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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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処刑スタイル③

「蜀が魏に降伏した時、鄧艾っちゅう魏の武将が王宮であるものを見つけた」唐突に鬼政が話を始めた。「大事なもんよ。蜀の戸籍簿や。それによると、蜀には三十万戸あり、人口はざっと百万人や。ほんで、兵士が十万、役人が四万や。人口の割に兵士と役人が多い。一方、魏は五百万人の人口を抱え、兵士と役人は合わせて二十万や。まあ、蜀は魏と戦うには国力が違い過ぎたんや」

 急に黙り込んでしまったものだから、心配しているのだ。俺の気をまぎらわそうとしてくれている。だが、渡川との電話で、弓月を失った今、この先、事務所がどうなるのか?俺はどうすれば良いのか?という問題に直面していることを思い知らされた。

 鬼政の話が頭に入ってこなかった。

 ホテルに到着した。ヒーリングホテルという平野駅から天王寺駅にかなり寄ったところにある小ぢんまりとしたホテルだ。

 鬼政と二人、ホテルのフロントに向かう。何かしている方が、気がまぎれる。

 フロントにいた男が、「あっ!刑事さん」と直ぐに鬼政に気づいた。「前に何度かここに聞き込みで来たんや」と鬼政が小声で囁く。

 鬼政が定年退職したことを知らないようだ。

 フロントにいた男は顎の張った顔で、将棋の駒の飛車が頭に浮かんだ。

 相手が勘違いしているのを良いことに、「このホテルに宿泊しとった人間が事件に巻き込まれたようや」と鬼政が言うと、「びっくり仰天ですな~それでどんなご用事でしょうか?」と飛車が愛想よく答えた。

「この兄ちゃんの連れなんやけど、六百二十五号室に宿泊しとった。昨日の朝、兄ちゃんが尋ねたら、誰も泊まってへんと答えたみたいやけど、兄ちゃんは一昨日、一緒にチェックインした言うとる。もういっぺん、調べてくれへんか?」

「あ、はい!」飛車がせわしなく端末を打ち込む。モニターに目を凝らしながら、「ああ・・・・」と呟いたのを鬼政は見逃さなかった。

「あったのかい?」

「はい。ありました。弓月知泉様にてご予約を頂いております。確かに一昨日、チェックインをされていますが、その日の夜にチェックアウトされています」

「一昨日の夜、チェックアウトしているのですか⁉」

「泊りもせんと、チェックアウトしたと言うのかい?」

「はい。急用でもおありだったのではないでしょうか。お代は一泊分、頂いておりますので、こちらとしては何も問題ございませんでした」

「ほな、そう答えれば良かったんやないか」

「はあ、係の者がお部屋の空き状況だけを見て、お答えしてしまったのだと思います。申し訳ありません」

 飛車が深々と頭を下げた。

「お代を払ったって、本人が払ったのかい?」

「ええ、まあ・・・・」と歯切れが悪い。

「確か、井上家が宿泊代は全て負担する約束になっていたはずですが」

「ほう~そうなんか。ほな、お代は井上家で支払ったんやな?」

「いえ、お代は井上様ではなく、辻花様から頂戴しております。はい」

 辻花家だ。やはり井上家を騙っていたのだ。辻花家の人間が弓月の失踪に関与していることは間違いない。

 あの日、井上家の人間から話を聞いた。被害者の妻、淳子は自分が窓の鍵を掛け忘れてしまったことが、旦那の死を招いたと言って、さめざめと泣いた。あの涙は演技だったことになる。名演技だ。女は怖い。そう思った。

「辻花家?確か~こちらのホテルの大株主やったな。弓月知泉なんて人間、泊まってへんと答えるように圧力でも受けたんちゃうんか?」

「圧力だなんて、そんな・・・・まあ、ご要望とでも言いましょうか・・・・」

 飛車は辻花家から圧力があったことを遠巻きに認めた。

「ほんまにチェックアウトの手続きをしたのは弓月自身やったんか?誰か別の人間やったんちゃうか?そや、防犯カメラの映像があるはずや。それを見せてくれ」

「防犯カメラの映像ですか⁉」

「ああ、それに彼、こちらに宿泊しとるんやけど、一昨日の夜、酔ってこちらに担ぎ込まれたはずや。誰が担ぎ込んだのか、防犯カメラに写っとるやろう?それも見せてくれ」

 酔ってなんかいない。クスリを盛られたのだ。鬼政もそう言っていたはずだ。

「はあ、何分、一昨日の晩は別のものがフロントにおりましたもので・・・・それに、防犯カメラの映像をお見せするには、支配人の許可が必要でして」飛車は歯切れが悪い。

 防犯カメラの映像を見せたくないようだ。

 鬼政が切り札を切る。「殺人事件の捜査や」

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