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14:裏側

町は賑やかで森の中の静寂が嘘のように感じる。この賑やかさが私は少し苦手だった。

定期的に町に来るたびにそう感じる。


いつもの宿屋。店主は私の顔をちらりと見て、笑顔になる。いつものように猫なで声で挨拶をする。それに返事を小さくすると部屋の鍵を渡される。

その鍵を握りしめ私は奥の廊下を進む。通常宿屋の部屋は二階にある。けど私は二階に上がったことが一度もない。

廊下を進んだ先にある扉を見つめる。小さく息を吐き扉の前で立ち止まる。どくどくと激しく鳴る心臓を落ち着ける。


ガチャ


鍵を開けドアノブを回す。部屋に入ると奥にあるソファーに一人の男が座っている。その人と目が合うと自然と気持ちが落ち着くような気がする。


「久しぶりだな。元気にしていたか?」

「はい。あなた様もお変わりないでしょうか」

「ああ。今日は急遽呼び立ててすまんな」


男は近づいたわたしの手を握る。その大きく温かい手に引かれ私は彼の隣に腰掛ける。


「娘はどうした」


優しくも厳格な声にそう言われた。娘のことを少しでも気にかけてくれているのだろうか。そう思うと少しうれしく感じる。


「あの子は今日母の家に行っています。連れてくるわけにもいきませんから」

「今日はあまり時間がない。端的に話だけをする。お前の住む森に悪人が住み着いたという噂がある。あの森で知らない人間を見ていないか?」

「見ておりません。・・・どうしましょう。あそこに住むのはもうやめた方が良いでしょうか」


私たち以外の人間が森に住みつくというのであれば、最悪移住を考えなくてはならない。

それがこの人との約束だから。


「森に人を送る。しばらく家から出ないで大人しくしておきなさい」

「わかりました。母の家も安全でしょうか」

「私に出来ることは君の家のみの安全確保だということだけ伝えておく。君たちの存在が知られては面倒だ。不要に存在がバレることがないよう最小限の情報のみ送る人間に伝える」


母の家は安全ではないということだ。この方の立場を考えれば仕方のないことなのかもしれない。それでも家族の身の安全を考えてしまうと少し不安を感じる。


「娘と母とともにしばらく家にいるように致します」

「何かあっても私とのことは他言しないように」

「承知しております」


それが約束だから。いや、私たちの身を守るためと言っても良い。この方の正妻に私がまだ生きていること、娘を産んだ事をバレてしまえば何をされるかわかったものではない。

以前会った時も、まだ正妻との子ができないと嘆いていた。けど彼女はこの方に妾がいる事がどうしようもなく許せない。この国における後継問題の重大さより彼女は独占欲と嫉妬心に塗れている。

・・・もちろん、愛する人が他の女性と関係を持つ事を良く思うものは誰もいないだろう。

それは私だって同じだから。それでも正妻でいられるだけ良いと思うのはきっと立場の違いからなんだろう。


いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

娘と母の安否を確認するため、そのために急いで家に帰らなくてはならない。

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