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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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不意打ち②

 朝一番で事務所に電話を入れると、阿部が電話を取った。「どう、事務所の方は?」と探りを入れてみると、「みなさん、忙しそうですよ~」と呑気な答えが返って来た。

「忙しそうって、調査で飛び回っているってこと?」

「ちょっと違うかな~みんな落ち着きがないみたい」

 意外にしっかり人を観察している。

「所長が居なくなったんだ。仕方ないだろうね」

「ああ、そうだ。藤川さん。杉さんが藤川さんと話をしたがっていましたよ。井上輝秀さんの経済状況について調べるよう、所長に言われて調べたそうですけど、調査結果、どうしたら良んだって困っていました。藤川さんから電話があったら、聞いてみてくれって言われました」

 杉さんとは杉山という名の探偵事務所の調査員だ。ベテランの調査員で、渡川が即戦力と言って連れて来た人物だ。

「井上輝秀の経済状況?」

 井上輝秀と言うと、被害者の弟だと名乗った癖の強い人物だ。殺された井上晴秀には輝秀という弟がいた。いや、本当にいたのかどうか分からない。とにかく、あの夜はそういう設定だった。恐らく、辻花家の誰かが弟に成りすましていたのだろう。

「所長は何処からか情報を手に入れていたようです。井上輝秀さんは兄の晴秀さんと土地をめぐって諍いがあった。それを詳しく調べるようにと、所長から杉さんに指示があったそうです」

 あの晩、弓月が待っていた調査結果とはこのことだったのではないか。弓月は井上輝秀を犯人だと考えて調査を進めていた?

「それで、調査の結果はどうだったの?」

「さあ、私にはちょっと――」と阿部が言うので、「杉さんはいるかい?」と尋ねると、「いますよ」と答える。

「ちょっと杉さんと変わって」

 だったら最初から杉さんと代わってくれれば良いのに。電話口に杉山が出た。

「所長から頼まれた調査のことだよね」

 杉山が調査結果を教えてくれた。

 輝秀と兄の晴秀は土地をめぐって争っていた。「最近、井上輝秀が所有していた土地の一部の名義を、兄の晴秀名義に書き換えている。もともと父親が残した土地のようだが、最近、二人が所有している土地に道路が通ったらしい。道路を境にお互い、土地の一部が相手の土地に出張ってしまった。折角なので、道路を境界線として、お互いに出張った土地の名義を相手の名義に書き換える約束をした。ところが、輝秀は名義を書き換えたのに、晴秀は名義を書き換えなかった。それで諍いになった」

「兄弟でも、わずかな土地をめぐって争いになるんですね」

「人間なんて、そんなものだ」杉山には何処か覚めたところがある。「弓月にしろ、殺されたってことは、誰かから無用の恨みを買っていたってことだ。怖いね。君も気をつけな。何処で恨まれるか分かったものではない。とにかく、輝秀には動機があった。弓月も晴秀殺害の犯人は輝秀だと考えていたはずだ」

 井上晴秀殺害の犯人として、既に藤原という前科者が捜査線上に浮かび上がっている。藤原が犯人であることを示す証拠もある。だが、そのことは捜査機密だ。鬼政から聞いた話を事務所の人間とは言え、簡単に教える訳には行かなかった。

「分かりました。貴重な情報、ありがとうございます」

 杉山は弓月の事件について聞きたがった。

「すいません。遺体が見つかったと言うだけで、詳しいことはまだ何も分からないのです。何か分かれば、渡川さんに伝えることになっています。とにかく、一刻も早く、所長を殺した犯人を捕まえることができるように、警察の捜査に協力します。杉さんの情報もきっと役に立つと思います」何とか誤魔化しておいた。迂闊にしゃべって鬼政に迷惑がかかるといけない。

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