15:孤独
今日は間違いなく自分の人生で1番絶望を感じた日だと思う。
母の家に出向いた時には既に遅かった。
血の匂いと母の姿。引っ掻かれたかのような傷口は深く、一目で息がないことが理解できた。
こんなにも大きな声を出して泣いたのはいつ以来だろう。もしかしたら初めてかもしれない。
私の事をいつも想い、私の立場を憐れみ協力してくれた母には返せないほどの恩があった。それなのに、なぜこんなことになったのだろう。
枯れる事なく溢れる涙を溢しながらも部屋を見渡す。居ない。今日間違いなく見送ったはずの娘が。
半ば狂ったかのように娘の姿を探す。どこにも居ないどうして?
娘にまで何かあったら私は本当にどうして良いのかわからない。
冷静になれと自分に言い聞かせる。
まずは無惨な姿の母を弔うことにする。こんな姿のままでいさせたくはなかったから。
母の家の裏にある木々の間に大きな穴を掘る。
母がゆっくり眠れるように、泥まみれになりながら夢中で掘った。
綺麗なシーツに母を包み、誰よりも丁寧に母を穴に入れる。
最後のお別れをするのに時間が掛かった。土をかけて埋めることがどうしようもなく、苦しくて悲しかった。
どれくらい時間がたったのだろう。自分の気持ちを整えてようやく母を弔った。私は覚悟を決めたように涙を拭う。娘のことを探さなきゃ。あの子は母の姿を見たのか。現場にいたのか。無事なのか。不安なことばかり考える頭を振り、家へ戻る。
「どうなっているの・・・」
戻ってきた家は荒れていた。特に私の部屋は色々ひっくり返されていた。
娘の部屋にゆっくりと入ると期待していた人はそこにはいなかった。
「どこにいったの、赤ずきん・・・」
涙声でそう言っても誰にも伝わることはなかった。
彼女の部屋で膝をつき途方に暮れるしかなかった。
どうしてここが?あの方が仰っていた人?けどそれなら私の家が荒れている理由は?
私の部屋を特に物色しているような理由はなに?
考え続けていると、ふと思う。
もしかして、彼女に生きているのがバレてしまったのか。
そんな事はないと信じたい。あの方が既に私は死んだことにしてくれているし、バレないために人里離れた場所で生活をしてきた。娘にも他人と関わらないように言い聞かせている。
何が目的なのか、本当に理解できなかった。
それでも私にできることは一つしかない。
部屋に戻り、紙とペンを机の引き出しから取り出す。
本来あの方に私から連絡することは許されていない。けどどうしようもない時の緊急連絡は許可されていた。あの方にとってこの出来事が緊急ではないのは分かってる。けどそれでも、私が頼れるのはあの方だけだから。




