第9話 ルドルフの魔法
ルドルフはまほちゃんみほちゃんとパソコンの戦車ゲームを楽しんでいた。しほさんはうちのキッチンで夕食を作ってくれている。一方私は新発田先生と物理の話をしながら修二くんの帰りを待っていた。それにしても修二くんは、新発田先生のお嬢さんたちにこんなゲームを教えてしまってよかったのだろうか。
いつもの私ならすべての事を忘れて、先生と物理の話に熱中していただろう。しかし今はルドルフのことを新発田先生としほさんにいかに話すかに気を取られていた。新発田先生ご自身は私の話した内容を考え込んでいたので、私がいつもと少し違うことに気づいていないようだ。
玄関がガチャガチャと音を立てた。修二くんが帰ってきたらしい。
「先生、しほさん、わざわざ来てもらってありがとうございます」
「おじゃましてるよ」
「修二さん、ごはんまだでしょ。座って」
修二くんはダイニングの机に座らされた。しほさんの目が輝いているから、これから尋問を始める気なのだろう。私はルドルフにまほちゃんみほちゃんを伴って、寝室にしている和室へ向かう。要は新発田家4人・唐沢家3人がいっしょに食事できるスペースがないのだ。私は寝室に広げたちゃぶ台で子どもたちと一緒に夕食を食べることにした。
「「「「いただきま~す!」」」」
しほさんに作ってもらったハンバーグをいただく。おいしい。母が作ったハンバーグものぞみがつくったのも美味しかったが、しほさんのハンバーグもまた違った美味しさだ。多分使っている香辛料がちがうのだ。これはしほさんに教わっておかないといけない。つけあわせのブロッコリーや人参もおいしい。堪能しているとルドルフが言ってきた。
「ママ、これ、おいしいね」
「うん、おいしいね。しほさんに作り方、聞いとくわ」
するとみほちゃんが聞いてきた。
「る~くんは、あんちゃんのこどもなの?」
いきなり核心をついてくる。
「ん~、私が産んだわけじゃないけど、子どもみたいなものよ」
ルドルフには心のなかで、ややこしいことになるから黙っているよう要求する。
「本当のおかあさんはどうしたの?」
続いての質問はまほちゃんだ。
「うん、ルドルフを産んですぐに亡くなったの。私はそのとき、おかあさんに頼まれたのよ」
うそは言ってない。異世界でのことだとか、お母さんはドラゴンだとかは口にしていないだけだ。
「る~くん、たいへんだったね」
「ぼくはパパとママといられるから、だいじょうぶ!」
ルドルフはスプーンとフォークを使って自力で食事していたが、口の周りはぐちゃぐちゃだ。みほちゃんもそれなりに汚れている。私がルドルフの口の周りを拭き、まほちゃんがみほちゃんのを拭いている。
「そうだ、ママがゼリー買ってたんだ!」
まほちゃんが教えてくれた。
「まってて、しほさんからもらってくるわ。でもその前に二人とも、人参たべちゃわないとね」
「「「は~い」」」
ダイニング横の修二くんのPCのネット会議には、明くんとのぞみがちょうどログインしてきていた。
「やっほ~、ルドルフは元気?」
「うん、むこうで食事中」
「顔見たいな」
「ゼリー食べさせたら、連れてくるわ」
「お~」
最後のは明くんだった。のぞみはともかく、明くんは新発田先生とは面識がないはずだ。
「新発田先生、こちらがのぞみと一緒に居る岩田明くんです」
「こんにちは、新発田です。君か、扶桑の女子二人にくっついて札幌に行ったってのは」
「はい、修二と同じく、学問とともにパートナーも無事確保しました、岩田です」
明くんと修二くんは、私達が川崎の扶桑女子大に在籍している頃、合コンで出会った。合コンをセットしたのは扶桑友達の木下優花の彼氏村岡健太くんだ。私が札幌国立大の大学院を受けたときこの修二くんと明くんも受けていて、この二人は東京の帝大に進学せず札幌にきてしまった。修二くんは正味のところ私を追いかけて来てくれたことは承知しているが、明くんの本心はよくわからない。まあのぞみが納得しているなら、私はそれでいいと思う。
しほさんにゼリーをもらって子どもたちにたべさせる。いつの間にか「る~くん」と呼ばれていたルドルフは、キャッキャいいながら仲良くゼリーを食べた。
これから子どもには聞かせにくい話になる。まほちゃんとみほちゃんが眠くなってくれると助かるな、と思っていたらルドルフが心に話しかけてきた。
『寝てもらう?』
『できるの?』
『まかせて』
ルドルフは二人にむきあいじっと見つめると、二人はあっという間に寝てしまった。
ちゃぶ台を横に寄せて布団を一つだし、広げる。ルドルフはお皿を重ねてお盆にのせて片付けを手伝ってくれた。
「ありがと」
「ママのお手伝い、楽しい!」
「そっか」
二人を布団に並べ、タオルケットをかける。
「しほさん、ふたり、寝ちゃいました」
報告するとしほさんは「そのほうがいいかもね」と言いながら二人を見に行った。そしてネット会議には、仲間が全員そろっていた。