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3:お話


「こんな所にひとりじゃ危ないだろ?何してるんだ?」


低く落ち着いた声。大人の男の人というものはみんなそうなのだろうか?どこか妖艶な雰囲気を纏ったその人の声は言葉とは裏腹にどこか冷たさを感じた。

優しそうと感じたのは気のせいだったのだろうか?ほんの少しの後悔をしつつ顔がしっかりと見れる距離まで来た。

髪も瞳も漆黒のような黒。纏っているマントも黒く昼間なのに闇夜を感じる。失礼かもしれないけど花畑には到底似合わない風貌と雰囲気でどうしてこんなところにいるのか不思議だった。

物心がついた時からこの森に住んでいるけど人を見かけたことは一度もなかった。もしかしたら知らなかっただけでここに住んでいたのだろうか。


「おばあちゃんの家にお見舞いに行くところだったの」


恐る恐る質問に答えた。わたしをじっと見つめてくるその黒い瞳を見ていると吸い込まれそうな感覚になって思わずそらしてしまった。

感じ悪くみえてしまっただろうか。逸らしたあとにそんなことを考えても遅いかもしれない。けどそう思ってしまったんだもの。なんせ家族以外の人と話をする機会なんてないんだから知らない人とどうコミュニケーションをとっていいのかわからなかった。


「お見舞い?病気にでもなったのか?」

「調子が悪いみたいで。だからおばあちゃんの好きなアップルパイと赤ワインをもって様子を見に行くの」


そうか。と小さく呟いた。その人は何か考えるような素振りをしたあと続けて話した。


「ここから家は遠いのか?」

「この先をもう少し歩いたら大きな岩があるの。そこを左に曲がってまっすぐいったらすぐにあるわ」


わたしの言葉を聞いたその人はふっと小さく笑った。どうして笑うのだろう?なにかおかしなことを言っただろうか。そう疑問を抱いているとそれに気づいたかのようにその人はつづけた。


「そんなに遠くじゃないなら、ついでに花でも積んでけばいいんじゃねえか」


そうだ。元々そのつもりではいたがすっかり忘れていた。わたしはひとつのことを考えるので精一杯なのかもしれない。疑問に思ったことをその人に聞くことをすっかりと忘れてわたしは持っていく花をどれにするか真剣に悩みだした。

この森にもともと住んでいたのか。どうして耳や尻尾がついているのか。聞きたいことはたくさんあるのに・・・。



お見舞いの花を摘んで一通り満足したあと、ふと周りを見渡したがその人の姿はもうどこにもなかった。

ついぞや疑問を聞くことは叶わなくなった。ちょっとした後悔を胸にわたしはおばあちゃんの家に向かった。


もう一度あの人に会えるだろうか・・・

無意識のうちにそう考えていた。

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