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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第一章
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名探偵誕生②

「そのことをテレビ局の人間に話した」

 輝秀の言葉を自分に向けられた批難だと受け取ったのだろう。「ふん。どうせ警察は僕の話なんぞ、信じたりしませんよ。僕の推理が完成した時、たまたまテレビ局の人間と一緒にいたというだけです」と吐き捨てた。

 自らテレビ局に売り込んだに決まっている。それが弓月だ。常に周囲に高い評価と賞賛を要求し続けている。弓月は自分の推理をテレビ局の人間に伝えることで、将来を切り開いた。テレビ局側は弓月の話を聞いて、

――これは話題になる。

 と直感した。

「テレビ・カメラを前に犯行を自白させたい。もし、その絵を撮ることができれば、きっと世の中はハチの巣をつついたような騒ぎになる。テレビ局の人間にそう説得された。僕だって迷ったさ。友人を売るようなことはしたくなかった」

 どうだろう?弓月なら喜んでやりそうだ。

「蛭間は辻花君が住んでいたマンションからほど近い場所にあるアパートに住んでいた。テレビ局の人間と一緒に、彼のアパートを急襲した。アパートに着くと呼び鈴を鳴らしたが、反応がなかった。彼は在宅中に、ドアに鍵を掛けない。そのことを知っていた。僕は思い切って、ドアを開けた」

「ああ、その映像、見た記憶があります」と晃が言う。

 あの当時、何度もニュースで流れた。記憶している人間は多いだろう。輝秀も田上も、青田も「うんうん」と頷いた。

「ふふ」と弓月が笑う。いよいよクライマックスだ。

「ドアの後ろに何か重たいものが立てかけてあった。無理に引っ張ると、勢いよくドアが開いて、もたれ掛っていたものがごろりと廊下に転がり出て来た。それを見て、おっ!だとか、うっ!だとか、あっ!だとか、テレビ局のスタッフが悲鳴を上げた。

 廊下に転がったのは人間だった。若い男だ。それが、ごろんと廊下に転がり出て来たのだ。みな、驚いた。僕は冷静だったけどね。蛭間だった。彼はドアノブに紐を掛け、三和土に座った状態で首を吊っていた。ドアを開けた拍子に、遺体が廊下に転がり出たんだ。

 死後、かなりの時間が経過しているようだった。青くむくんだ顔には、精気が感じられなかった。誰かが、スクープだ!カメラを回せ!と叫んだ。警察だ。警察に電話しろ!と叫んでいるスタッフもいた」

 こうして死体が廊下に転がり出る瞬間がテレビ・カメラに収められた。当時は規制が甘かったことから、顔にモザイクがかけられていたが、死体が転がる瞬間がテレビで放送された。

 そして、その後の弓月の態度が賞賛されることになる。

 弓月は廊下に固まったテレビ局の人間を尻目に、ずかずかと部屋に上がり込んだ。そして、部屋に誰もいないことを確認すると、廊下に出て来て、窓に鍵がかかっていました。蛭間君は自殺したようです。警察を呼んで下さいと冷静に指示を出したのだ。

 取り乱した様子もなく、淡々と指示をする姿は百戦錬磨の刑事を思わせた。

 蛭間の部屋はアパートの一階にあった。六畳一間のアパートで、窓から外に出ることができた。ドアは蛭間の遺体が塞いだ状態だった。殺されたのだとすると犯人は玄関から逃げ出すことは出来なかったはずだ。窓に鍵がかかっていたとなると、密室だったことになる。蛭間は自殺と見て間違いなかった。

「ふう~」と晃が大きなため息をついた。「流石は弓月さんですね。学生時代から、もう卓越した推理力をお持ちだったんだ」

「はは。通報を受けて、直ぐに警察官が駆けつけて来た。テレビ・カメラを見つけると、何故、テレビが来ているんだ!と僕らを遠ざけた。現場検証が行われた。ひとつしかない部屋の窓は内側から鍵が掛けられていた。回転式のクレセント錠と呼ばれる鍵だ。クレセント錠からは蛭間の部分指紋が見つかっている。彼以外の指紋は見つからなかった。あの時、僕が手袋をしていなかったことは、テレビ・カメラの映像に残っている。僕が鍵をかけたんじゃない」

 弓月が目を細める。

 一躍、時代の寵児となり、スポットライトを浴びた日々を思い出しているのだろう。過去の栄光、そう呼ばれることを弓月は嫌がる。まだまだ、これからひと花もふた花も咲かせるつもりなのだ。これからだって栄光の日々は来る。常にそう言っている。

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