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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第二章
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消えた名探偵③

 平野警察署に足を踏み入れた途端、異様な雰囲気を感じた。

 俺を見た署内の警察官が皆、固まってしまうのだ。一様に、強張った表情を顔に張り付けて、ぎょろぎょろと目を動かして、俺を見つめる。まるで、幽霊に出会ったかのようだ。

 どういうことだ。俺が何をしたって言うのだ?

「お久しぶりです!」と年配の警察官が駆け寄ってきて敬礼をした。やっと事情が呑み込めた。俺に敬礼をしているのではない。後ろから歩いて来る大政に驚いているのだ。

 どすどすと足音を立てて、巨大なヒキガエルのような男が飛んで来た。「今日は一体、どういったご用件でしょうか?」

 平身低頭、ゴマでも擦りそうだ。

 大政が鷹揚に頷く。「ああ、岡本さん、お久しぶり。この若い筋肉兄ちゃんの話を聞いてやってくれ。連れが行方不明らしい。捜査願を出しに来た」

 上から目線、横柄だ。大政は一体、何者なのだ。しかし、筋肉兄ちゃんって。

「行方不明?」

「弓月知泉っていう、ちっとは名の知られた人間や。ほれ、あの辻花家の事件で名を上げた探偵さんや」

「事件ですか?」

「ひょっとすると、ひょっとするかもしれへん。この筋肉兄ちゃん、弓月の関係者やけど、昨夜から連絡が取れないらしい。色々、妙な点があってな。まだ、分からんが、大化けしそうな気がする。まあ、筋肉兄ちゃんの話を聞いてやってくれ」

「分かりました。じゃあ、筋肉兄ちゃん、こっちに来てくれ」

 ヒキガエルが腕を掴んで、ぐいと引っ張った。いつの間にか、筋肉兄ちゃんになってしまった。筋肉兄ちゃん呼ばわりは勘弁してもらいたい。

「あ、あの大政さん!」急に心細くなった。

「大丈夫や。二、三、片づけてから顔を出す。兄ちゃん、彼に昨日のこと、もう一度詳しく説明してやっとくれ」

「はい」部屋に連れ込まれた。

 取調室だろう。思い描いていた通りの部屋だ。窓の無い部屋で、壁に大きな鏡がはめ込まれている。部屋の中央にテーブルがあり、向かい合わせで椅子が置かれてあった。

「さて、兄ちゃん、先ずは、あんたの住所、氏名から聞かせてくれ」ヒキガエルに聞かれた。

「藤川世一と言います。住所は――」と答えた後で、思い切って「あの~刑事さん。あの人、大政さん、一体、どういう人なんですか?」と尋ねた。

「何だ。大政さんの知り合いじゃなかったのか。兄ちゃん、あの人が誰だか知らずに、一緒にいたのか?」

「はい。すいません」

「別に謝る必要はない。大政さんはつい半年前まで、大阪府警の捜査一課で、鬼政の異名を取った名刑事だ。鬼政の名前を聞いただけで、犯罪者たちは震え上がったものだ。いや、犯罪者だけじゃない。我々、警官だってそうだ。府警の捜査一課で、鬼政さんの教えを受けていない刑事なんていない。みな、鬼政さんには畏敬の念を抱いている。我々の中では、伝説の刑事なのだ」と答えると声を潜めて、「怖い人だったけどな」と言ってヒキガエルが笑った。

 驚いた。警察にコネがありそうだとは思っていたが、一課の刑事だったのだ。道理で井上晴秀殺人事件の詳細に詳しい訳だ。恐らく事件を担当していたのだろう。

「さあ、話を聞かせてくれ」と言うので、平野に来た経緯から説明した。

「弓月さんは何故、その仕事を引き受けたのですか?」、「ホテルには車で迎えに来てもらったのですね?」、「どうやってホテルに戻ったのか覚えていないのですね?」

 何度も同じ質問を繰り返された。同じ質問を繰り返すことで、証言に嘘が無いか確認しているのだ。一通り説明が終わると、ヒキガエルの要望で、再度、弓月の携帯電話に連絡を入れてみた。事務所にも弓月から連絡が無かったか、確認を取らされた。

 結果、弓月の携帯電話は電源が入っていないままになっていた。

「調べてみましょう」弓月の携帯電話番号を教えた。

「弓月さんのご家族に何か連絡が入っていないか、確認してもらえませんか?その、お金の要求とか無かったかどうか」

 ヒキガエルに言われて気がついたが、弓月は誘拐された可能性があるのだ。もう一度、事務所と連絡を取って、弓月の家族に確認を取ってもらった。独身だが、両親は健在だ。

――何の連絡もないそうです。

 阿部から返事があった。ちょっと抜けたところのある子だ。ちゃんと確認したのかどうか気になったが、誘拐事件だとすると、家族には警察には知らせるな!と誘拐犯から要求があったはずだ。本当のところは分からない。

「弓月の家族は何も知らないようです」

 ヒキガエルが「ふうむ」と唸った時、勢いよくドアが開いて大政、いや鬼政が入って来た。人の良い好々爺に見えるが、これで鬼政と呼ばれて恐れられた伝説の刑事だったのだ。

「兄ちゃん、事情聴取は終わったかい?」

「はい。大体、分かりました」俺に代わってヒキガエルが答える。

「どや?」

「大政さんの言う通り、ひょっとするとひょっとするかもしれませんね」

「事件性がある――そう見る訳やな」

「ええまあ。捜索願を出しますか?」

「兄ちゃん、どないする?」

「はい。事務所にも確認しましたが、僕に一任すると言うことでした」

「ほな、早い方がええ。さっさと書いてしまいな」

「分かりました」

 地獄に仏だ。とにかく鬼政に従っていれば間違いない。きっと弓月を見つけ出すことが出来る。

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