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2:出会い

 

「赤ずきん起きなさい!」


遠くから聞こえる声で目が覚める。

心地よい睡魔から覚醒したのは母がわたしに話しかける声だった。

心地よい朝日が窓から差し、小鳥たちの囀りはまるでわたしを再び眠りへと誘うかのようだった。

もう一度眠りたい。そうまどろみながらも眠たい瞳を擦り身体を起こす。

普段ならうたた寝をするところではあるが、今日は予定がある。そのためにも起きなければ。

次第に覚醒していく頭でそう考えてわたしは部屋を出た。


「おはようお母さん」

「ようやくおきたのね。赤ずきん。もうお昼前よ?」


母にそう言われて驚いた。どうやらわたしはいつもより起きるのが遅くなっていたらしい。

遅くなってしまった原因はわかっている。

今日は体調の優れないおばあちゃんの家へお見舞いに行く日。

体調を崩してしまってから大好きなおばあちゃんに会えていなかったから、お見舞いという形でもおばあちゃんに会いに行けるのは嬉しかった。

早く明日にならないかしら?そう思いながらベッドに横になったせいか昨日はいつもより寝るのが遅くなってしまった。

それは昔幼い頃に母とおばあちゃんとピクニックに行く前のドキドキ感や楽しみという感情が膨らんだあまり目が覚めてしまっていた時に似ている。


幼い子供のような自分の行動に少し恥ずかしさを感じた。

わたしはもう18歳なんだからもっとしっかりしなきゃ。

そう心の中で呟き、母が用意してくれた遅めの朝ごはんを食べる。


母はとても料理が上手だ。それだけでなく家事全般を完璧にこなしわたしが遊び疲れて片づけをせずに寝てしまっても笑顔で直してくれる。母のような人になりたいと何度も思った。


そんなことを考えながら急いで食事をとる。

せっかくなら朝から出かけようと思っていたのだけれど予定がずれてしまった。

手早く食事を済ませ身だしなみを整えた。


「ほら髪の毛がはねてるわよ」

優しく櫛で髪を梳きながらそう言ってくれた。

丁寧に神を整えてくれたあといつもわたしが大切に使用している赤頭巾をつけてくれた。


「おばあちゃんから貰った大切なものだものね」


そう言った母に私は笑顔で頷いた。

幼い頃おばあちゃんがくれて以来大切にしている。

成長して赤頭巾が小さくなったときとても悲しくなって大きくなりたくない。とわがままを言ったこともある。

そんな時おばあちゃんは優しく微笑みその時のわたしにあうように見繕ってくれた。

あの時はほんとうに嬉しかった。それ以来合わなくなるたびにわたしに似合うようにプレゼントしてくれた。

今はもう赤頭巾というより鮮やかな赤いポンチョのようになっているけれど、それはそれでわたしも少しは大人になったのかな。と嬉しくて好きだった。


「おばあちゃんの好物のアップルパイと赤ワインを用意したわ。これを一緒に届けてくれる?」


そう言って母は籠をわたしに手渡した。

おそらく焼きたてであろう、りんごのとても良い匂いがする。

さっきご飯を食べたばかりなのに食べたくなってしまっていると、母は小さく笑い「盗み食いしちゃだめよ?」と言った。


「そんなことしないわよ、、!」

恥ずかしくて思わず強く言ってしまったが、相変わらず母は優しい顔をして「はいはい」と答えた。


「早く行ってらっしゃい。暗くなる前には帰ってくるのよ?夜の森は怖いから」


母の言葉にはっとした。今日は起きるのが遅くなってしまったのに準備に時間をかけていてはおばあちゃんの家にいる時間が少なくなってしまう。


「早くいかなきゃ!!お母さんいってきます!」


そう言い勢いよく家を出たわたしに母は「気をつけるのよー」と言い見送ってくれた。

わたしは通い慣れた森の中をまるで庭のように進む。嬉しさを隠しきれず笑顔になっているのが自分でもわかった。




森の中を歩いてどれくらい経ったか、ふとなにかの気配を感じ普段は気にも止めていない脇道で足を止めた。


脇道の先を目を凝らして見つめていると、そこには少し広い空間があり色とりどりの花が咲いていた。

思わず息が漏れてしまうほどの美しさだった。

その花をしばし見つめていた。

せっかくならお見舞いに綺麗なお花を持っていこう。

目の前に広がる光景をすこしでもおばあちゃんと共有したい。そんな気持ちもありわたしは普段は行かない脇道を進み始めた。

人があまり通っていないのか草木は生い茂り足元を掬われそうになる。下を見ながら気をつけて進んでいくとふと花畑の中心に人がいるのが見えた。


人がいる。どうしよう。わたしは途端に不安になった。母やおばあちゃんから言われていたのだ。私たち以外の人と関わってはいけない。と

何故関わってはいけないのか理由はわからなかったけど、私は母やおばあちゃんを信じているし2人が言うのなら間違いないと思っている。

お花を摘むのを諦めようとした時、そこにいる人がわたしの方を振り向いた。



少し驚いたような表情をしたその人はわたしを見つめていた。

おそらくわたしも同じように驚いた顔をしていただろう。だってそこにいる人はわたしの知っている人間とは少し容姿が異なっていたから。


少し離れたところからでもわかる大きな背丈。がっちりとした、それでいてすらっとした体格。

わたしは生まれて初めて男の人というものを見た。

けれど本当に驚いたのはそこではない。その人の頭には犬のような、獣のような耳。そして長い尻尾が付いていた。

人というものは動物のような耳を持っている人もいるのだろうか?そんな疑問が頭に浮かぶ。物心がついた頃から母とおばあちゃん以外の人と関わってこなかったから、それが普通なのかどうかも分からない。

予想外のことがあまりにも起きてその場から動けないでいるとその人はわたしの目をみて小さく手招きをした。


どうしてわたしを呼ぶのだろう。少し怖くなった。

人とは関わってはいけないと言われているからその場をすぐにでも離れるべきなんだろう。けど、それでもわたしは自分の中に芽生えた小さな好奇心に邪魔をされ離れる事ができなかった。

わたしが身動きが取れないでいると、その人はもう一度すこし大袈裟に手招きをしながら優しい笑顔を見せた。

少し距離が離れているはずなのに、笑っているのが何故見えたのかは分からない。けどその人の笑顔は母やおばあちゃんのような優しい人なんじゃないかってそう思わせてくれる笑顔だった。


わたしはその時初めて母のいいつけを破ってしまった。

ほんの小さな好奇心と当たり前の日常に現れた変化を感じ、罪悪感を胸に抱きながら恐る恐るその人の方へと足を進めた。


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