第7話 被発見
ルドルフは異様に迷彩柄にこだわり、Tシャツ4枚、ズボン2つすべて迷彩になった。ズボンの一つはカーゴパンツでのぞみが喜びそうだ。靴下もモスグリーンのを選ぶ。靴も買ったが、こちらは真っ黒いのを選ぶ。トイレで着替えさせたら、ちっちゃい自衛官みたいになった。
もうお昼になったので、このままフードコートで食べることにする。
「ルドルフ、何食べたい?」
「あれ食べたい」
ルドルフが指さしたのはハンバーガーショップだった。
「食べたことあるの?」
「ないけど、鳥がね、人から奪って食べるの見たんだ。きっと美味しいだろうと思うんだ」
「そっか」
カウンターに行ってメニューを見せると、
「よくわかんないや、ママ、選んで」
と言うので、私のを含んで3つ頼む。セットにしてポテトとオレンジジュース、ダイエットコーラを頼んだ。
窓際の席をとり、外を眺めながら食べる。ハンバーガーは、チーズバーガー、てりやきバーガー、ダブルバーガーにしていた。包を開いて中を見せる。
「僕、これ食べたい」
ルドルフはまずダブルバーガーを選んだ。私はチーズバーガーを選ぶ。
「うん、おいしい」
ルドルフはあっという間に1個めを平らげ、つづけててりやきバーガーに手を付けた。口の周りをタレだらけにして食べるルドルフはかわいい。紙ナプキンで口のまわりを拭いてやっていたら、視線を感じた。窓のすぐ外に、新発田先生の奥様しほさんがいた。
私は強烈に驚いたが、とりあえず頭を下げた。奥様は両手で私にそこにいるよう伝えてくるので、私はうなずいた。目をまんまるにしたまましほさんはうなずいて、入口へと走っていった。
私は早くもルドルフが仲間以外に見つかってしまい動揺した。しかしなんとかSNSで連絡することを思いつき、修二くんに「しほさんに見つかった」と送る。ただ、なかなか既読がつかない。気がつくとルドルフはてりやきバーガーのみならず、私の分も含めポテト2つを平らげていた。
息を切らしてしほさんがやってきた。
「せ、聖女様、そ、その子は?」
「は、はい、しほさん、親戚の子でルドルフです」
「ふーん、漢字、どう書くの?」
「カタカナです」
「ルドルフ、この人はね、新発田先生の奥さんのしほさん。ご挨拶して」
「はじめまして、ルドルフです」
「こんにちは、うちには女の子が2人いるのよ。こんど遊びに来てね」
「はい!」
「で、聖女様、今日SHELは?」
「急にルドルフを預かることになったので、今日はお休みをいただきました。買い物が終わったら、家で勉強するつもりです」
「そっか、たいへんね」
「いえ、ルドルフはしっかりしてるので、手はかからないんです」
「そうなの? うちのはゲームばっかり」
「ははは、まさか戦車のゲームじゃないですよね」
「いや、そのまさか。パソコンでね。だれが教えたんだか」
誰が教えたのか思いっきり思い当たる人がいるが、それを言うわけにはいかない。あとで詰める。
「パパ悪い事したの?」
やばい、ルドルフには私の思考が伝わるらしい。
「ううん、してないよ」
私はルドルフに伝えたが、しほさんが反応した。
「パパ、今どこにいるの?」
「研究所!」
「ママは?」
私の思考が追いつく前に、ルドルフは私を指さした。
「聖女様、どういうことか教えてくれるかな?」
「は、はい、あとであとでちゃんと話します。私ひとりで言えることじゃないので、修二くんが帰ってきてから」
「わかった、夜そっち行くわ」
「あの、新発田先生ほっといていいんですか」
「ああだいじょうぶ。最近は殆どのことは自分でできるから」
「そうですか、それはよかったですね」
「おかげさまで、近い内に復帰できそうよ」
「ほんとですか、よかった」
「あの人ね、あなた達のこといつも気にしてるのよ」
「気にすることないのに」
「そうもいかないわよ。ほんとあなた達にはほんと頭があがらないわ」
「いやいや」
「だから何があっても私達は、あなた達の味方よ。それでその子、まさかさらってきたんじゃないわよね」
「そんなことないです」
「僕はほんとにパパとママの子だよ」
『ルドルフ、黙って』
心でそう言うとルドルフは目をまるくして、私をみた。
『この世界はややこしいのよ、だから私達が説明するから』
正味のところ、まずは時間稼ぎをしなくてはならない。
「しほさん、ちゃんと説明しますから。買い物して、一度家に帰ります」
「わかった。でも、買い物は手伝うわ」
「ありがとうございます」
実のところしほさんが買い物を手伝ってくれたおかげで、とても助かった。私が商品を選んでいる間ルドルフの相手をしてくれたし、あれが安いとかこれが品質がいいとか詳しい。まあ半分院生半分主婦の私がかなうわけがない。
ただルドルフはあまりお菓子類に興味を示さず、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、カロリーなんとかといった、携行性に優れるものを欲しがった。迷彩柄のシャツでビーフジャーキーを手に取るルドルフを見て、富士山で行われる自衛隊の演習をみせてあげたくなった。