カサンドラ考
カサンドラ。
そこは一度収容されたが最後、二度と生きて出ることができない死封の監獄島。
かつて鬼と恐れられ悪魔とそしられた凶悪犯たちが、哭いて出獄を乞うた街。
そしてそのカサンドラは実は、拳王に逆らった者を処刑するための監獄の街であったことが、後に明らかになる。
このような恐ろしい施設がどうしてできたのか、その経緯はよく分からない。が、それを推測する手がかりが無いわけではない。
先に拳王軍について、その実態は雑多な集団の寄せ集めであり、拳王ことラオウの指導力は必ずしも高くないと推定した。
言い換えれば配下の各軍団の自立性が高いとも言えるわけだが、このカサンドラとウイグル獄長は特にその傾向が強いように思える。
なんとなればウイグルは、「不落のカサンドラ伝説は、このおれの伝説でもあるのだ」とか、「なにびともカサンドラすなわち、わたしの伝説を破ることは不可能」などと広言していた。
このあたりが他の連中と違う。
拳王の手下といえば普通、拳王の威力を笠に着て、虎の威を借る狐よろしく威張っているものだが、ウイグル獄長の場合は、そんなことする必要が無い。
拳王の威を借りなくても、自分自身の伝説を持ち、それを誇りに生きている漢なのだ。
これはウイグル獄長とカサンドラの独立性の高さを示すものではないだろうか?
拳王とウイグル獄長との関係は、例えて言えば、徳川幕府と外様の雄藩との関係のようなものかもしれない。
長州藩、薩摩藩、仙台藩といった外様の雄藩は、かつては独立した戦国大名として、徳川家とも肩を並べた輝かしい歴史と誇りを持ち、そのため幕府がひとたび衰えれば、反逆して自立する可能性すら秘めた存在だった。
今は徳川家を主君として立てているが、元々俺たちは徳川家と同格だ。いや、俺たちの方が古い歴史を誇る名門だ ー と口に出して言わなくても、内心ではそう思い、それを誇りにしていたかもしれない。
カサンドラとウイグルがこれに似ているとしたら、拳王軍が旗揚げする以前からカサンドラは存在し、後から拳王の傘下に入ったという可能性が高くなるのではないだろうか?
もともと独立の戦国大名だったものが、後から徳川家に臣従したように。
だとすれば、カサンドラは監獄だから当然、もともとは国の施設だったのであろう。
それが核戦争により、カサンドラを指揮監督すべき政府が崩壊してしまった。
そのためカサンドラがその豊富な労働力を生かして自活を図っていたところへ(監獄だから囚人の労働力を利用することができただろう。)、拳王軍が出現した。
そこでカサンドラは拳王の実力を認めてその傘下に入り、拳王に捕まった人々を受け入れるようになった。
そういったところだろうか。
ただ、この推測が正しいとすると、ウイグル獄長は元々は普通の刑務所長であり、ウイグルの部下は普通の刑務官だったということになる。
しかしウイグルやその部下たちを見ると、刑務官らしいところは少しも無い。
どう見ても、北斗の拳に沢山登場する悪党と同じにしか見えない。
これはどうしたことだろうか?
これについては、元々普通の刑務官だったものが、拳王軍に加入した後、他の拳王軍の悪党たちと同僚として接するうちに、彼らの色に染まって悪党化したものとみるべきだろうか。