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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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刑事と鑑識③

 やがて、色黒で体格の良い中高年の男が店にやって来た。丸坊主にしているが、額が見事にM字に禿げあがっている。

 何だか体が膨れ上がって見える、ごわごわとした格好をしていた。

「何や、何や。人を呼びつけといて、マイちゃんとの話に夢中になって、来たのに気がつきもしぃひん」M字禿げが店に入ってくるなり、鬼政に向かって吠えた。

「おう、マコっちゃん。遅かったやんけ」

「遅かったやんけやあらへんがな。池を浚うんやろう。支度に時間がかかってんねん」

「そりゃあ、悪かったな。ほな、行こか」

「おい、おい。待てよ。何て自分勝手なやつや。わいにもマイちゃんのコーヒーを楽しむ時間くらいくれや」

 M字禿げが隣の椅子に腰を降ろす。

「おう、さよか。われもコーヒーを飲みたいってか」

「マイちゃん。悪いが何時もの美味しいコーヒーを一杯もらえるか?」

「ほな、わいももう一杯、もらおうかな」

「コーヒーばっかり飲んどると、小便、近なるで~」

 二人の言い合いに女主人が割って入った。「コーヒーを煎れて差し上げますから、喧嘩しないで下さいね。お兄さん、あなたももう一杯、いかがかしら?」

「あっ、いえ、僕はお腹いっぱいです」

「ああ、そやった。紹介がまだやったな。こいつは鴨志田誠(かもしだまこと)って言うて、府警時代の同期よ。こう見えて、鑑識課長を勤めとったんやで。まあ、ゴマすりが得意やったからな」と鬼政がM字禿げを紹介してくれた。

 元鑑識官だ。これで元だが刑事と鑑識が揃った。

「ふん。われと違ぉて一般常識があっただけや。何時まで経っても大人になれんと上司と喧嘩ばかりしとったやつに言われたぁない」

「一般常識⁉それこそ、ご飯にマヨネーズをかけるようなやつに言われとぉないわ!」

「ご飯にマヨネーズをかけて何が悪い!あの芳醇な旨さを知れへんだけのくせに。いっぺん、やってみな~病みつきになるから」

 まるで子供の喧嘩だ。

「相変わらず仲が宜しいこと」と女主人が割って入った。

「マイちゃんも座りなよ。どうせ暇やろう?」

「あら、暇だなんて失礼な」と女主人を加えて、賑やかな会話が続いた。

「最近の携帯電話、うちらには、もう難しくて~うちに若い人でもいればええのに」と女主人が言う。

 試されているのだろうか?携帯電話くらい人並み以上に扱える。俺のこと、筋肉バカだと思っているのだろうか?

「僕で良ければ教えましょうか?」と言うと、「おっ!兄ちゃん、携帯電話に詳しいのか?」と鬼政まで意外そうな顔をした。

 闘争心に火がついた。いや、何と戦うのだ?

「どこが分からないのです?」と携帯電話の使い方を教え始めた。「助かるわ~」と喜ぶ女主人を鬼政がとろけそうな顔で見ていた。

 最初は興味津々といった様子で、鬼政は俺が女主人に携帯電話の使い方を教えるのを、隣で茶化していたが、その内、飽きてしまった。「あい変わらず、飲み方が汚い」と鴨志田を弄り始めた。

 やがて、コーヒーを飲み終わった鴨志田が「ほな、ぼちぼち行こか。日が暮れると難儀や」と言い出し、やっと花屋を後にした。

 花屋を出ると、鴨志田が乗って来たのだろう。軽トラックが泊まっていた。荷台に幌が掛けられていたが、大量に荷物を積んで来たようだ。

「ほな、案内したれや」

 鬼政の軽自動車を先頭に、鴨志田の軽トラックが続く。

「面白い人ですね」とハンドルを握る鬼政に言うと、「腐れ縁や。ああ見えて、鑑識官としては一流や。右に出るものがおらへん。任せておいて大丈夫や」と嬉しそうに答えた。

「劉備と孔明みたいなものですね」と三国志好きの鬼政に言ってやると、「水魚の交わりってやつやな。お互い切り離せへん関係にある――って、ちょっと待て。どっちが劉備で、どっちが孔明や。あいつ、そんなええもんやあらへんがな」

 目指すため池に到着した。

 神社に車を停める。「ここか。思うたより小さいな。これなら一人で十分や。こんな重装備は必要なかった」と言いながら鴨志田が軽トラックから降りて来た。がばと上着を脱ぐと下にダイビングスーツを着込んでいた。

 衣服の下にダイビングスーツを着ていたのだ。道理でごわごわして見えると思った。鴨志田は荷台からボンベや水中眼鏡等、潜水用具一式を降ろすと、手際よく身にまとった。

「ため池と言うてなめちゃあいけん。いっぺん、落ちると這い上がれんようになる」と俺に言うと、鬼政に向き直って言った。「ほな、ちょっくら様子を見てくる。政よ、後は頼んだで」

「分かっとる」鬼政が頷く。

 鴨志田は土手に腰かけると、ずりずりと尻で滑り降りて、ざんぶと池に身を投じた。

「さてと」と鬼政は荷台から上着を引っ張り出すと、羽織ってヘルメットを被った。そして、手に赤い誘導灯を持つと、「兄ちゃん。これを着て、これを被って、これを持って」とジャケットとヘルメット、それに誘導灯を荷台から投げて寄こした。

 ジャケットを着てヘルメットを被り、それに誘導灯を手に持つと、一見して工事現場などにいる交通誘導員に見える。

 鬼政はため池のフェンスと用水路に掛かった橋の欄干の隙間部分に立ち、「ほら、兄ちゃんはここに立って」と道路の反対側に俺を立たせた。

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