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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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不意打ち①

「兄ちゃん、今日はこれくらいにしておこう。部屋に戻ってゆっくりしぃ。明日、その気があるなら続きをやろう」

 飛車に礼を言うと、「ご用の際は、何なりとお申し付け下さい」と口では言いながら、これ以上、係わりたくないとばかりに逃げて行った。

 飛車がいなくなると、鬼政が躊躇いがちに言った。「一人でいるのが嫌なら、飯でも食いに連れて行ってやる。どうせ、わいも一人飯やからな」

 折角、食い倒れの町に来ているのだ。地元の人間に案内してもらえるなんて、そうそうない。一も二もなく「はい」と返事した。

 鬼政は嬉しかったようで、「さよか~今日はわいのおごりや。串カツでも食いに行こう」と行きつけの串カツ屋に連れて行ってくれた。

「兄ちゃん、どんどん食えや」と腹いっぱい串カツをご馳走になると、「ええか、ゆっくり休め。くよくよ考え込むんやないで」とホテルに送ってくれた。

 一人で部屋にいると、色々、考えてしまう。会田とジムに行く約束をしていた。忙しいサラリーマンだ。仕事を済ませてから食事をし、ジムに来るとなると、かなり遅くなる。約束の時間には早かったが、先に行って待っていようと思った。

 ジムに行くと、会田がいた。

「早いですね」と言うと、会田は白い歯を見せて笑った。「今日は、仕事が不調でしたので、早めに切り上げて来ました。まあ、こんな日もあります」

「仕事が上手く行かなかったのですか?」

「交渉決裂です。テーブルを叩いて、帰ってきてしまいました」

「テーブルを叩いて帰って来た⁉そんなことして、大丈夫なのですか?」

「大丈夫じゃないかもしれません。お客様、腹を立てたでしょうから」

「そんな・・・お客さんに謝った方が良いんじゃありませんか?」

 他人事ながら、心配になった。だが、会田は涼しい顔で、「はは。ご心配には及びません。なあに、少々、我儘なお客様で、契約は済んでいるのに、追加であれをやって欲しい、これも入れてくれと、要求が多いのです。なるべく、ご満足いただけるように善処して参りましたが、こちらも商売です。慈善事業ではありません。譲れない線というのがあります。物別れになった方が良い場合もあります」と笑った。

 屈託のない笑顔だ。本心だろうか?

 会田がいるのは、生き馬の目を抜く世界だ。そういうものかもしれないと思った時、携帯電話が鳴った。会田の携帯だ。

「ちょっとすいません」と会田がジムから出て行った。

 暫くして戻って来ると、「ご心配おかけしましたが、お客様からでした。明日、もう一度、話し合いたいと言うことです。予定より一泊、滞在が伸びそうです」と嬉しそうに言った。

 賭けに勝ったようだ。

「しょっちゅう、こんなことをやっている訳ではありません。でも、時には開き直りも大事です」と会田は言う。そして、「さあ、ベンチプレス、やりましょうか?今日も追い込みましょう」と相変わらず、精力的だ。

 会田の言う通りだ。くよくよしていても仕方がない。時には、開き直ることも必要だ。

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