表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
29/53

不意打ち③

 朝から疲れた。眩暈を覚えてベッドに横になっていると、部屋の電話が鳴った。

「おう、兄ちゃん。今日はどないする?」

 鬼政だ。約束の九時だった。

「勿論、出かけます。このままホテルで無為に過ごす訳には行きません。弓月の敵を討たないと」

「敵討ちって、兄ちゃん。変なこと考えたらあかんで。あくまで犯人を見つけるだけや。その後のことは警察に、法の裁きに任せるんやで」

「はい。分かっています。つい調子の良いことを言ってしまいました。直ぐに降りて行きます」

 ロビーに降りると、鬼政が待っていた。今日は背広にシャツを着て来ていた。「どうしたんです?」と尋ねると、「はは。昔取った杵柄や。どうせやったら、しっかり、刑事に間違えてもらわんと」と照れた表情で答えた。そして、「兄ちゃん。朝飯食ったか?朝飯を食わんやつは役に立たん。食欲があれへん?せやけど、何ぞ腹に入れや。ほら、俺がおごってやる」とホテルのレストランに連れて行かれた。

 勝手にモーニングを注文された。鬼政はコーヒーだ。「兄ちゃん、三国志の魏延って知っとるか?」相変わらず三国志の話題だ。

 親子程年齢が離れている。考えてみれば事件の話以外、共通の話題など無い。あるとすれば、三国志の話題だけだ。鬼政なりに気を使っているのだ。

「ええ。蜀の武将でしょう。ゲームじゃ結構、戦闘力が高くて使える武将です」

「さよかい。魏延には反骨と言う、反逆の相があったらしい。反骨精神とか言うやろう。あの反骨や。後頭部が出っ張っとることを反骨の相と言うて、反骨がある人間はいつか、人を裏切るそうや。諸葛孔明はいずれ魏延が裏切ることを知っとって、自分の死後、魏延を処分するように言い残しておいた」

「へえ~」とトーストを口に運ぶ。食欲は無いと思っていたが、朝食を目の前にすると意外に食が進んだ。

「兄ちゃん、池で遺体を引き上げた時に見たが、あんたのボスにも反骨の相があった」

 鬼政に言われて、ああ~そうだったと思った。弓月の後頭部はまるく張り出していた。

「死んだ人間を悪く言うつもりはない。せやけど、兄ちゃん、あんたのボスは信用できる人間やったか?」

「それは・・・」と口籠ってしまった。杉山が言った「誰かから無用な恨みを買っていた」という言葉を思い出した。

「今日はどうします?何を調べるのですか?」と話を逸らした。

 鬼政は「ふふ。ひとつ奇襲をかけてみようと思う」と楽しそうに言った。

「奇襲ですか?」

「そうや。まあ、先ずはゆっくり飯でも食いな。腹ごしらえや。飯が終わってから、詳しく説明してやる」

「分かりました」慌てて食べかけのトーストを口に頬張った。

 今日も鬼政の軽自動車で出かける。助手席に腰を降ろし、「何処に行くのか教えてもらえませんか?」と尋ねると、「平野や」と答えた。まあ、そうだろう。

「平野に何があるのですか?」と尋ねると、「成安生命を覚えとるか?」と質問で返された。

「成安生命ですか・・・確か、井上家の人間が勤めていると言っていた保険会社の名前ですよね。殺された井上家の当主、それに息子の晃君、それに会社の同僚の田上という人が成安生命に勤めていると言っていました。まあ、皆、嘘を吐いていたんでしょうが」

「それがそうでもないんや。殺害された井上晴秀は成安生命に勤務などしとらへんかった。河内設備っちゅう水道工事をやっとる会社に勤めとった。だがな、成安生命っちゅう会社はちゃんとあって、しかも、坂上田村麻呂の子孫が設立した会社ちゅうのも間違いない」

「本当に成安生命という会社があるのですね。じゃあ、あながちデタラメでもなかった訳だ」

「そうや。全て嘘で固めるより、ある程度、事実を混ぜておいた方が、嘘がバレにくいからな。辻花家の人間について調べてみた。すると、おもろいことが分かった」

「面白いことですか」

「辻花家の主、辻花大悟、ほんで息子の高寛(こうかん)は成安生命に勤めとる」

 鬼政はにやりと笑った。昨晩の串焼きの後も捜査を継続していたのだ。頭が下がる。

「彼らの言っていたことは、本当だったのですね⁉」

「まあな。辻花大悟は平野にある本店に勤めとる。ほんで、息子の高寛はというと、加美駅前にある支店に勤務しとることが分かった」

「僕が会った井上晃ですね!」

「そやろな。ほんでや。これから、加美支店に押し掛けて、高寛を尋ねてみようっちゅう訳や。不意打ちや。職場だと逃げ隠れでけへんやろう」

「ああ、素晴らしい。流石、元刑事!」素直に感心すると、「はは、兄ちゃん。もっと言うたれや」と鬼政が上機嫌で言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ