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第6話 ルドルフの好み

 突然我が家にやってきたルドルフは体の大きさは4才児程度だが、私の用意した大人の量の朝食はぺろっと平らげた。

「おなかすいてたのね」

「うん、まだこのあたり、カエル小さい」

「あのさ、このあたりの田んぼのカエル、食べちゃだめよ」

「なんで?」

「農薬って言ってね、薬まいてるの。ルドルフの体に悪いかもしれない」

「わかった」

「ていうより、これからは一緒にごはんよ」

「うん!」

「今日はルドルフの服、買いに行くよ」

「うん!」


 まだ9時半だ。ちょっとだけ早いし洗濯物の乾燥も終わっていない。

「みんなに連絡するわ。ルドルフは楽にしててよ」

「うん!」

 ルドルフはソファのところに行ってゴロンと横になった。


 私はまず、修二くんにお風呂に入れ、食事をとらせたこと、このあと服とか生活用品とか買いに行くことを連絡した。つづいて仲間たちにルドルフがこちらに来たことを連絡する。そんなことをしていたら、十時が近づいたので外出することにした。


 乾燥機にはルドルフの服しか入れてなかったので、もう乾いていた。気の毒だがルドルフを起こして着替えさせる。


 手を繋いで駐車場に行く。今日もいい天気だ。ルドルフは空を見上げている。

「ここの空はせまいよ」

 ルドルフが寂しそうに呟いた。


 飛行機や電線で、ルドルフが自由に飛ぶには条件が悪い。東海村は決して都会ではないけれど、北海道よりはせまいのも事実だ。本来大空を自由に飛び回るドラゴンにとって、日本の空は不自由極まりないだろう。ルドルフがここに来るまでどんなに苦労したかようやく私は思い至り、空を見るルドルフを抱きしめた。

「ここに来るまで大変だったでしょう? 来てくれて、ありがとうね」

「うん、だけどママと居られるなら、たいしたことないよ」

「そっか、ありがとね」

 自然と涙が出た。


 車のドアを開けたとき、私は大事なことに気がついた。

「どうしたの?」

「うん、まずルドルフ用の椅子、買わないとね」

 私は最初に車のチャイルドシートを買いに行くことにした。

「ルドルフ、ごめん、体が小さいから車乗せらんない。家で待っててもらっていい?」

「うん、待ってる」

 ルドルフを家に連れ戻す。

「ちょっと時間かかるけど、待ってられる?」

「うん、大丈夫」

「あのね、いろんなもの、触っちゃだめだよ」

「わかった。寝てる」

「トイレは?」

「だいじょうぶ」


 ルドルフはしっかりしているし、北海道からここまでたどり着けたくらいだから一人にしても大丈夫だ。だけど見た目は4才児だからやっぱり心配だ。

 自動車用品の量販店の往復は1時間ほどかかった。時間が惜しいので色とか値段とかあんまり考えずパッと見良さそうなのにした。それでもどんどん時間が過ぎていく。帰り道で子供服の専門店が一件見えたから、とりあえずスウェットの上下1セットと靴下と下着を買う。さっきのルドルフの服装はぼろぼろすぎて、連れて歩くと私は誘拐犯に見えてしまいそうな気がした。


 家に戻るとソファーでルドルフは丸くなって寝ていた。かわいいその寝顔をずっと見ていたい気がする。それにしても、どことなく修二くんの顔に似ている気がしてしまう。やっぱり修二くんの隠し子な気がしてきた。気の毒だけどルドルフを起こし、着替えさせてショッピングセンターに行く。


「ぼくの椅子?」

「そう、ルドルフ専用よ」

「わーい」

 無邪気に喜ぶルドルフをベルトで固定した。


 車を走らせるとルドルフは、

「こりゃ楽でいいや。景色もよく見えるし」

と感想を漏らした。

「北海道からここまで、たいへんだったでしょ?」

「うん、いろいろ飛んでるし、一回はなんか速いのに追っかけられた。危なかったから海に飛び込んだ」

 なんとルドルフは戦闘機に追いかけられたこともあったらしい。自衛隊は何も発表してないが、下手をすると国家権力がルドルフを探しに来るかもしれない。ぞっとした私は、

「しばらくは空飛ばないほうが良さそうだね」

「うん、そうする」

「ごめんね」

「なんでママが謝るの?」

「だってルドルフは、私達を探してここまできたんでしょ」

「そうだよ。だって僕は、聖女様を守るのが仕事だから」

「そっか。ありがと」

「うん!」

 私は話を続けると泣いてしまいそうだった。運転中泣くのは危険だから、言葉を続けることができなかった。


 ショッピングモールの子供服売り場に行く。

「ルドルフ、どんなのがいい?」

「別になんでもいいんだけど」

 ルドルフはそういいながら色々と眺めていたが、

「これがいいかな」

と迷彩柄のTシャツを手に取った。

「それがいいんだ」

と聞いたら、

「うん、これ、隠れるのに良さそう」

などという。

「あっちにはこんなのなかったね」

と返すと、

「うん、敵がこんなの着てたら厄介だったね。騎士団でも導入したら?」

などという。

「うん、でも武官長様、納得するかな」

と言ったら、ルドルフは大笑いした。

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