処刑スタイル②
「あのう・・・・」と恐る恐る尋ねた。「弓月はどうやって死んだのでしょうか?池に沈んでいたということは、溺死でしょうか?」
正直、顔を確認するので精一杯だった。死因を確かめることなど、俺には無理だ。
「いや、ちゃうな。死後に池に投げ捨てられたんやと思う。死因は・・・・そうだなあ~検死の結果を待たへんと何とも言われへんが、ありゃあ絞殺やな。首を絞められたんや。首に圧迫痕が残っとった」
「首を絞められた・・・・」
「ああ、しかも遺体は上半身裸で後ろ手に縛られとった。手首にもがいた痕跡が残ってへんかったから、恐らく、死後に縛られたんやと思う。犯人は何故、そないなことをしたんやろう?自分には処刑スタイルに見えた」
「処刑スタイル?」
「兄ちゃん、あんたのボス、人に恨まれとったようや。浮かび上がって来いひんように、大き目の石をいくつか一緒に括り付けられて、沈められとった。わいらが見つけんと、当分、見つかることはあれへんやったやろうな。こないにはよ遺体が見つかるなんて、犯人には誤算やったはずや」
「殺されたんでしょうか?」
弓月は高慢で人を人とも思わないところがあった。だが、殺したいほど恨まれていたかと言うと、そこまで悪人だったとは思えない。少なくとも犯人に心当たりがなかった。
「死んだ人間がどうやって後ろ手に手を縛って、池に沈むことができるのや?殺しや」
鬼政の見立てだ。間違いはない。
「処刑スタイルで思い出したんですけど、アテルイってご存じですか?平安時代、東北にいた鬼の頭領の名前だそうですけど」
「ああ、知っていんで。坂上田村麻呂に退治された蝦夷の首長やったはずや。それがどうした?」
三国志だけじゃない。歴史に詳しいようだ。
「いえ、昨日の宴会で、アテルイは処刑されたと聞いたものですから」
「被害者をアテルイに見立てたのかもしれへん。兄ちゃん、そう言いたいんやな?」
「いえ、ただアテルイのことを思い出しただけです。そこまで考えていた訳ではありません」
「ふむふむ」と鬼政が考え込む。「それはあるな」
「携帯は?弓月、携帯電話は持っていましたか?」
弓月の携帯電話を見れば、昨夜、何が起こったのか、少しは分かるかもしれない。
「携帯か。見つかっとれへん。池に沈んどるとしたら、厄介や」
「殺されたとすると、辻花家の人間が怪しいことになりますね。僕が記憶を失ってから、あの家で何があったのか・・・・」
「兄ちゃん、まあ、そう結論を急ぎなや。彼らが犯人だと決まった訳やあらへん。それより、あんた、事務所に連絡した方がええんちゃうか?」
鬼政に言われて気がついた。
「そうでした。事務所と連絡を取ります。弓月が亡くなったこと、みんなに知らせないといけません」俺は事務所に電話を掛けた。
大事な話だ。電話に出た阿部に、副所長の渡川勲と変わってもらった。渡川は事務所で最年長、別の探偵事務所で働いていた経験を持つベテランの調査員だ。その実績を買われて、副所長として雇われた。
至って温厚で笑顔を絶やさない人物だが、時に辛辣な言葉を吐くことから、「あの人は目が笑っていない。ひと癖もふた癖もある人物だ」というのが所内の評判だ。
「やあ、藤川君、ご苦労様。所長は見つかったかい?」渡川は呑気そうに尋ねた。
「実は――」とため池で遺体が見つかり、弓月のものと見て間違いないと伝えた。
滅多に表情を変えない渡川が動揺した声音で言った。「死んだ⁉ほ、本当に所長だったのかい?」
「はい。実際にこの目で確認しました。間違いありません」
「ため池から遺体が出たって、事故か?」
「いいえ、殺された後、池に捨てられたようです」
「殺された?」
「そうみたいです。手足を縛られた状態で、遺棄されていたそうです。殺されたと見て間違いありません」
「殺された・・・・」渡川が絶句する。
「所長、人に恨まれていたみたいですね」
一拍あってから渡川が醒めた口調で言った。「所長が殺されたとあっては、この探偵事務所は終わりだな。また就職活動だ。全く。藤川君、君も転職を考えた方が良いよ」
弓月が殺されたことより、身の振り方が心配のようだ。考えてみれば当たり前だ。俺だって、今後が不安だ。
「はあ・・・・」
「暫くそっちにいて、何か分かったら連絡してくれないか。遺体が弓月なら、後始末とか、色々、手続きがあるだろうからよろしく頼む。滞在費は勿論、掛かった費用は全部、事務所持ちで良いから。頼んだ」と言うと、渡川は一方的に電話を切った。
渡川との電話で、急に将来が不安になった。




