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第11話 北海道へ

 そのあとルドルフはネット会議で明くんと話していた。私は私で修二くんと二人、とりあえずのルドルフの生活についてしほさんと話していた。

「いくらる~くんがしっかりしていると言っても、ずっとお家で一人にしておくわけにはいかないでしょう」

 そう言って心配するしほさんに、私は返事した。

「そうなんですけど、私は理論だから、ある程度は家でも研究はできるんですが」

「しばらくしたら、宮崎先生をまきこむことになるよ、それ」

 横から新発田先生が口をだした。そして新発田先生は、

「しほ、ルドルフくんはしばらく家であずかろう。俺はずっと家にいるし、通院のときはつれていけばいい。みほのいい遊び相手になるだろう」

と言う。

「そうね、それがいいわ」

 あっさりとしほさんが承諾するのを見て、修二くんは慌てた。

「あの、いくらなんでもそんなご迷惑は」

「いいのよ、うちの人があなた達には迷惑をかけているんだから」

「そうそう」

 そこになにやら明くんと話し込んでいたルドルフが割り込んできた。

「僕、昼間は先生のうちにいるよ。法律に関しては、明くんが調べてくれるって」

「そうなの?」

「明くんが大学の同期の法律系の人にきいてくれるって」

「わかった」


 そのようにして新しい生活が始まった。

 朝は早めに家を出て、新発田先生のところにルドルフを連れて行く。修二くんが実験で忙しいときは、私一人で送っていく。

 昼間はいままでどおり研究に没頭する。

 夕方定時に研究所を出て、ルドルフを迎えに行く。

 家では修二くんの帰宅まで、家事をしたりルドルフの話を聞いたり勉強をしたりする。

 とにかくこれで私の研究が遅れるようであってはならない。察しの良いルドルフのことだ、そうなったらルドルフはなんらかの行動に出ることはまちがいない。私は必死だった。


 1週間ほどその生活をつづけていたら、ルドルフが私に言った。

「ママ、役所、連れてって」

「いいけど、なんで?」

「僕の戸籍作る」

「そうですか、じゃあ今度ね」


 私達夫婦の本籍地は、札幌市東区にしてある。簡単に言えば春まで私が住んでいたところを本籍地にした。二人の出発点として、記念にしたのだ。だから一度休みをとって札幌に行く必要があるのだ。いきなりSHELを休むわけにはいかないので宮崎先生に翌日のお休みをお願いしたら、あっさりと許可が出た。修二くんもなんとかやりくりして同行してくれることになった。


 翌週の月曜日、私達3人は茨城空港に行った。朝9時半の飛行機に乗れば、午前中に千歳、昼過ぎには東区区役所に到着できるだろう。帰りは6時半の飛行機の予定だ。


 茨城空港は、航空自衛隊の百里基地にある。地方空港なので駐車場代はかからない。展示されているファントム戦闘機のすぐ近くに車を止めた。ルドルフはじっと戦闘機を見ていた。


 飛行機に乗り込む。ルドルフには窓側の席にすわってもらう。ルドルフは窓の外に並ぶF-15戦闘機をじっと見ている。小声で聞いてみる。

「ルドルフはあれに追いかけられたの?」

「うん、あれもいた。あれ速いからやっかいなんだよね」

「そうなんだ」

「夜でも来るんだよ。あと青くてもうちょっと小さいのもいた」

 F-2にも遭遇しているようだ。ルドルフはあれが敵ではなく、むしろ私達を守るいわば騎士団であることがわかっているのだろうか。私の心を読んだルドルフは答えた。

「わかってるよ。そういえば青いのには女の人が乗ってたよ。この国でも女の人も戦うんだね」

「うん、少ないけどね」


 やがて飛行機は離陸し、しばらく窓から空を見回していたルドルフは、

「これ、楽でいいや」

と言った。


 千歳にはカサドンが迎えに来てくれた。

「聖女様、唐沢先輩、ひさしぶりっす」

「カサドン、平日なのにごめんね」

「いや、理論でよかったっす。で、こちらがルドルフですね」

「カサドン、ひさしぶり!」

「ひ、ひさしぶりっす」

 4才児の姿のルドルフに恐縮するカサドンは、なんかおもしろかった。


 駐車場にとめられたカサドンの車は、ちゃんと真美ちゃんから譲られた車だった。きれいにしてある。

「大事に乗ってるんだね」

「はい、この車で、真美先輩を迎えに行く予定です」

「そっか。がんばってね」

 そういったのはルドルフだった。


 内地ならもうすぐ梅雨と言う季節、北海道はもう、めちゃくちゃに快適である。高速道路ではエアコンが必要なく、窓を少しあけるだけで爽やかな風が車内を吹き抜けていく。助手席に座ったルドルフはごきげんだった。ルドルフのために昨日の日曜日、カサドンはチャイルドシートを買ってきたのだという。お金のことを聞いても「ルドルフはみんなの子ですから」と細かいことを教えてくれない。明くんとのぞみもカンパしてくれたのだそうだ。


「ノルトラントを思い出すね」

 そう言うルドルフにカサドンは激しく同意している。それどころか、

「なぜ真美先輩は千葉へ行っちゃったんだろ。こっちはこんなに気持ちいいのに」

などとぼやいている。私も1年修二くんと別居だったから、その気持はよくわかる。

「休みに会いに行ってあげなよ、カサドン。真美ちゃんよろこぶよ」

「真美先輩はですねぇ、稼ぎがある方が行くよ、て言ってくれてるんすよ」

「そりゃそうだけどさぁ、女としては来てくれたら、嬉しいと思うんだ」

「それって僕が全然行けなかったこと、怒ってる?」

 突然修二くんが発言し、私はちょっと慌てた。

「そんなことないよ。それにさ、カサドンが行け、行けってしつこいんだよ」

「何言ってるんすか、聖女様、修二くんが、修二くんがって、結構ウザかったんすよ」

「うるさい!」

「アハハハハハ」

 ルドルフが大笑いした。

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