9:朝
朝日の眩しさで目を覚ました。
薄いカーテンでは遮ることのできない日差しが差し込む。疲れていたからか、ベッドに入ってすぐに眠りについた。
キラキラと眩い光を浴びる太陽の方をぼおっと眺め、その後に辺りを見渡す。
・・・ここはどこだったっけ?なんでお家じゃないの?
そんな事を考えながら再び閉じそうな目を擦る。頭が酷く重い。疲れが取れていない事だけはわかる。再び眠りにつきそうにうとうととしているわたしを現実に引き止めるかのように、部屋の扉が開いた。
「お前まだ寝てんのかよ」
低い声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声。何で聞いた事があるんだろう。
そんな事を回らない頭で考えていると、いつの間にかその声の主はわたしの側まで来ていた。
「起きろバカ」
ばしっと良い音を立ててわたしの頭を叩く。その衝撃に閉じそうだった目を思わず開く。そこにはフードをしっかりと被った男がいた。
その人をじっと見つめていると、だんだんと頭が覚醒していく。・・・あぁ、そうだった。昨日、わたしの家族は・・・。太陽の日差しの明るさとは正反対な感情を思い出した。もう思い出さない方が幸せだったんじゃないか。そんなことを考えてしまう。
そんな落ち込んだわたしを横目にウルフは口を開く。
「お前朝弱いだろ。」
ウルフの言う通り、わたしは朝が苦手だった。なんどまだ寝てるの?と母に怒られたか・・・
言葉を発する事なく、ウルフの投げかけにこくんと頷いた。そんな様子のわたしを半ば呆れながらウルフは椅子に座った。
今日はどうするつもりなんだろうか。
少しずつはっきりと目が覚めていくのを感じながら、自分のいま思っていることをウルフに伝える。
「ウルフ、わたし一度家に戻りたい」
昨日あれだけ探して町に居なかったのだ。
もしかしたら家に戻っていなくなったわたしを探しているかもしれない。そんな淡い期待をしていた。
そしてなによりもおばあちゃんのことだ。昨日は色々な事が起こりすぎて何もできなかった。せめてキレイにして埋葬するべきだと思っていた。
そんなわたしの言葉を聞いてウルフは何か考えるような素振りをする。
ダメだと言われたらひとりで戻るつもりだし、ウルフがついてくる理由もない。
「ま、いいんじゃねぇ?確かにあのままにしとくのはお前にはしんどいだろうしな」
決まりならさっさと行くぞ。そう言いながら椅子から立ち上がる。何故、一緒にいてくれるのだろうか。本当に疑問だった。
「ウルフはどうしてわたしと一緒に居てくれるの?」
「ん?まあ気にすんな」
「気になるよ。それに昨日町を歩いてみたけどウルフみたいな人誰も見かけなかった。どうしてウルフには耳や尻尾が生えてるの?」
聞こうと思って聞けなかったことと一緒に言葉を投げかけた。ただただ親切なだけではないのは昨日の夜の会話から何となく分かっている。
理由があるならちゃんと言って欲しい。隠し事をされるのは少し嫌だから。
それを教えてくれれば充分。昨日からずっと辛い事だらけの中ウルフがそばにいてくれたことは本当にわたしにとって大きかったから。だから、もう少し一緒に居たいって思えるからこそ、隠し事をされる事が少し寂しかった。
そんなわたしの気持ちを伝える前にウルフが口を開く。
「これは生まれつきだから理由は知らない。」
そういいながらフードに隠れた耳を指差した。
「見ての通り俺は普通じゃねぇ。こんなんだから俺は1人に慣れてる。けどお前みたいな世間知らずのお嬢さまがひとりだとそれこそ悪い事に巻き込まれるだろ?まあそうなっても俺には関係ねぇけど、けどまあ、暇つぶしになるしお前になんかあったら寝覚めが悪いからな」
そう言いながらウルフは顔を隠すようにフードを深く被り直す。フードのせいでウルフの表情は見えない。けど、それでも今のことはとても素直なウルフの気持ちなんだろうって思える言葉だった。
「そっか。じゃあウルフわたしから一つお願いがあるの。もう少しだけわたしに付き合って欲しい。わたしまだ気持ちの整理もなにもできてなくて、ひとりになったら苦しくて前に進めない気がするから、だから、わたしと一緒にいてほしい。」
とても素直な気持ちをぶつけた。ウルフはそんなわたしの言葉を聞いて少しだけ笑った。
「言われなくても」
その言葉に今度はわたしが笑顔になる。ウルフとまだ一緒にいられる事が純粋に嬉しかったからだ。