「でも、また知らぬ存ぜぬで押し通されたらどうします?」

「ふふ。そうならへんよう、ちょいと細工をしとくのさ」と言って、鬼政はにやりと笑った。

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