17:食事
お昼前のお店。がやがやとはしていたけど席が空いていたからすんなりと座ることができた。
すこし素っ気ない店主に渡されたメニューを見る。様々な料理名が書いてありどれを頼むか悩む。見たことある名前のものとそうでないもの。冒険したい気持ちもあるけど苦手なものだったらどうしよう。そんな事を考えていた。
「一日中悩むつもりか?」
ウルフにそう声をかけられた。肘をつきこちらを眺める姿は様になっている。
「そんなに悩まないもん。・・・サンドイッチにする」
しばらく考えた後そう言った。お腹が空いたとはいえたくさん食べれるわけでもない。手頃なものを選んだわたしを見て、ウルフは店員さんに注文をする。
しばらくして料理が運ばれてきた。美味しそうなサンドイッチに目を奪われる。
ウルフはこの時間にしてはとてもガッツリしたステーキを頼んでいた。まあ解釈一致というかなんというか。なんとなくお肉好きそうなイメージではあった。
男らしく豪快にお肉を頬張る姿を見ていたらウルフが何を思ったのかお肉を突き刺したフォークをこちらに突きつけてきた。
「どうしたの?」
「ん。」
見ていたから欲しがっていると思われたのだろう。
大丈夫と言っても下げられることのないフォークをみて、これは食べるまでどける気がないことを察した。
「・・・ん。おいしい」
思ったより脂っこくなく食べやすいステーキだった。かかっているソースもスパイスのしっかりとした味の中にサッパリ感もありとても合っていた。
ウルフはもぐもぐ食べるわたしを見て満足したのか、再び手を動かす。
わたしも自分の頼んだサンドイッチに口をつける。
「ウルフはこれからどうするの?」
常々思っていたことだった。何故かわたしと行動を共にする彼は一体なにがしたいのだろう。
「手配書なんてわざわざ出しやがったからな。もうこの町付近からは離れるつもりだ」
ステーキを頬張りつつ彼はそう言った。ここから離れる。それはつまりお別れ、ということだ。
それにどうしてウルフは手配書なんてものを出されるのだろうか。何か悪いことでもしていたのか。
そんな疑問が頭によぎる。それが表情に出ていたのかわたしが口を開く前にウルフが話す。
「俺は人とは違う。意味はわかるな?他人と違うってだけで狙われる事もあんだよ」
それは狼男と呼ばれていた事だろう。ウルフは生まれつきだと言っていたけど、それだけで命を狙われるだなんて本当だとしたらとても酷い話だと思う。
ウルフに聞いた話だと手配書には賞金が掛けられていてそれを狙っている悪い人たちがいること。
そういう悪いことをして生活をしている人たちに狙われるって事。そんなこといつまで続くんだろう。ウルフが安心して生きていくことは出来ないんだろうか。
昨日のような恐ろしいことがいつも付き纏ってる。そんな生活苦しくて辛い。どうしてウルフはひとりで耐えられるんだろう。
「俺は町を出るけどお前はどうすんの?」
そんな事を言われた。ウルフのことばかり考えていて自分の事を忘れてしまっていた。
わたしは、、、母が居なくなったこと、おばあちゃんが殺された理由ただそれが知りたいだけ。
それを知るために知らない世界に飛び出した。もう後戻りはできない。
「お母さんを探すよ。どうすればいいかまだわかんないけど」
尻すぼみに声が小さくなるのはこれから先の不安が隠せなかったから。
そんなわたしの言葉を聞いてウルフは言った。
「ついてくるか?」
その言葉を聞いて俯いていた頭をばっとあげる。ウルフは真っ直ぐにわたしを見ていた。その言葉は少し嬉しかった。
「ついてくるって事は昨日みたいなことが起こるって事だ。俺を怖いと思うなら、怖い思いをしたくないならオススメはしねぇ。どうする?」
昨日のウルフは別人のように怖かった。助けてくれた人に対して失礼なのかもしれないけど、そう思った感情は嘘じゃない。そしてそれがこれからも続く。想像ができない。これから起こる事が。
けどそれでもなんの頼りもなくひとりで彷徨うより良いんじゃないかって思う。それに、わたしは、心のどこかで彼と離れることが少し寂しく感じてる。
この感情がなんなのかわかんないけど、それでもひとりぼっちになるのもひとりぼっちにさせるのも嫌だった。
「ウルフは嫌じゃないの?わたしと一緒にいること」
そんな事をいうわたしの顔をウルフは真っ直ぐ見つめる。その視線が少し気まずくて思わず目を逸らす。
「・・・ふっ」
ウルフが小さく笑う。何が可笑しかったのかわたしにはわからなかった。
「一緒にいて欲しいって言ったのはお前だろ」
・・・そうだった。初めて町に来た朝、わたしがそうお願いしたんだった。
色々ありすぎてそんなこと忘れていた。それなのにウルフはわたしの言葉を忘れずにいてくれていた。
「こわいけど、この先何が起こるかわからないのは変わらないから。だったらせめて貴方と一緒に行きたい」
それを伝えるとウルフは小さく笑ってわたしの頭を撫でる。小さな子供にするように、ゆっくりと撫でるその手は大きくてとても頼りになると思った。




