13:戦
豪快に笑う声。狂気に満ちた顔。何も言えずにただただその光景を見ていることしかできない。
細身の男が近づいた瞬間、ウルフは大柄な男の腕を掴んだままの状態で細身の男を蹴り飛ばした。
そんな力があったのかというくらい勢いよく吹き飛んだその瞬間、大柄の男が動いた。空いている左手でウルフを殴ろうとする。そんなことわかっていたかのように、ウルフは掴んだ腕をそのままに男の背後に周り攻撃を避ける。腕を捻りあげられた男は小さく呻き声をあげる。
そんな声も気にせずにウルフはすかさず大柄な男の背中に膝蹴りを入れる。
ドサッと地面に膝をついた男の顔はイライラしているのか歪んでいた。
「流石化け物ですねぇ、その図体でよくそんな力が出ますねぇ」
蹴り飛ばされた男が言う。すでに体勢を立て直しウルフの背後にまわっていた。
「あ?お前らがひ弱なだけだろっ!」
そう言いながら回し蹴りをする。細身の男はさっと後ろに引き攻撃を避ける。けどそんなの分かっていたかのようにウルフは間合いをすぐに詰めて男の顔面に一撃入れる。流石に避けれなかったのかモロに入った拳。男の鼻から鼻血が出ている。
次の瞬間斧を構え直した男が勢いよくそれを振り下ろす。
振り下ろされた先にウルフの姿はない。表情ひとつ変えず男の左腕を掴みそのまま腕を始点に男を背負い投げて地面に叩きつける。
地面に叩きつけられた男が立ちあがろうとした瞬間ウルフがお腹を踏みつけそれを制した。
「殺す気あんの?」
そう小さく言った。ウルフがここまで強いだなんて思ってもいなかったのは多分わたしだけではないはず。2人の男の表情に余裕は最早なくなっていた。
「狼っつっても人間には変わんねぇ。本気でやんぞ」
大柄の男が低く唸る。その声に返事するかのようにもうひとりが素早い動きで間合いを詰める。
その速さに負けることなくウルフは攻撃を防ぐ。今度は大柄の男が間合いを詰めて攻めてきたが、ひらりとかわした。大柄な男の攻撃が細身の男に直撃した。
けどそんなことお構いなしに大柄な男は振り向きすぐに斧を振る。
まるでそんなの意味がないかのようにかわしたウルフがすかさず男の顔面に膝蹴りを入れる。ぐはっ!そう言いながら男は再び膝をつく。
そんな様子をなにも言えずに立ち尽くしているわたしの視界にふと細身の男の姿が見えた。
嫌な笑顔をわたしに向けたのを見て嫌な予感がした。
距離を置こうとした。けどその時にはすでに目の前に細身の男がいた。
「正々堂々戦うとは言ってませんからねぇ」
そう言いながらわたしの髪を掴む。引っ張られた瞬間痛みを感じた。反撃なんてできないわたしは痛みで声を上げた。
「弱いやつの考えることだな」
その瞬間痛みがなくなった。髪を掴んだ腕はそのままなのに、どうして。そう頭で考えていると同時に目の前の光景を見た。
男の腕は膝から先がないのだ。隣に立つウルフの腕には大柄な男が持っていたであろう斧があり、その斧は赤い血が滴っている。
「ぎぃぃやぁぁーーーーっっ!!!!」
叫び声の主は先がなくなった腕を反対の手で抑えて痛みに悶えている。
「ころす!!!ぜっったぁいに!!!」
理性のかけらも感じられない男はウルフに飛び掛かる。そんな男の首をウルフは持っている斧で簡単に、切り落とした。
ぼとん。という音がした。残酷な光景をみたわたしはもう声も出ない。
恐怖と痛みで涙が滲む。そのぼんやりとした視界でいつの間にか大柄な男も血まみれで倒れている姿が見えた。
どれくらいの時間がたったのか、嫌、そこまでの時間は経ってないはず。それでも、命がふたつも、簡単に奪われるとこ、もしかしたら自分がこうなっていたのかということ。あまりの出来事に頭がついていかない。
細身の男の血で汚れた顔を拭う指先。
目の前にウルフの顔がある。すこし悲しげな顔をしたウルフがわたしを見る。
「俺が怖いか?」
どう返事をすれば良いのだろう。怖い。今までとは別人のような雰囲気で人を殺める彼を怖くないと言う方が可笑しいと思う。
けど、それでも彼が自分を救ってくれた事実は何も変わらない。
それにウルフはどうしてそんな表情をするんだろう。
正しい返答が何が考える。どう返せばいいのか。分からない。
そもそも正解の言葉はあるんだろうか。彼がどんな言葉を望んでいるのかわたしにはわからない。
だったらもう思っている事を伝えるしかない。
時間をかけて考えたわたしは小さく彼に言う。
「わたしは、ウルフがこわいよ。」
悲しげな瞳をしっかりと見つめそう言った。けどそれでも、彼に言いたいことがある。
「こわいけど、それでも、助けてくれて、ありがとう」
そう言いながら涙を流したわたしに彼は何を思ったのか。そんなことわからない。腕を引かれ強くウルフに抱きしめられる。力が強くて壊れてしまうんじゃないかって思いながらもこわいと思う彼に抱きしめられる事が、嫌だと言うふうには思えなかった。




