処刑スタイル④
「殺人!」飛車が目を見張る。
「そや。ちょっと見せてもらうだけや。協力したってや」
「そう言われましても・・・」迷っている。
「あんたに見せてもらったことは、誰にも言わへん。ちょっとでかまへん。防犯カメラの映像を見せてくれまへんか」
「今からですか⁉」
「ああ、今からや」
「分かりました。では、こちらへ」飛車は観念したようだ。
飛車は俺たちをフロント裏の管理室へ導いた。
結構、広い。ごく普通の事務所だ。一角にモニターがあった。防犯カメラだ。画面が四分割してあり、ひとつはフロントの画像だった。
「弓月様がチェックアウトされたのは昨晩の九時過ぎですから・・・」と飛車がモニター前のキーボードを操作して、画像を巻き戻した。暫く、客のいないフロントが映っていたが、やがて、「ああ、これのようです」と飛車が言った。
フロントに若い男がやって来る。弓月だ。
弓月はゆっくりとした足取りでフロントに近づくと、二言、三言、話をしてから、カードキイを置いて、歩き去って行った。ほんの数分の出来事だった。
「兄ちゃん、あんたのボスか?」
「弓月です。間違いありません」
間違いない。弓月だ。誰かに脅されてチェックアウトをした――といった気配は感じられなかった。
「被害者が自らホテルをチェックアウトしとる。自分の意志で出て行ったと言うことや」
「どういうことでしょう?」
「ううむ・・・・」鬼政が唸る。
チェックアウトをしたのは別人、そう考えていたようだ。忌々しそうに言う。「被害者は生きて井上家だか辻花家だかを出てん言うことやな」
となると、犯人は井上家、いや辻花家の人間ではないと言うことだろうか?じゃあ、何故、辻花家の人間は井上家を騙って弓月を呼び出したのだ。弓月を殺害する為では無かったのか?どういうことだ?
「くよくよ考えてもしゃあない。次は、このお兄ちゃんがホテルに運び込まれるところや。防犯カメラに映っとるはずや」
それもそうだ。弓月がチェックアウトした場面から巻き戻して、防犯カメラ映像を確認したが、俺がホテルに運び込まれる場面は映っていなかった。
「変やな。なんで、防犯カメラに映っとれへんのや?他に入口があるんかいな?」
「地下駐車場からなら、フロントを通らずに部屋に行くことができます」
「その地下駐車場からの入口にも当然、防犯カメラはあるんやろうな」
「ございます」飛車が映像を切り替える。
画面には廊下が映っており、先にステンレス製のドアが見える。駐車場の入口のようだ。
「このドアはどないなっとんねん?自由に開け閉めできるんか?」
「外からはルームキイで開くようになっています。当ホテルにご宿泊の方以外、出入りは出来ません」
「関係者以外は使えへんって訳や」
同じように、弓月がチェックアウトした時間から画像を巻き戻す。暫く早送りすると、「ああ、これみたいです」と飛車が画像を止めた。
再生する。ドアが開いて、男が三人、入って来た。真ん中の男は気を失っているのか、ぐったりしており、両脇から男が抱えている。
「これ、弓月です!」一人は弓月だった。
「ほう~ほな、隣の若い兄ちゃんは誰や?」
「これは・・・・確か・・・・あの晩は、井上晃と名乗っていました。井上家の次男坊です。多分、偽名でしょうが」
「被害者は、あんたを抱えてホテルに戻って来よった。その後、一人でホテルをチェックアウトして出て行ってんな。うん?このドア、入る時はルームキイが要るんやったな。ほな、出る時、どうや?やっぱりルームキイが要るんか?」
「出る時はドアノブを回すだけでドアが開きます。ルームキイは必要ありません」
ホテルの部屋のドアと同じ作りだ。
画像を暫く早送りすると、井上晃と名乗った若者が駐車場へ出て行く姿が映っていた。俺を部屋に運んでから、直ぐに降りて来たようだ。
「よお分からんな。井上、いや辻花家のやつら、手の込んだやり方で被害者を呼び寄せたにも係わらず、そのまま開放しとる。被害者を恨みがあった訳じゃなかったってことか?ほんでもって、被害者は殺害されとる。それも処刑スタイルで。変な事件や」
何故、弓月は俺をおいてチェックアウトしたのだろう?ひょっとして弓月は逃げ出そうとしていたんじゃないだろうか?俺を置いて。弓月なら、十分、考えられる。




